数々のITスタートアップ企業を支援し、今では一般企業のソフトウェア開発体制確立を助けている米Pivotal Software CEOのRob Mee氏は、「一般企業でも、GoogleやUberと同等かそれ以上、ソフトウェア開発に長けた組織をつくれる可能性がある」と話す。同氏に、一般企業がソフトウェア企業とどう戦えばいいのかを、できるだけ具体的に話してもらった。
「一般企業はGoogle、Facebook、Twitterのような、ソフトウェア企業に変身していかなければならない」という言い方が聞かれるようになって久しい。とはいえ、十分な中身の伴わないIT企業の宣伝メッセージであることも多い。
だが、米Pivotal Softwareを率いるRob Mee氏には、このトピックについて語る資格が十分にあるといえる。同氏は1989年にPivotal Labsを共同創業して以来、Twitter、Uberなど多数のITスタートアップ企業のソフトウェア開発体制確立を支援してきた。特に2000年代後半からは、アジャイルな開発手法のノウハウを、ペアプログラミングなどを通じて顧客組織のプログラマーに伝えるというトレーニングが、同社の評価を高めた。
Pivotal Labsは2012年EMCに買収され、同社が設立したPivotal Softwareの一部門となった。その後は顧客対象を一般の大規模企業にシフトし、以前と同様な活動を展開している。Mee氏は一貫してこの事業の総責任者であり続け、2015年8月にPivotal SoftwareのCEOに就任した。つまり、同氏はITスタートアップ企業と一般の大規模企業、双方のソフトウェア開発に関する実情を知る人だ。
@ITではMee氏に、一般企業のソフトウェア企業との「戦い方」を、できるだけ具体的に話してもらった。
Mee氏は、大規模な一般企業の間で、自社の事業がソフトウェア企業から壊滅的な打撃を受ける危険性が増大しているという認識は、少なくとも米国では急速に広がっていると話す。
「例えば、ある米国金融機関に、『ソフトウェア企業からの脅威をどう感じているか』と聞いたところ、『もちろん感じている。当社に致命的な打撃を与えかねないスタートアップ企業60社をピックアップし、何をやろうとしているのか、事業構築は順調に進んでいるのか、資金調達はどう進んでいるのか、といった点について綿密な情報収集を続けている』と答えた」
ソフトウェアを武器とするITスタートアップ企業は、多くの場合、既存企業をターゲットとし、ITを駆使して価値をどれだけ奪えるかを考え、実行してくる。これが分かっているなら、一般企業は、ソフトウェア開発を推進するだけでは済まない。ソフトウェアをコアコンピタンスとする企業になるより他に選択肢はないという。「ソフトウェア開発を外注で済ませることはできない。自社でソフトウェアを知り尽くし、これを通じて事業を作っていかなければならないからだ」
では、一般企業は具体的に何をしたらいいのか。アジャイルな、新しいソフトウェア開発手法を採用し、これをビジネスに結び付けられる体制づくりをする必要があるという。「モダンな、アジャイルなソフトウェア開発のメソドロジを、企業の社内ソフトウェアエンジニアに身に付けてもらう必要がある。Pivotal Labsでやってきたのはこのことだ」。
そうはいっても、一般企業は所詮、Twitterのような企業のソフトウェア開発能力を持てないのではないか、と聞くと、Mee氏はこう答えた。
「一般企業でも、GoogleやUberと同等かそれ以上、ソフトウェア開発に長けた組織をつくれる可能性がある。とんでもない話に聞こえるかもしれないが、私はそう信じている」
そう言える根拠は、現在は名の知られたWebサービス企業のソフトウェア開発体制づくりを支援してきた実績が、Pivotal Labsにはあるからだという。著名なクラウドサービス企業でも、最初から現在のような能力が備わっていたわけではない。場合によってはPivotal Labsによるトレーニングなどを受けながら、現在の形を作り上げてきた。今度は同じことを、一般企業がやればいいだけだ、とMee氏は話す。
「Pivotal Labsは当初、ITスタートアップ企業の開発体制立ち上げを支援していた。今では一般企業がITスタートアップ企業と同じようなことをやろうと考え出している。私たちのメッセージは、『あなたの会社だって、100年前かもしれないが、創業当初はディスラプター(破壊者)だったはずだ。ソフトウェア開発でスタートアップ企業と同様な能力を身に付けて、再びディスラプターになろう』ということだ」
「一般企業が優れたソフトウェア開発能力を身に付け、自社のこれまでの事業経験やノウハウを組み合わせられれば、これを打ち負かすのはGoogleであっても容易ではない。また、Googleは今でも広告事業という単一の収益源に大きく依存しており、Amazonは最近まで,儲けを出していなかった。これに対し、成功している一般企業は、強固な事業基盤を築いている。この点でも一般企業にアドバンテージがある」
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