一般企業がソフトウェア開発能力を身に付けるメリットは、ソフトウェア企業からの脅威に対応できることだけではない、とMee氏は続ける。
「ディスラプターに対して自社を守れるだけではなく、同じ産業の他社をディスラプトすることもできる。望むなら、他の分野に参入することもできる。デジタルへの変化で、新しい事業機会が次々に生まれているからだ。だから私たちは、『これまでの成功要因である事業ノウハウを失わないようにしてください、一方でソフトウェア能力を身に付けることで、事業をどのような方向へでも持っていけるように備えてください。この2つは、疑いなくあなたの会社の差別化に欠かせないものですから』と話している」
@ITでは、さらに具体的に、大規模な一般企業における課題を聞いてみた。質問とMee氏の回答は次の通りだ。
――既存の大企業が不利な点として、官僚主義的、社内政治的な部分が挙げられると思う。どう改善すればいいのだろうか。
確かにそれは課題になる。小規模なスタートアップ企業なら、いいと思ったことをすぐに実行に移せる。だが、大企業になると、「いいことかもしれないが、これをやるために今までのやり方を変えなければならない。これに会社としてコミットするのか、しないのか」と考えてしまう。
ソフトウェア開発体制とは別に、この点で一般企業には助けが必要だ。そこでPivotal Labsでは、「トランスフォーメーション・グループ」という組織を立ち上げた。このグループは、優秀な人材の雇用や労働環境の変革など、人事面をはじめとして一般企業が変えなければならない点につき、支援を行っている。
――IoT(Internet of Things)がいい例だが、一般企業が事業のために、より直接的に活用できるようなクラウドサービスが次々に開発され、提供されてきている。ソフトウェアを内製するよりも、こうしたサービスを活用する方が手っ取り早いのではないか。
ガートナーは、「2020年までに、一般企業においてデジタルビジネスを支える新規アプリケーションの75%は、自社でカスタム開発されるようになる」と言っている。企業にとってソフトウェア開発の戦略的重要性が増すほど、差別化のために内製の動きが強まってくる。
賢い企業は、自社の差別化につながらないものについては利用に徹し、自社の差別化につながるものについては自社で開発するようになっていくだろう。また、オープンソースソフトウェアの勢いが強まっている。オープンソースを活用して、自社のソフトウェア開発を加速する一般企業が増えていくはずだ。
ただこれは、何が自社の差別化に直結し、何が陳腐化していくのかに関してインテリジェントな決断を迫られる場面が増えてくるということでもある。全てのソフトウェア開発を他社に依存してきた大企業は、これを判断できる人がいない。何にどう投資すべきかを評価できる人材が必要だ。これは企業の長期的な価値につながってくる。
――テクノロジーとビジネスの橋渡しをする人材を見つけるのが難しいという点でも、一般企業は不利なのではないか。
それは面白い質問だ。Pivotal Labsがスタートアップ企業と仕事をしていたころ、私たちがこうした企業における最大のウィークポイントと考えていたのは、プロダクトマネジメント、つまり企業のビジョンおよび事業と、そのために構築されなければならないアプリケーションとの間の橋渡しをする役割を果たす人材だ。創業者がこの役割を担う場合もあったが、うまくいかないケースが多かった。
そこでPivotal Labsでは、プロダクトマネジメントを支援するサービスも開発した。ソフトウェア開発におけるペアプログラミングと同様に、顧客となりそうな企業の人を連れてきて、この役割に適した人材を見出すサービスを提供した。
当社ではさらに、社内あるいは社外の適切なプログラマーやデザイナーを見出すサービスを提供している。これは非常に難しい取り組みで、当社としてもノウハウを獲得するのに長い時間がかかった。だが、決定的に重要なポイントであることは確かだ。
Mee氏に、2015年で感じた最大の変化を聞くと、アジャイルソフトウェア開発の必要性に関する認識が一般企業の間で広まったことだと答えた。
「5年前は、一般企業から『なぜウオーターフォールに比べていいのか、リスクはないのか』と聞かれ、議論になることもよくあった。今はそうした議論をすることは全くない。一般企業の方から私たちに対し、『こうした開発スタイルを、どれくらい早く社内で展開できるだろうか』と聞いてくるようになった。
私は先日、一日で10の米国連邦政府機関と会ったが、全てがアジャイルソフトウェア開発に取り組もうとしていた。この波が大きなうねりとなろうとしているのを感じる。韓国や日本でも、少し遅れながら、同様な波が起ころうとしていると思う。
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