OpenStack Foundationはエンタープライズ利用にどう取り組んでいるかオープンソースとエンタープライズの関係(1)

クラウド基盤のOpenStackは、金融機関や製造業における導入が進展する兆しを見せている。では、 OpenStack Foundationは一般企業における今後のOpenStack普及をどう支援しようとしているのだろうか。幹部に聞いた。

» 2016年08月18日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

 ITのさまざまな分野で、一般企業におけるオープンソースソフトウェアの利用が広がりつつある。主な理由はいくつかある。根本的には、IoT、FinTechトレンドの本格化を受けて、ITサービスが収益・ブランド向上の重要な手段となるなど、一般企業がテクノロジー企業と広い意味で同様な活動を、今後強化していかなければならないという認識が広がりつつあることにある。

 テクノロジー企業、そしてWebアプリケーションの開発者の多くは、オープンソースソフトウェアを活用してきた。一般企業においても、一般企業においても、Webアプリケーションの高速開発を狙おうとすれば、開発者たちは自然にオープンソースソフトウェアの活用を指向することになる。

 一方、一般企業によるオープンソース活用では、サポート面のみならず、ダイナミックに変化する技術をどう活用していくか、何を組み合わせていくのか、利用における組織としてのガバナンスをどう考えるべきかなど、課題も多い。本連載ではこうした観点から、さまざまなオープンソースソフトウェアプロジェクトと一般企業の関係を探る。

OpenStack Foundaitonは一般企業のために何をしているか

 今回は、連載第1回として、OpenStack Foundationが一般企業におけるOpenStack普及に向けて何をやっているのかにつき、OpenStack FoundationのCOOおよびExecutive Directorに直接聞いた内容をお届けする。

 OpenStack FoundationのCOOであるMark Collier(マーク・コリア―)氏は、日本OpenStackユーザ会が2016年7月に開催したOpenStack Days 2016で、OpenStackが普及期を迎えていることを強調した。同ファウンデーションが半年に1度実施しているユーザー調査で、グローバルでの全導入プロジェクトのうち本格運用段階に達したものが、1年前の同調査と比較して約33%増の65%だったという。

 このユーザー調査は、ファウンデーションのWebで実施され(言語は英語のみ)、通知はファウンデーションの活動と関係のある人々に対してのみ行われているため、回答に偏りがあることは十分想定できる。それでも、傾向を知ることができるという点で、意味がある。

 導入件数を産業別に見ると、IT、通信、教育/研究が大部分を占めており、2016年春の調査ではこれら3つの産業の合計が83%となっている。この調査において、一般企業は残りの17%の一部ということになる。だがCollier氏は、過去2年ほどで、一般企業の導入事例が大幅に増えたといい、金融機関のWells Fargo、VISA、American Express、自動車メーカーのBMW、中国の電力会社State Gridなどの名を挙げた。

 では、この1、2年で一般企業のOpenStack導入が目に見えて進展している理由は何なのか。時間がそうさせたのではないのか。つまり、一部の一般企業がデジタル・トランスフォーメーションに取り組まざるを得なくなり、一方でパブリッククラウドの活用が進んだ企業の中から、一部のワークロードをオンプレミスに移したいと考える企業が出てきたのではないか、とCollier氏に聞くと、同氏は「そういう側面もある」と答えた。

 「企業の事業戦略の一環として、ソフトウェアの開発を考えなければならない企業が増えている。例えば自動車メーカーは車を作ることに長けているだけではだめで、タッチスクリーンや自律運転など、デジタル体験を生み出さなければならなくなった。従来とは全く異なる競争だ。これがクラウド、そしてOpenStackの採用を促している。

 (筆者が指摘した)もう1つの点についても、そうだと思う。パブリッククラウドでクラウドの利用を始めた企業の中で、多様化するクラウド上のシステムを制御し、社内データと接続するために、大規模なプライベートクラウドを構築する企業が多くなってきている」

 Collier氏は、「ハイブリッドクラウドの構築を見越して、パブリッククラウドでもOpenStackベースのものを選択するケースが増えている」と続ける。前出のユーザー調査でも、OpenStackを採用した理由として回答者の97%が、「世界中で、標準APIによってプライベートおよびパブリックのクラウドを利用できる標準プラットフォームだから」という点を挙げているという。

トレーニングや情報交換の環境を整備

 では、OpenStack Foundationは、一般企業におけるOpenStackのユースケース拡大に、どう取り組んでいるのだろうか。OpenStack FoundationエグゼクティブディレクターのJonathan Bryce(ジョナサン・ブライス)氏は次のように話している。

 「OpenStackのソフトウェアは急速に成熟度を高めており、特に一般企業のユースケースに適合するようになってきた。これにより、過去1年間、一般企業における多数の従来型ワークロードがOpenStack環境に投入されるようになった。OpenStack上でOracle Databaseを動かす例も増えている」

 Bryce氏は、一般企業におけるOpenStack普及に向けたOpenStack Foundationの取り組みとして、トレーニング/教育、そして一般企業を対象としたOpenStack関連製品/サービスを提供するIT企業の支援、の2つを挙げる。

 「(トレーニングについては)OpenStack Certified Administrator(OpenStack認定アドミニストレーター)という資格を創設した。この資格の保有者を最も求めているのは企業だ。企業はこうした人たちに、自社ニーズの充足を助けてもらうことができる。もう1つの取り組みは、一般企業におけるIT利用を支援するベンダーへの支援だ。特に日本では、強力なITベンダーが存在する。これらの企業は多くの経験とノウハウを蓄積してきており、一方でOpenStackコントリビューターとして、活発に活動している。こうした企業が、一般企業のOpenStack利用を助けることができる」

 また、Bryce氏は、OpenStackの優れている点として、各人が学んだことを他の人々と共有できることを強調している。そしてOpenStack Foundationは2014年以降、さまざまな組織におけるOpenStackのオペレーター(運用担当者)がお互いに情報を交換し、意見を述べる場として、「Ops Meetup」を創設、2014年5月のOpenStack Summit Atlanta 2014以降、半年に1度開催されるOpenStack Summitで毎回実施されている。

 Ops Meetupは、OpenStackの開発リーダーたちに対して要望をぶつけることで、利用者が開発に影響を与えられる機会ともなっている。Ops MeetupはOpenStack Summitの間にも開催されているが、同ファウンデーションはこの活動をさらに拡大している。

 まず、地域イベントとして日本OpenStackユーザ会が世界で初めて開催した「OpenStack Days」を、世界中のさまざまな都市で展開するようになった。同時にこれらのイベントでも、Ops Meetupを開催することになった。そして、OpenStack Daysにおける初めてのOps Meetingが、2016年7月のOpenStack Days Tokyo 2016で実施された。

 こうした活動を通じて、ユーザー組織やこれを助けるIT企業が一緒になって、OpenStackを作り、使いこなし、支えていく環境を維持し、拡大していくことが、OpenStack Foundationにできる一般企業支援で最も重要なものなのだという。

 つまり、OpenStack Foundationは、ユーザー企業が直接コミュニティの活動に参加できない場合でも、それらを支援するインテグレーターやサービス提供者が、ベストプラクティスやノウハウを学べる機会を増やすことを通じ、間接的に一般企業の導入を支援することを狙っているようだ。

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