若手が知らないメインフレームと銀行系システムの歴史&基礎知識FinTech時代、銀行系システムはどうあるべきか(1)(2/2 ページ)

» 2016年09月12日 05時00分 公開
[星野武史日本アイ・ビー・エム株式会社]
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ポスト3次オンラインシステム〜現在

 第3次オンラインシステムは、先述のように「半永久」のシステムライフを持つもので、現在でも当時のシステムを使用していますので、「ポスト3次オンラインシステム」と呼ぶのは正確ではないと考えます。ここでは第3次オンラインシステムの構築以降、目立った変化について触れたいと思います。この幾つかの変化を見れば第3次オンラインシステムが現在まで活躍している理由も分かると思います。

「ハブアンドスポーク」アーキテクチャの採用

 十分に検討を重ねて構築された第3次オンラインシステムですが、より柔軟性のあるシステムへの移行は常に検討されてきました。幾つかの銀行で採用されたものに「ハブアンドスポーク」アーキテクチャがあります。「ハブアンドスポーク」では、図4のように個々のサブシステムのアプリケーション連携に必要なメッセージ交換を「ハブ」と呼ばれるサブシステム経由で行わせる方式です。個々のサブシステムを別のシステムに入れ替えたり、新たな業務を追加したりすることが、ハブシステムで吸収されるため、他のサブシステムへの影響が少なくなるというメリットがあります。

図4 ハブシステム概念図

銀行提携合併などによるシステム統合

 一般社団法人全国銀行協会が『最近の銀行の合併を知るには』で、1989年(平成元年)以降の提携・合併リストをまとめているように、近年、多くの銀行が厳しい経済環境を生き抜くために提携・合併を行い、競争力を保ってきています。それぞれの銀行で保持していたシステムも提携・合併に伴い統廃合が行われたことは想像に難くありません。

 まずは安全にシステム統合を行うことが最優先課題でしたので、新システムを構築し直すのは後回しになりました。このシステム統合にも先述の「ハブアンドスポーク」アーキテクチャが、図5の例のように採用されています。

図5 システム統合概念図

システム形態の多様化

 第3次オンラインシステムは、メインフレーム上で稼働し、本支店および銀行所有のATMを中心とするシステムで構成されていたのは、先述の通りです。しかし、ITの技術革新や銀行を取り巻く経済環境の変化で、従来のシステム構成とは異なる形態を一部ないしは全面的に採用したシステムが登場してきています。

 ここからは、従来のシステム構成とは異なる形態について述べていきます。

  • 災害対策システムの登場と高度化

 オンラインシステム構築時から災害、特に地震への対策が検討されていました。しかし、現在のようにディスク装置にミラーリングの機能がなかったので、バックアップテープを遠隔地に保管するのが主流となっていたのです。それでは災害が発生してから業務再開まで最低でも1週間程度はかかってしまうため、業務の再開を早めるための工夫が行われました。

 都市銀行はDBMSの機能で遠隔地にDBをリアルタイムにコピーするシステムを1990年代後半から構築。地方銀行は「テープ疎開」が主流で、再開時間を短縮するために、テープ搬出方法を工夫していました。ディスク装置によるミラーリング機能ができてからは、地方銀行でもディスク装置機能による災害対策システムが構築されるようになります。図6では災害対策システムにおける高度化のイメージを示しています。

図6 災害対策の高度化概念図
  • コンビニATMの登場と普及

 「コンビニATM」は1990年代後半に、金融機関ではないATM運営会社が銀行と提携してコンビニにATMを設置したのが始まりです。現在ではコンビニにATMがあるのが普通で、一種の社会インフラ化していると考えてよいでしょう。銀行にとっては「重要なチャネルの1つ」であり、コンビニ業界にとっては「顧客サービスの重要アイテムの1つ」で、利用者にとっては「銀行ATMよりも身近で利用できる時間も長い場合が多い」という3者の利害が一致して普及したと考えられています。なお、コンビニATMと銀行オンラインシステムとの接続形態は、運営形態によって異なります。

  • ネット専業銀行の登場

 2000年以降、実店舗を持たない、いわゆる「ネット専業銀行」が登場しました。都市銀行でも1990年代後半からインターネット経由の残高照会や振込予約受付を開始。「インターネットバンキングでの取扱業務を他の業務にも拡大し、店舗や人員コストを削減する代わりに金利や手数料の面で優遇する」コンセプトの下、新たな銀行として登場してきています。既存の銀行では勘定系システムとは別にインターネットチャネル用のシステムを設置していますが、ネット専業銀行は独自の勘定系システムを構築しています。

 今後もインターネットの重要性は減ることはないと考えられるので、ネット専業銀行も含めてインターネットに対する銀行チャネルの必要性が増していくと考えられます。

  • システム共同利用化の浸透

 共同利用化の最大の目的は、複雑になったシステムの開発・維持コストを削減することです。日本銀行が金融機関におけるIT活用状況をまとめた資料によると、既に7割以上(※)の地方銀行・第二地方銀行が何らかの形で勘定系システムの共同利用を推進しています。システム共同化利用によって、勘定系システムのコスト削減は、現在まで一定の成果が出ています。

※参考:日本銀行金融機構局2016年3月制作『ITの進歩がもたらす金融サービスの新たな可能性とサイバーセキュリティ』PDF p.5 図表3

 今後は「攻めのシステム戦略アライアンス」という形態で基幹系システム以外のシステムも含めてさらなる共同化が推し進められていくと考えられます。

  • オープン系勘定系オンラインシステム登場

 2000年以降、幾つかの地方銀行・第二地方銀行の勘定系システムは、ハードウェアおよびソフトウェアの初期費用の軽減と開発サイクルの短縮を目的に、従来のメインフレームからオープン系システムへと移行しています。独自開発ではなく、共同システムとしてオープン系システムを採用する例が多いようです。

 2003年にUNIX環境で勘定系オンラインシステムが稼働し、2007年にはWindows Server上で稼働するシステムも登場。今後、Linux上で勘定系オンラインシステムの稼働を計画している銀行もあります。既存のシステムを置き換える形態ではないインターネットバンキングのサブシステムや、先に述べたネット専業銀行は既にオープン系システムを採用しています。

 このようにオープン系システムが幾つかの地方銀行やネット専業銀行で採用されてきていますが、「ベンダーから独立した“オープン”なシステムであるのか」「今までとは異なるアーキテクチャに基づくシステムが構築できたのか」「開発スピードが速くなったのか」「開発・運用コスト全体が低減したのか」について議論が分かれるようです。

銀行間システムの高度化

  • 全銀システムの高度化

 内国為替を扱う全銀システムは1973年に「第1次全銀システム」が稼働してからほぼ定期的に新システムに更改されています。第3次オンラインシステムと前後して稼働した「第3次全銀システム」(1987年)以降は、8年ごとに、11月にシステム更改が行われているのです。直近では2011年に「第6次全銀システム」となり平均処理件数は1日に606万件に達しています。

 また、全銀システムのサービス時間は平日8時30分〜15時30分と制限がありますが、現在、サービス時間以外の時間帯で処理するシステムを2018年度中に開始する予定です。

  • ATM相互利用サービスの登場

 銀行のATMの相互利用は第2次オンラインシステム時代に行われてきましたが、都市銀行、地方銀行、信託銀行など業態によって個別のシステムを構築しており、相互に接続されていません。1990年より「全国キャッシュサービス(MICS:Multi Integrated Cash Service)」を全銀協が運営・稼働させたため、提携している金融機関であれば、他の業態であってもATMが相互に利用できるようになりました。

 さらに2004年からは統合ATMスイッチングサービスにより、従来の複数の個別接続システムが置き換えられました。これにより多くの金融機関では、振込時に金融機関名・支店名・口座番号の入力だけで受取人氏名を画面で確認することが可能になります。従来は振込時に受取人指定まで必要でしたが、誤振込や宛先人違いによるエラーを減少させることができました。

現在の銀行システムを取り巻く環境

 金融庁指導の下、各種法律の規制の中で日本の金融システムは構築されているわけですが、諸外国の動向や、IT技術革新の動向に伴う“検討”も行われています。

 例えば、2014年から「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」による議論が金融庁主催で行われてきました。2016年7月に「決済高度化のためのアクションプラン」が出されていますが、その中で金融・IT融合に対応した決済のイノベーション対応として、ブロックチェーン技術の活用などに対する検討が行われています。また、オープンAPIの在り方に関する作業部会で、2016年度中に報告をとりまとめることが示されています。

 これらの技術については、本連載の後半で取り上げますが、その前に次回は、メインフレームで銀行オンラインシステムが構築され、現在でもメインフレームが採用されている理由について、計算方式や暗号化などの例を挙げて検証していきます。

 FinTech時代の今、なぜ勘定系システムでCOBOLやPL/Iが必要なのか。CPUと演算の関係など、技術的側面からその理由が分かるはずですので、お楽しみに。

参考資料

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