ドラッカーの言う「真摯さ」とは何かを考えてみたあるエンジニア、かく語りき2(3)

辞書で「真摯」を調べると、「まじめで熱心なこと」と書いてある。でも、それだけでは何か足りないような気がする……。

» 2016年09月07日 05時00分 公開

本連載は、エンジニア参加型メディア「エンジニアライフ」から、@IT自分戦略研究所編集部が独自の視点で選んだ“良”コラムを転載するものです。

 市井のエンジニアが人生の節目節目で考えたことをつづる本連載。シーズン1は、“一介の職業エンジニア”松坂高嗣さんがエンジニアのキャリアを解説した。シーズン2は、複数のエンジニアたちが、エンジニア生活のリアルをお届けする。


 「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読みました。「もともとドラッカーに興味のある人ならば、このような入門書を読まずともいい。ドラッカーの書いた本は十分分かりやすい」という批評もあるようですが、僕は初ドラッカーだったので買いました。

「真摯さ」が何か、よく分からなかった

 本を最後まで読んで思ったのは、「真摯(しんし)さ」の意味がよく分からない、ということ。以下は、本の中で引用されたドラッカーの言葉です。

(マネジャーには)根本的な素質が必要である。真摯さである。

うまくいっている組織には、必ず1人は、手を取って助けもせず、人づきあいもよくないボスがいる。この種のボスは、取っつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしば誰よりも多くの人を育てる。好かれている者よりも尊敬を集める。

一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない。

このような素質を欠く者は、いかに愛想がよく、助けになり、人づきあいがよかろうと、またいかに有能であって聡明(そうめい)であろうと危険である。そのような者は、マネジャーとしても、紳士としても失格である。

真摯さを絶対視して、初めてまともな組織といえる。それはまず、人事に関する決定において象徴的に表れる。真摯さは、取って付けるわけにはいかない。既に身に付けていなければならない。ごまかしがきかない。

ともに働く者、特に部下に対しては、真摯であるかどうかは2、3週間で分かる。無知や無能、態度の悪さや頼りなさには、寛大たりうる。だが、真摯さの欠如は許さない。決して許さない。彼らはそのような者をマネジャーに選ぶことを許さない。"

出典:岩崎夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社 2009年初版)

 ドラッカーの言う「真摯さ」とは、どういうものなのでしょう。

 「真摯」という言葉をYahoo!の辞書検索(大辞林)で調べると、「まじめで熱心なこと」と出てきました。よく接客業の方が「皆さまのお言葉を真摯に受け止め……」という言い方をしますので、「まじめ」とか「純粋」とか、そういう意味かなと前々から思っていました。

 しかし、「まじめ」という意味だけだと、ストーリーとかみ合わないのです。

原文では、何と書かれているか

 「マネジメント」の原文(英文)では、何という単語で書かれているのでしょうか。

 上記の引用部分は、英語を和訳しているせいで伝わりにくい部分もあるのかな、と思ったので、Google先生のお力を借りて調べました。その結果、「integrity」という単語が「真摯さ」と訳されていることが分かりました。

They may forgive a person for a great deal: incompetence, ignorance, insecurity, or bad manners. But they will not forgive a lack of integrity in that person.

無知や無能、態度の悪さや頼りなさには、寛大たりうる。だが、真摯さの欠如は許さない"

 「integrity」をYahoo!の英和辞典(プログレッシブ英和中辞典)で調べると、「正直、誠実、高潔、廉直」という、やはりそうかといった訳が出てきました。

 そこで、英和ではなく英英辞書(Longman)で調べたところ、以下のような説明が出てきました。

the quality of being honest and strong about what you believe to be right

あなたが「正しい」と信じていることに関する正直さと強さの質

出典:ピーター・F・ドラッカー「Management: Tasks, Responsibilities, Practices」(1974年初版)

 自分がこうだと思っている信念は決してうそや偽りがない(心から思っている)ことで、時と場所によって考えが変わることもない、といったところでしょうか。

 つまり、integrityとは、「正直さ」や「誠実さ」が一貫している、という意味なのではないかと考えました。

 どれだけ態度が悪くとも、固い信念をもって仕事に取り組む人の方が、他人の顔色をうかがってばかりで信念など持っていない八方美人な人より素晴らしい、ということなのかもしれません。

 八方美人のような「正直さ」に欠ける人は問題ですが、逆に正直だけど「誠実さ」に欠ける人も問題だと思います。

 例えば、誠実さに欠ける医者から「あなたはガンです。今後は闘病生活です」とストレートに告知されたら、患者の落ち込み方は半端じゃないでしょう。誠実さを持っていれば、言葉の選び方やタイミングなど、患者の精神的なダメージを抑える伝え方を考えるはずです。

 いろいろ調べて、考えた結果、「一貫した正直さ」と「一貫した誠実さ」を持って仕事(組織)に貢献することが「真摯さ」なのだと思いました。

「キミは真摯な紳士かね?」(画像はイメージです)

コラムニスト

azuk

浅見憲司(あずK) Web系(LAMP)の運用・開発エンジニアを経て、埼玉県所沢市で「マテリアル所沢」を開業、PC教室の運営やWeb制作(請負)の仕事をしています。また、プライベートで「勉強会初心者のための勉強会」を主催しています。ITと教育、さらに、それらをつなぐことに関心があります。これからもいろいろと学び続けたいと思っています。

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