ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。
うつ病でしばらく休職していたITエンジニアのAさん。服薬と休養のおかげで元気になり、職場に復帰しました。仕事の量や内容は上司に調節してもらい、比較的簡単なルーティンワークからスタートしました。帰宅後はかなりの疲労感でぐったりしてしまいますが、毎日きちんと出社できていました。
プロジェクトに入っている同僚は、皆忙しそうです。
ある日、先輩の1人に「Aさん、悪いけどこれ手伝ってくれない?」と作業を頼まれました。量はそれほど多くなく、内容も難しくなさそうですが、締め切りが迫っていました。Aさんは、正直「無理かなあ」と思いましたが、「みんな忙しくしているのだし、このくらい大丈夫」と考え直し、引き受けることにしました。
取り掛かってみると、いくつかの調査が必要なことが判明し、想像していたよりも大変な作業であることが分かってきました。以前のように頭が回らず、思うようにはかどりません。残業が制限されているため、遅い時間まで取り組むこともできません。
Aさんはだんだん焦りを感じ始めました。締め切りが近くなるにつれて、毎朝体が重く感じられるようになりました。
そんな状態が2週間続きました。作業はなんとか締め切りに間に合わせることができました。しかし、Aさんはその翌朝から起き上がれなくなってしまい、再び2週間休職することになりました。
カウンセリングでお会いすると、Aさんは「断ればよかったんですよね。でもそれができなくて……」とすっかりしょげています。再び仕事に戻る自信もなくしてしまったようです。
「これ以上迷惑を掛けたくないし、チームの仕事から離れるのは不安です。それに、『こいつは怠けている』と思われることが怖くて……」とAさん。断ると先輩や同僚から見捨てられるような気がして、無理に仕事を引き受けてしまったのです。
システム開発会社でチームリーダーとして働くBさんは、メンバーに仕事を頼むとき、いつもイライラしたいい方をしてしまいます。相手はしぶしぶ引き受けるのですが、それがまた気に入りません。チームの雰囲気も重苦しいものになってしまいました。
Bさんは、「おれだってたくさんの仕事を抱えているんだぞ!」と不満に思っていました。「頼むより自分でやった方が早いし、気楽だ」と思い、どんどん自分の仕事を増やしてしまいました。なんだか自分だけが忙しいように感じ始め、メンバーが暇そうに見えてきました。お酒の量も増えて、健康診断で肝臓疾患が見つかってしまいました。
Bさんは、「頼むとき、断られるのが怖い。それに、頼むことで能力がないリーダーだと思われたくない」といいます。ふとしたときに、「みんなが自分を嫌っているんじゃないか」と不安になることもあるのだそうです。
あなたの職場にも、AさんやBさんのような人がいませんか。2人は正反対のタイプのように見えますが、人間関係に対する考え方や自分自身についての見方に共通点があります。
AさんもBさんも、意識している、いないにかかわらずこのような思い込みがあり、それがコミュニケーションのスタイルに表れていると考えられます。
こうした思い込みをすぐに変えることは簡単ではありません。しかし、行動を変えてみることで、少しずつ変えることができます。
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