Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。今回は、シンギュラリティ、2045年問題、トランジスタと人間の脳、ムーアの法則について。
書籍の中から有用な技術情報をピックアップして紹介する本シリーズ。今回は、秀和システム発行の書籍『図解入門 最新 人工知能がよーくわかる本(2016年7月4日発行)』からの抜粋です。
ご注意:本稿は、著者及び出版社の許可を得て、そのまま転載したものです。このため用字用語の統一ルールなどは@ITのそれとは一致しません。あらかじめご了承ください。
※編集部注:前回記事「人工知能はどうやって「学ぶ」のか――教師あり学習、教師なし学習、強化学習」はこちら
人間の脳に代替できるような知的な汎用型人工知能の登場は、まだまだ先の未来の話です。では、それはいつ頃なのか。
それを暗示しているのが「シンギュラリティ」というキーワードです。
「シンギュラリティ」という単語自体は10年以上前から使われていますが、人工知能ブームが再来し、Pepperのように人工知能技術を採用した大きなコミュニケーションロボットの誕生、AlphaGoによる勝利など、人工知能に関するニュースを目にするにつけ、次第に現実味を帯び、注目度が増してきました。
シンギュラリティ(Technological Singularity)は、日本語では「技術的特異点」と呼ばれます。人工知能が人間の知能を超えることにより社会的に大きな変化が起こり、後戻りができない世界に変革してしまう時期のことです。言い換えれば、人間の知能を超えた強いAIが登場すると、世の中のしくみは大きく変わるとともに、人間にはそれより先の技術的進歩を予測することができない世界が訪れるという予言で、その時がシンギュラリティです。
人工知能研究の世界的権威として知られる、発明家で未来学者であるレイ・カーツワイル氏が2005年に執筆した著書『The Singularity Is Near:When Humans Transcend Biology』(シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき)の中で多くの未来予測とともにシンギュラリティは詳しく解説されています。
未来予測の多くは、脳をスキャンしてデジタル化したり、ナノロボットの進化によって内臓が不要になったり、寿命が飛躍的に伸びて死ぬことすらなくなるかもしれない、遺伝子を制御することで肥満がなくなるなど、SF映画の題材として使われていそうなものも多く並んでいます。そのため10年以上前に発表された当時は、シンギュラリティも現実的な話として受け止める人がごく一部に限られていました。しかし、カーツワイル氏が2012年に米Googleに入社してAI開発の総指揮をとり、大脳新皮質のシミュレータ「Neocortex Simulator」の開発に取り組むことが発表されると、世間の見方も変わってきました。
更に、ニュース記事のインタビューに対して、カーツワイル氏は「人間のように会話して複雑な質問を理解したり、意図をくみ取る検索エンジンが数年以内に登場する」と発言し、検索エンジンという現実の技術開発に応用される可能性が示唆されると、現実味は大きく向上することとなりました。
著書のタイトルにも使われているシンギュラリティですが、人間と同様の知能を持った強いAIが生まれると、いったいどうして人間社会が変わってしまうのでしょうか。それは、こういう理由からです。
ひとたび人間と同様の知能を持ったAGIが生み出されると、すぐにその後、AGIは人類の知能を超える進化を遂げるだろう。そのAGI自身がより強いAGIを生みだすという連鎖が起こりはじめると、その時はもはや人類が制御できない領域に達する、というものです。AGIが人類の知能を超えた時点でもはや人類ではAGIを制御できなくなるということです。そしてそれは2045年頃までにやってくると予想していることから「2045年問題」と呼ばれることもあります。
強いAIを作るのも人間なら、それを使うのも人間です。
シンギュラリティが訪れるかどうかに関わらず、かつてクローン羊が発表されたときに、クローン人間を作らないよう法整備に動いたのと同様、現在の人工知能が加速度的に進化して強いAIに近付く前に、開発を含めてAI利用に対する議論を行い、ルールや法整備を行う必要は感じます。
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