Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。今回は、人工知能を搭載したコミュニケーションロボット、スマホアプリの事例として、ロボットコンシェルジュや会話アプリを紹介する。
書籍の中から有用な技術情報をピックアップして紹介する本シリーズ。今回は、秀和システム発行の書籍『図解入門 最新 人工知能がよーくわかる本(2016年7月4日発行)』からの抜粋です。
ご注意:本稿は、著者及び出版社の許可を得て、そのまま転載したものです。このため用字用語の統一ルールなどは@ITのそれとは一致しません。あらかじめご了承ください。
※編集部注:前回記事「ロボットが人間と自然に話すための技術――音声認識、音声合成、知的エージェント、感情認識、感情生成」はこちら
エージェントと近い役割でAIシステム化が期待されているのが「コンシェルジュ」です。コンシェルジュの語源は、集合住宅の管理人。そのため、コンシェルジュと聞いて思い浮かべるのは、ホテルの案内スタッフ等の仕事でしょう。
最近ではホテルに限らず、百貨店やショッピングモール、空港や駅、観光案内所でもコンシェルジュと呼ばれるスタッフが配置されていることが多くなりました。専門知識を持った店舗スタッフをコンシェルジュと呼ぶケースもあります。この相談役をIBM Watsonをはじめとした自然言語対応のAIエージェントが支援することによって、一般のスタッフでもできるようにしようという動きがあります。
IBM Watson日本語版を販売するソフトバンクは、IBM Watson導入イメージのひとつとしてこのような提案をしています。顧客が来店して「高校の同窓会に着ていくワンピースを探しに来ました」と相談します。スタッフはタブレット端末を通じてWatsonに助言を求め、その結果「会場で写真映えするライトグレーの服はいかがですか?」と提案します。
これは、Watsonが会場で写真映えするカラーはライトピンクやライトグレーであることを一般知識のデータベースから認識したとともに、この顧客のCRM(Customer Relationship Management、顧客情報管理)システムと繋がり、購買履歴や好みの傾向を加味した上で最適と判断した回答を提案をしているのです。一般の店頭スタッフでも、タブレットを介してコンシェルジュと同等の知識で顧客対応ができるしくみを目指しています。
IBM Watsonはクラウドサービス〔PaaS(Platform as a Service)、パース〕として提供されているので、通常、物理的なハードウェアやサーバ群はソフトバンクが運営・管理するデータセンターにあります。IBM Watsonを利用するための30以上の機能のAPIが既に公開されていて、そこにはディープラーニングなどのAI関連技術に限らず、50以上の先進テクノロジーが使われています。これらのAPIを組み合わせることで、コグニティブなアプリケーションを誰でも簡単に作成することができます。
IBMが運営している「Bluemix」(ブルーミックス)で公開されていて、既に全世界で8万人以上の開発者が利用しています。いくつかの契約形態が用意されていて、それによってIBM Watsonの使用に伴うコストは異なります。「Bluemix」では30日間の無料トライアルが用意されているので、自身が開発したシステムにWatsonのAPIを組み込んで、性能や効果を試すことかできます。
IBM Watsonに限らず、コンシェルジュ自体を自動化した、AIコンシェルジュの開発も急速に進められています。利用シーンは例えば観光案内所やホテルです。ホテルのコンシェルジュに周囲の名所や、オススメのお食事処を聞いた経験があると思いますが、それらを機械で置き換える試みです。この場合、ユーザと対面するデバイスとしてロボットが有力な候補となります。可愛い容姿をしたロボットがコンシェルジュとして待機していれば、顧客は気軽に話しかけやすく、耳を傾けるからです。
ホテルの各部屋に小型のロボット型AIコンシェルジュを設置する動きも始まっています。例えば、長崎県ハウステンボスのオフィシャルホテル「変なホテル」では各部屋に小型の会話ロボット「ちゅーりーちゃん」を配置して、天気や時刻など簡単なコンシェルジュ対応を行う試みをはじめています。まだまだ十分な会話や対応ができませんが、今後AI技術の進歩などによって高度な対応までこなすようになることを期待しています(変なホテルではルームキーの代わりに顔認証システムが導入されています)。
ロボットによるコンシェルジュの場合、顧客との情報のやりとりの方法、すなわちインタフェースとなるのは自然言語による会話です。その場合、鍵となる技術は音声認識の精度と自然言語の解析です。いかに自然言語を正しく認識し、そして発話者の意図までをもくみ取ることができるか。それが普及の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
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