米ニュータニックスCEOが語る、「複雑な」プライベートクラウドの次と「曖昧な」ハイブリッドクラウドの次「HCI」からの脱皮を図る本当の理由(1/2 ページ)

米ニュータニックスのCEO、Dheeraj Pandey氏へのインタビュー。同氏は、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)、オンプレミスITインフラ、パブリッククラウドなどに関し、さまざまな興味深い発言をしている。

» 2017年02月02日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 ハイパーコンバージドインフラ(HCI)の有力ベンダーでありながら、「もはやHCIが問題ではない」と主張している米ニュータニックス。このメッセージに、どこまで内容が伴っているのか。米ニュータニックスの会長兼CEOであるDheeraj Pandey(ディラージ・パンディ)氏に、さまざまな疑問をぶつけた。

――まず聞いておかなければならないことを聞きたい。米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)によるSimpliVityの買収や、デルとEMCの合併完了による、ハイパーコンバージドインフラ(以下、HCI)の市場の変化をあなたはどう考えるか。

米ニュータニックス会長兼CEOのDheeraj Pandey氏

 HPEにとってはチャレンジになると思う。成長する市場で、大規模企業がナンバー2あるいはナンバー3の企業を買収することはこれまでもよくあったが、ナンバー1の企業に勝てた例は少ない。ナンバー1企業に共通するのは、細部への気配りだ。こうした企業は、ネットプロモータースコアなどを通じて顧客の満足度を常に把握し、対処できなければ、市場から消え去るしかないことが分かっている。

 HPEはこれまで多くの企業を買収してきたが、買収した企業の中核スタッフを引き留めることに苦労してきた。今回は違うアプローチができるのかが問われている。

 また、SimpliVityはニュータニックスに大きく引き離されているし、VMware VSANを彼らのソフトウェアに置き換えただけの製品だ。(私たちは、)ヴイエムウェアと比べられるような、インフラへの新しいアプローチを提案し、VMware vSphereとAmazon Web Services(以下、AWS)などとの間のギャップを埋める取り組みを進めている。多様なソフトウェア機能、自動化、ネットワーク、セキュリティ、アナリティクスなど、他のHCIベンダーには全くできないことをやっている。

 HCIで、ハードウェアベンダーは漏れなくヴイエムウェアかニュータニックスに依存している。焦点はソフトウェアだ。日本におけるAWS人気が象徴しているように、草の根の人たちは運用コストにとらわれない、機動的なITを求めている。重要なのはクラウド的なITの提供であり、HCIではない。

――デル(Dell EMC)との間ではライセンス供給契約が延長されているとのことだが、これで当面の心配はないということか。

 2021年まで契約がある。ただし、契約でカバーできることには限りがある。結婚のようなもので、幸せが保証されているわけではない。私は日本語の「がまん」という言葉が好きだが、どんな関係でもこれが必要だ。「がまん」して努力することは、デルとの関係だけでなく、顧客や他のパートナーとの関係にも言えることだ。特にニュータニックスがヴイエムウェアと比較できるような価値を持っていることを顧客に認めてもらうまでには、「がまん」して丁寧に努力することが求められる。

――「HCI」という言葉について聞きたい。ニュータニックスは自社がもはやHCIベンダーではないといってきたのは理解している。だが、例えば日本市場では、ようやく「ハイパーコンバージド」あるいは「HCI」という言葉が市民権を得ようとしているところだ。人々はHCIにどんな選択肢があるかを調べ、選ぼうとしている。これは健全な動きだ。ニュータニックスはHCIという言葉に依存して成長してきたし、これからもこの言葉に依存していかなければならないのではないか。

 マイクロソフトは当初、消費者のためのOSの会社だったが、その後企業向けOSに乗り出し、さらに多くの革新を持ち込んだ。データベース、ディレクトリサーバなど、それまでのマイクロソフトのイメージとは全く異なる先進的な取り組みを続けた。結果として、2004年には、データセンター市場のシェア40%を獲得した。

 同様に、私たちも革新を続けていく。成功する保証はないが、顧客がニュータニックスにより多くの価値を見いだしてもらえるように、努力を続けるしかない。

 やるべきことはまだたくさんある。AWSが「企業は自社でインフラを持つべきではない」というとき、そこには宗教、あるいは独善的な部分がある。私たちはオンプレミス、パブリッククラウドのどちらに偏ることもない。企業が自社で所有したいワークロードもあるだろう。一方、パブリッククラウドで動かしたいワークロードもあるだろう。選択の柔軟性を維持するには、「コンバージ(統合)」の対象を広げる必要がある。単一のOSの上で、調達コストと運用コストを統合し、所有と利用を統合していかなければならない。

――だが、例えば株式アナリストは、あなたの会社をHCIベンダーとして扱わざるを得ない。

 米アマゾンも、最初は書籍販売業者だと思われていた。これは通過儀礼のようなもので、気にするべきことではない。先ほど言った「がまん」に通ずる。あなたが常に進化していれば、世間のあなたに対するイメージとセルフイメージとの間に、時間的なずれが生じるのは当たり前だ。

――私が聞きたいのは、何が彼らの認識を変えるのかということだ。

 時間はかかるが、自社のビジョンを証明し続けることだ。最も重要な点は、常に市場に対して存在価値を発揮しながら進化していけるかどうかということにある。プライベートクラウドとパブリッククラウドの、真の意味での統合は実現されたたことがない。非常に難しいコンピュータサイエンス上の命題だ。マイクロソフトはAzure Stackでこれを試みているが、私はハイブリッドクラウドモデルの確立という点で、同社は当社と同程度のリスクを抱えていると思う。

――ニュータニックスの顧客対象は中堅企業以上であり続けるのか。

 当社自身は、中堅企業のうち上のほう、そして大企業を対象として活動する。システムインテグレーターなどのパートナーとともに、こうした顧客に専念している。一方、「Express」という製品では、チャネルパートナーがかなりローエンドの市場に至るまで開拓できるようにしている。

――ハードウェアと統合された製品をニュータニックス自身が提供することはやめ、ソフトウェアオンリーのベンダーになる可能性はあるのか。

 ビジネスに「絶対」はない。いくらでも多くのノードに(ニュータニックスのソフトウェアを)導入できるように、ELA(エンタープライズ・ライセンス・アグリーメント:企業向け包括ライセンス)を求める顧客がいる。こうした顧客は、ハードウェアとソフトウェアの調達を分離し、(ソフトウェアについては定額で使えるようにしながら、)ハードウェアについてはニーズに応じ、少しずつ購入したいと考えている。このような販売方法についての議論を顧客と始めたところだ。ヴイエムウェアも、ELAを提供開始するまでに3、4年かかった。ELAを提供することの有効性は、よく考えて判断しなければならない。

 それはそれとして、「cloud in a box(オールインワンのクラウド環境)」を求める顧客も存在する。単一ベンダーで、ソフトウェア、ハードウェア、ロジスティックス、サポート、修理などができる形態も必要とされている。そうでなければ、顧客が自ら手配しなければならないからだ。ベンダー間の責任のなすりつけ合いが起これば、それはクラウドとは逆だ。

――ユースケースとしては、どのような動きが見られるのか。

 70〜75%がサーバ仮想化で、20〜25%がデスクトップ仮想化だ。サーバ仮想化では、Oracle DatabaseやSAPの稼働が増えている。最もミッションクリティカルといえるアプリケーションに踏み込んできている。こうしたアプリケーションがNutanix上で動くことにより、クラウド的な経済性を実現できることになる。

 もちろん、デスクトップ仮想化は依然として非常に重要なユースケースだ。今後もますます多くのPCが仮想化される。私たちはいつでも安定して機能するアーキテクチャを備えている。このため、「新たな情報漏えい事件が起こるのをどう防げばいいか」と考えている企業に最適だ。デスクトップ仮想化は、セキュリティの向上という点からも重要なユースケースの1つだといえる。当社ではマイクロセグメンテーション(データセンター内のネットワークを仮想的にきめ細かく分離すること)についての開発も進めている。これで、例えば企業の幹部の仮想デスクトップ環境と、工場労働者の環境を(ネットワーク的に)分離できる。

 マイクロセグメンテーションは便利だが、VMware NSXのように高価なものではなく、ワンクリックで利用できるものでなければならない。例えばCitrix XenDesktopの運用担当者が、即座に利用できる必要がある。

――マイクロセグメンテーションの話が出たので、ネットワークについて聞きたい。ネットワークはデータセンター全体、そして潜在的にはパブリッククラウド、さらには遠隔拠点まで伸びる可能性がある。マイクロセグメンテーション機能を備えたネットワーク機能をニュータニックスが開発しているのは素晴らしいことだが、Nutanix環境に閉じてしまうなら問題なのではないか。

 私たちはスイッチやルータを売らない。シスコ、アリスタネットワークス、ジュニパーネットワークスや、ファイアウォールベンダーなどとの連携を図っていく。つまりこれは、エコシステムをどれだけうまく構築し、ソリューションとして提供できるかという問題だ。エコシステムが活用するのに最適なAPIを提供できることが重要だ。5年前ごろにはストレージで同じようなことが言われていた。「ストレージはハードウェアでなければ十分に果たせない機能であり、純粋なソフトウェアにはなれない」と。そこで私たちは戦ってきた。一方、ネットワークにおける戦いは始まったばかりだ。私たちが提供するのはソリューションでなければならず、テクノロジーであってはならない。

 私たちがこれまでの5年間成功してきた理由は、ソリューションを提供してきたからだ。ヴイエムウェアはせっかく「Software Defined Data Center(SDDC)」について語り続けてきたのに、どうやってこれを活用するかは誰も分からないままだ。ユースケース、ワークロード、インテグレーションといったことを考えずに、SDDCを活用することなどできるのだろうか?

 人々がSDDCについて語らずに、HCIについて語るのはなぜか。HCIはソリューションを作ったからだ。私たちはネットワーキングについても同じことを実行する。ソリューションを構築し、ワンクリックで使えるようにして、ネットワークだけでなく、アプリケーション配置の自由度を高める。

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