前述の2つのポイントを踏まえると、クラウドマイグレーション&モダナイゼーションに必要なステップは以下の3つです。
初めのステップでは、現在のビジネスおよびアプリケーションの全体を俯瞰し、クラウドとの親和性やビジネスの成長性などを評価しつつ、クラウド活用を踏まえた将来のビジネスおよびアプリケーションの構想を策定します。下記は【ステップ1】の具体的な活動です。
ここでは、前述のマイグレーションとモダナイゼーションを以下の視点で考えていくことが重要です。
投資対効果の判断のための活動として、「現在のランニングコスト」「更改、移行のための一時費用」「クラウドにおけるランニングコスト」を比較し、実行による期待効果を試算します。
TCO削減の側面においては、「クラウドへの移行に伴うデータセンターの廃止や用途変更などの設備面の要素」「重複あるいは非活用システムの統廃合」「各種ライセンスの最適化」「運用の効率化」「保守期限対応に要する費用」といった要素を盛り込むことが重要です。
またモダナイゼーションにおいては、「クラウドを活用した新たなビジネス実現のための投資」という側面を考慮に入れ、実現による「新たなビジネスベネフィット」(売上、利益、価値、評判など)を考慮しつつ投資の是非を判断します。
次のステップでは、前述のステップで洗い出されたクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの対象システム群に対して、実際の移行に向けた詳細調査と移行計画の策定を行います。下記は【ステップ2】の具体的な活動です。
ハイブリッドITでは、「クラウドと従来型IT環境に、それぞれどのアプリケーションを配置し、双方をどのようにつなぐか」のデザインが特に重要です。その前提として、「アプリケーション同士が現在どのような関係を持っているか」を詳細に調査、分析することがポイントです。アプリケーション間の依存関係や関連性は、移行計画の立案の際においても、「移行対象アプリケーションのグループ化や優先順位付け」「移行の過渡期に発生する通信」といった検討テーマのインプットとなるからです。
このステップでは、各種の調査、解析ツールや移行ツール群を用いて、いかに効率的に作業を推進、計画できるかも重要です。
【ステップ3】では、移行計画に基づき、選定された対象システム群を移行していきます。【ステップ2】の計画策定の中で、概要レベルの方針策定は終えていることが理想です。
このステップは、オンプレミスの移行案件、システム更改案件とほぼ同様の活動ですが、ハイブリッドIT化、クラウド化という意味では、下記のポイントが重要となります。
上記3ステップにより、ビジネスとアプリケーションの裏付けを持ちながら、全体最適の視点でクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの計画と実行が可能となります。
これらの一連の活動は、クラウドへの移行時に一度だけ行うものではなく、将来のシステムのことを考えて継続的に実施していくものです。そのため、後続のシステム群への横展開を考慮した各種パターン化や自動化、アセットや知見の蓄積、継続的な見直しといった活動も重要です。
クラウドマイグレーション&モダナイゼーションの実行イメージを持ってもらうことを目的に、海外における事例を幾つか紹介します。海外においては、既に業界・業種を問わず数多くの事例があります。
欧州の金融業では、システム更改の検討に合わせて全社IT環境の見直しを実施し、クラウドマイグレーションおよびモダナイゼーションの候補選定と、それに基づく移行を推進している大手企業があります。
製造業では、企業統合に際してクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの取り組みを適用し、クラウド活用と同時に、システムの統廃合、運用の効率化、組織改変などを総合的に実施し、TCOの大幅な削減とクラウド化を達成した大手企業が存在します。
通信業では、サーバ2000台からなる200前後のシステム群をハイブリッドIT化し、併せてシステム開発に関わる一連の活動を全社レベルでパターン化、自動化することで大幅なTCO削減を達成している大手企業が存在します。
クラウドを活用したビジネス戦略、活用する技術やプラットフォーム、自社のIT成熟度などによって、適用の形は多岐にわたりますが、クラウドを軸とした全社レベルでのビジネスとアプリケーションの構造改革によって成果を挙げている事例が数多く登場してきていることは見逃せない事実です。
日本においては、現時点ではまだ多くはないですが、昨今の金融業界におけるAPIバンキング、地銀共同化によるエコシステム形成、ブロックチェーンの実証実験といった事例の増加などを鑑みても、今後、同様の動きが活発化していくことが予想されます。
第2回では、ハイブリッドITにおけるアーキテクチャの考え方とその意義、そしてハイブリッドITへの変革の鍵となるクラウドマイグレーション&モダナイゼーションの手法について解説しました。
既存システムのクラウド移行は、多くの企業のIT戦略において、今最も注目されているテーマの1つです。そして、その背景を受けて、IBM、アクセンチュア、富士通、日立製作所、NTTデータなど、大手SIベンダーや、主要パブリッククラウド(AWS、Azure、Bluemixなど)のサービスパートナー企業を中心に、クラウド移行のためのさまざまなオファリングが発表されています。
ハイブリッドIT時代に必要となるスキルや技術は多岐にわたるため、基幹システムを含めたハイブリッドIT化とクラウドを活用した新たなビジネスの実現を目指す企業にとっては、自社の戦略や資源、ITケイパビリティなどを踏まえて、最適なITパートナー企業を選ぶことも重要なポイントとなるでしょう。
次回は、ハイブリッドITにおける運用管理の考え方について解説します。
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