RPA(Robotic Process Automation)とは何かという基本的なことから、導入するためのノウハウまでを解説する連載。今回は、机上検証の進め方と、効果を示す数値の導き方、さらに「導入の現場でいま何が起きているのか」を中心に解説します。
RPA(Robotic Process Automation)とは何かという基本的なことから、導入するためのノウハウまでを解説する本連載「RPA導入ガイド」。連載第2回では、RPA製品を見る視点やRPAの本質などをお伝えしました。
今回は、導入プロセスの前半戦で極めて重要な役割を担う机上検証(効果検証)について解説します。連載第1回で、30%の工数削減の例や、それを超えるケースもあるなどと紹介しましたが、本稿では、効果算出に至るまでの手順を紹介していきます。
効果の数値の共有により、全社導入に舵を切った企業は幾つもあるので、効果として示す数値にも、当然のことながら高い精度が求められます。
RPAに限らず新技術の導入に際しては、「初物」であることから以下は必ず議論の対象となります。
もちろん導入検討の過程で、漠たる予想ではありますが、効果は確実に出るだろうと、想定されていることでしょう。
実務的な観点でいえば、企業や組織での新技術の導入では、投資の責任者である経営幹部の判断を支援するために、投資対効果を示す具体的な数値が要求されます。
本連載で掲げているように、「RPAの全社導入」というテーマであれば、導入を可としても、プロセスの簡略化、リードタイム短縮、コスト削減、売上拡大、人的リソース再配置などに関する、プロセス数や時間、金額、人数などを示す数値が必要となります。
大きく2つの段階の机上検証を行います。
ここであらかじめ、主要な観点と具体的な活動が見える項目を整理しておきます。
全社導入の場合、投資額が大きくなることから、経営会議での承認、投資予算の確保、体制の検討などのために、「まず大枠での評価をしてから、次に詳細の検証」ということで、2段階となることが多いのです。部門や中小規模の導入であれば、検証1を飛ばして、最初から検証2を進めていくことになります。
例えば、ある企業の事例では、約2カ月で検証1をこなしています。複数で主要事業で行われている典型的な業務を選定して、検証1を実行し、想定効果の数値を明確化、経営会議で社長含めた経営幹部の承認を得て、検証2に進んでいます。
短期間で全ての事業ならびに業務を見ることは困難ですが、それなりの事業ならびに業務の数で、さらにそれらの中で、メインストリームを選定して進めます。この業務でこのようにできるなら、類似業務でも効果が出るだろうと、経営幹部や関係者が納得しやすいサンプル業務を抽出します。
机上検証のための業務可視化や業務分析を進める中で、いつもながら興味深いと思うのは、事業自体は異なっていても、ところどころに同種の業務プロセスが存在していることです。この発見は、RPA適用を部品化しスムーズにできるので、意識して進めたいところです。
また第1回で、導入プロセスは、【1】全体計画、【2】机上検証、【3】PoC、【4】評価・修正、【5】導入・構築の5つのプロセスで進んでいくと紹介しました。
現在の全社RPAの導入は、【3】PoC、【4】評価・修正を行ってから、【1】全体計画、【2】机上検証、【5】導入・構築のように進むことが多いのですが、机上検証は、下記のように、状況に応じて多少異なります。
企業や組織によって、机上検証の位置付けが変わってしまう背景には、全社導入の意思決定のプロセスや時期、導入を推進する体制の整備状況、現行業務の把握の度合い、パートナー向けの予算の確保などの事情が挙げられます。
少し専門的になりますが、検証1でたびたび使われる資料のサンプルとして「現行業務俯瞰表」を紹介しておきます。
まず、図表1の作成物にも記載していますが、現行の業務フローを作成します。
次に、「現行業務俯瞰表」を作成しますが、横軸に業務プロセスを、縦軸には、各プロセスのインプット、処理、アウトプット、利用システム名、などを記載します。
さらに下段に、処理量や時間、人数などの数値項目を加えます。
なお、検証1での業務プロセスの把握ならびに切り方は、大・中・小のレベルで表すとしたら、中程度で切っていくのがポイントです。
現行の業務フローと業務俯瞰表の作成後、続いて、RPA導入を想定した新業務フローと業務俯瞰表を作成します。それまでのPoCでの経験や、RPA製品の仕様などを基に、想定時間を算出していきます。
図表3の場合であれば、RPAを活用できるプロセスは、データチェック1の部分となります。RPAの導入で、標準時間240が、例えば半分の120になります。
図表3では、あるビジネスのプロセスの一部を切り取っていますが、一部での各種数値の削減と短縮、さらに、業務プロセス全体とそれらを含む対象ビジネス全体での合計での効果数値を積算すると、結果として数十パーセント前後の削減や、短納期化による処理量の増加などを示せます。
検証2では、実際のRDAやRPAにおける運用を想定して進めていくことから、検証1に比べて、ぐっと目線は細かくなります。検証1では業務プロセスレベルでしたが、検証2ではオペレーションレベルが主役となります。簡単にいうと、画面遷移と照らし合わせて確認していきます。
なお、検証2はRPA製品の機能を把握した上で進める必要があります。製品によっては対応できないオペレーションがあるからです。
図表4では、オペレーションフロー表の例を示していますが、図表3が業務プロセス中心なのに対して、図表4ではオペレーションにフォーカスされているのが分かるかと思います。
図表4のオペレーションフロー表を見ると、RPA製品によっては同フロー表を基に、シナリオ作成に展開できるので、一般的なシステム開発でいうところの「機能要件の定義」を手掛けていることになります。
もちろん、その他に例外処理、性能、セキュリティ、運用、他の観点も必要ですが、このフロー表を高い精度で作成できれば、RPAシステムの導入、構築はスムーズに進みます。そのため、RPA導入に向けた机上検証は、「事前に効果を算出して見せるだけではなく、システム構築にも直結する」極めて重要な役割を担います。
ここで、「検証1と2で、算出した効果測定の数値はどれくらい違うのか」と思う方もいるかもしれません。実は、意外にも誤差は少なくて、おおむね上下5%前後に収まります。その理由は、検証1の際に、関係者インタビューをすることや、さらに必要な場合は業務プロセスの現場での確認なども併せて行うことで、検証1の精度を高めていることによります。
実際の導入の現場では実情として、机上検証と、導入プロセスで後に続くPoCや構築で、担当するベンダーが異なることが多くなっています。この辺りは連載第1回でも紹介しました。
例えば、筆者の会社で机上検証を担当し、構築は別のベンダーに引き継いだり、逆に、コンサルティングファームが検証した結果を引き継いだりなど、現実にはよく起こっています。
まさに、いま(現在)の時代におけるRPA導入支援の姿といえるでしょう。
一般的には、企業の推進責任部門に対して、支援するパートナー(コンサルティングファーム、ITベンダー、RPA専業ベンダー、他)は、1社に近い方が良いと思われるかもしれませんが、導入プロセスごとに、複数社で分担するのも決して悪い選択ではないと感じています。
複数社が関わるメリットとして以下が挙げられます。
上記に対してさらに加えたいのは、RPA導入プロセス自体の、汎用化や共通化が進むことです。
「顧客企業と各ベンダーが、それぞれのフェーズでここまでやって、次につなぐ」という仕事の進め方が収束されていくので、導入する企業や組織、支援するベンダー、いずれの立場にあっても、RPAの導入が中長期的にはより良い方向に進んでいくことになるからです。
今回は、机上検証の進め方と、効果を示す数値の導き方、さらに「導入の現場でいま何が起きているのか」を中心に解説してきました。
次回は、机上検証から前にさかのぼって、全体計画に関してお伝えします。
富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 シニアディレクター
顧客企業を全社的に可視化して経営施策の効果検証をするサービスの指揮を執っている。著書に『RFID+ICタグシステム導入・構築標準講座』(翔泳社)、『成功する企業提携』(NTT出版)がある。
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