「コンテナ」「Kubernetes」はコスト削減のためではない――ガートナーが語る“誤解と真実”最も重要なのは「組織変革」(1/2 ページ)

2021年6月21〜22日にガートナーが開催した「アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット」で、ガートナー ジャパンの桂島 航氏が「コンテナとKubernetesをITリーダーはどのように活用すべきか」と題して講演した。その内容をレポートする。

» 2021年07月30日 05時00分 公開
[齋藤公二インサイト合同会社]

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コンテナは、ほとんどの企業が利用するテクノロジーの一つに

 アジャイルなど開発手法の進化と、マイクロサービスアーキテクチャの進展で、アプリケーションやインフラに求められる要件は変わりつつある。その潮流の中で大きな役割を果たしているのがコンテナ技術とオーケストレーション技術のKubernetesだ。

 2021年6月21〜22日にガートナーが主催した「アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット」に登壇したガートナー ジャパン バイス プレジデント、アナリスト 桂島 航氏は「ガートナーのお客さまの中でも非常に関心が高まっているトピックです。ガートナーに寄せられるコンテナに関する質問の数はおよそ年率40%増で増えており、年間数千件に達します。私もコンテナやKubernetesに関する質問を毎週受けています」と市場が熱を帯びて盛り上がっていることを明かした。

 ガートナーの調査によると、ワールドワイドで見ると2020年の時点で既に約30%の企業がコンテナを本番系の何らかのシステムで利用しているという。

 「ガートナーでは2025年までに85%以上の企業が本番系システムでコンテナを採用すると予測しています。この背景には、コンテナはアーリーアダプターが利用するテクノロジーではなく、ほとんどの企業が使う基本的なテクノロジーの一つになっていくと考えているためです」(桂島氏)

 では、ガートナーがコンテナを基本的なテクノロジーの一つとする根拠は何か。また、どうすれば企業はコンテナを活用でき、そのメリットを享受できるようになるのか。桂島氏は「コンテナとは何か、なぜ人気が高まっているのか」「企業のITリーダーはコンテナをどのように活用すべきか」「国内の先進事例」という3つの論点から、企業が理解しておくべきコンテナのポイントや、コンテナの価値、企業で活用する際のベストプラクティスなどを解説した。

仮想マシンだと「アジャイル」「マイクロサービス」のメリットが生かせない

 1つ目の論点である「コンテナとは何か、なぜ人気が高まっているのか」を、桂島氏はこう分析する。

ガートナー ジャパン バイス プレジデント、アナリスト 桂島 航氏 ガートナー ジャパン バイス プレジデント、アナリスト 桂島 航氏

 「もしコンテナを一言で述べるなら、仮想マシンのような仮想化テクノロジーとなります。ただ、仮想マシンとは違います。何が違うのかといえば、導入の目的がまったく異なること。仮想マシンはサーバ10台を1台にまとめるといったコスト削減の目的のために使われていました。これに対し、コンテナはコスト削減のためではなく、ビジネスのスピードもしくはアプリケーション開発スピードを向上させるために利用されるのです」(桂島氏)

 従来の仮想マシンは、モダンなアプリケーションの開発やアジャイル、マイクロサービスを支えるインフラのテクノロジーとしては「スピード不足」だという。立ち上げてから実際に使えるまで速くて数分、遅ければ数時間から1日かかることも珍しくない。このようなスピード感では、アジャイルやマイクロサービスのメリットである迅速さを生かせず、それどころか、インフラがボトルネックになってしまう。

 「コンテナは立ち上げてからすぐに使えます。1秒以内、もしくは数秒以内です。マイクロサービスアーキテクチャにおいては、負荷の増加に応じて素早くコンテナを増やしたり、アジャイルやDevOpsの取り組みにおいて頻繁にアプリケーションを更新したりする手法と非常にマッチします。そうしたポテンシャルを引き出せるテクノロジーなのです」(桂島氏)

 これは、ガートナーがコンテナ採用企業に聞いたビジネス目的からも明らかだ。コンテナを採用する理由のトップ3は、1位が「アジャイル開発によるサービスレベルの向上」で56%、2位が「デジタルビジネス、DXの推進」で51%、3位が「タイムトゥマーケットの改善」で48%となっている。

出典:ガートナー資料(2021年6月) 出典:ガートナー資料(2021年6月)

83%の企業がコンテナを利用――アプリケーション視点でインフラを検討するのが重要

 冒頭で約30%の企業がコンテナを本番系システムで採用しているという調査結果を紹介したが、これは、ガートナーが同社の米国でのイベントに参加した企業からヒアリングしたものだ。内訳は「対象アプリをほぼコンテナ化済み」が1%、「多数を本番環境にデプロイ済み」が6%、「少数を本番環境にデプロイ済み」が29%で、これらを合計すると36%に達する。さらに「利用を開始したところ(PoC〈概念実証〉、パイロットなど)」が31%、「計画はあるが利用していない」が16%で、「計画なし」は17%にすぎない。

 「PoCや今後の計画まで含めると83%になります。ほとんどの企業が使っているか、使う計画を持っています。米国においては、ある領域においてコンテナを使うことは当たり前になったというわけです。ただ、冷静な視点で調査を見ると、まだ発展段階であることも分かります。コンテナ化済みやデプロイ済みは7%しかいません。これは日本で言えば、ヤフーやサイバーエージェントのようなテクノロジー企業であり、多くの企業は幾つかのアプリケーションに限って使い始めたばかりという状況です」(桂島氏)

 では、コンテナを利用するメリットはどこにあるのか。桂島氏は技術的メリットとして「仮想マシンより軽いので統合率を高められること」「クラウドとオンプレミスを行ったり来たりできるようなプラットフォーム間での可搬性」を挙げる。ただ、これはコンテナの本質的なメリットではなく「ここだけ見てしまうと『仮想マシンで良いのでは』となりやすい」(桂島氏)という。

 「より重要なのは、デジタルビジネスを推進する際に、DevOpsやアジャイル、マイクロサービスなどを使ってビジネススピードを与えられることです。スピードを存分に引きだすことができるのがコンテナです。インフラ視点だけでなく、アプリケーション視点でコンテナの利用を考えることが重要です。また、コンテナを企業システムなど一定規模で利用する際にはコンテナのオーケストレーションが必要になります。そのデファクトスタンダードがKubernetesであり、主要ベンダーが採用しているため投資をしやすくなりました」(桂島氏)

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