RPA(Robotic Process Automation)とは何かという基本的なことから、導入するためのノウハウまでを解説する連載。今回は、「RPAを全社に導入する」という観点における「IT戦略」に触れた上で、「全体計画」の策定について解説します。
RPA(Robotic Process Automation)とは何かという基本的なことから、導入するためのノウハウまでを解説する本連載「RPA導入ガイド」。連載第2回、第3回ではRPAの導入に関わる机上検証(効果検証)について解説しました。
連載第4回となる今回は、その前の最初のプロセスである「全体計画」をテーマとして話を進めていきます。
企業や大きな組織では、経営戦略に基づくIT戦略があって、それらを実現するために、さまざまなシステム導入の企画立案が行われます。連載第3回でも話しましたが、RPAシステムの導入は、企業や組織において「初物」であることや、RPAが持っている機能の特性から、IT戦略やシステム企画立案においても、特徴的な部分があります。
今回は、「RPAを全社に導入する」という観点における「IT戦略」に触れた上で、「全体計画」の策定について解説します。
まずは、図表1をご覧ください。企業のRPA全社導入戦略(IT戦略)において典型的ともいえる「経営戦略」についてまとめています。経営戦略は、おおむね下記に分類されます。
経営戦略 | 概要 |
---|---|
人的リソースシフト | 業務の効率化を進めて、効率化が進んだ業務から顧客接点に関わる業務に人材をシフトする |
売上拡大 | 処理時間やプロセスの短縮により、処理量を増やすことで売上の増加につなげていく |
コスト削減 | 業務の自動化ならびに効率化を進めていくことで、同業務に携わる要員の削減を図る |
グローバル標準化 | 導入を進めていくことで、業務のユニット化が進み、グローバル企業であっても業務の標準化が進められる |
図表1 RPA全社導入が目指すIT戦略 |
上記の戦略は、RPAシステムで実現できる「人がやっている作業の自動化」「一定の時間で効率良く業務を回せる効率化や正確性」「業務をまとめて部品化し、ユニットとして捉えることができる機能」を前提としています。
それぞれの機能を組み合わせて、経営戦略の実現を目指しますが、どの機能を優先と考えるかで、結び付けられる経営戦略は異なります。最近の新聞の報道などでは、デジタル分野の技術を活用した人的リソースシフトや、コスト削減がクローズアップされているようですが、グローバル企業における標準化や、処理量増加による売上増加などを志向する企業も存在しています。
「デジタル技術」というと、RPAも、その1つに位置付けられていますが、近年のAIやIoTなどのデジタル技術に関していえば、各企業で専門の組織を立ち上げる傾向があります。
具体的な組織名称の例を挙げると、「デジタル技術部」「デジタル企画部」「デジタル推進部」などの「デジタル」を頭に、後半には各企業の文化に則した名称などで構成されています。
これらの組織は、たいていの場合、経営トップの直下や、経営戦略や企画に携わる部門の中に位置付けられ、デジタル技術の戦略的な活用や導入によって、経営戦略の実現に貢献することをミッションとしています。
筆者も、デジタル技術の導入に関連した商談などで、顧客企業を訪問することがありますが、上記の部門の方々と打ち合わせを行うことが多くなっています。
まず、特徴的なのは計画の策定と実行に関わる体制です。
既存のシステム導入ですと、従来存在するIT部門が推進していますが、RPAを含むデジタル技術を活用した新システムの場合は、デジタル技術部門の役割が大きくなるでしょう。RPAシステムの全社導入の推進体制には、各企業の状況から大きく3つの形態があります。
下記の図表2はデジタル技術部門とIT部門が連携して進める場合の体制の例です。
全社的な導入であれば、上記の中でデジタル技術部門を含めた2つの形態が主流で、部門での導入やPoCであれば、いずれの形態でも導入があり得ます。
筆者個人としてお勧めなのは、デジタル技術部門とIT部門が協力して進めていくタイプです。経営戦略策定やデジタル分野の専門家と、企業や組織におけるITの専門家が協力して進めていくことが、RPAシステムのスムーズな導入を実現すると思っています。
もう少し、掘り下げて説明しましょう。RPAは既存のシステムの上に載るものであり、既存のシステムや運用を理解しているIT部門の知見が重要です。また、実際の導入に当たって、各部門との交渉や調整が難航することもあります。筆者がデジタル技術部門とIT部門が協力して進めていくタイプをお勧めする理由は、過去のシステム導入における「調整」の経験や、経営施策を実行に移していくときにリードしてきた経験の、両方が必要となることがあるためなのです。
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