米SECとCIA、いずれにとっても、パブリッククラウドは活動の中核を支える存在となっている。両組織の責任者がAWS Public Sector Summit 2018で、「なぜオンプレミスではだめなのか」を語った。
Amazon Web Services(AWS)が2018年6月中旬に米国ワシントンDCで開催したパブリックセクター(公共部門)のためのカンファレンス、「AWS Public Sector Summit 2018」には、1万4500名以上が集まった。公共部門に特化したイベントであるにもかかわらず、多くの主要ITベンダーによる年次カンファレンスを大きく上回る規模だ。
同イベントにおけるユーザーの話を聞くと、既にパブリッククラウドへの本格的な移行を進めている公共機関や非営利団体には、「自組織の使命を果たすために求められる業務が、根本的に変化してきている」との認識があることが理解できる。
本記事では、証券取引委員会(SEC)と米中央情報局(CIA)が語ったことをお届けする。いずれにとっても、パブリッククラウドは活動の中核を支える存在となっている。
SECのCIOであるパメラ・ダイソン(Pamela Dyson)氏は、「監視すべき取引データの急増」「金融テクノロジーの進化」「有能な人材を獲得し、引き留める」という3つの理由で、クラウドが必要だと話した。
SECは現在、1日当たり30億の取引データをクラウドに取り込み、分析しているという。データの総量は20PBに達している。また、米国における証券取引の55%を高速トレーディングが占めるようになっており、ロボアドバイザーによる取引が2020年には2兆ドルに達すると予測されている。こうした動きがさらにデータを増やし、市場に対する理解を難しくする。
SECがクラウドを本格的に利用するきっかけとなったのは、Facebookの株式公開だったという。同社は2012年2月に登録届出書を提出(上場は同年5月)。これに対するアクセスが殺到し、SECのWebサイトsec.govがダウン。SECは同年5月にCDNの採用や検索機能のクラウド化を実施し、切り抜けたという。
一方で、業務のより根幹的な部分に関わる課題も顕在化していた。
「大きな市場イベントが発生すると、SECではその時点の取引を再構築し、分析しなければならない。2010年の「フラッシュクラッシュ(瞬間的株価暴落)」では、データの再構築に何カ月もかかった。私たちには、もっとタイムリーな原因究明が求められている」
それまでにもSECは、データの急速な増加と監視・分析ニーズに対応するため、データセンターの仮想化および統合、組織全体にわたる統合的データウェアハウスの構築、さらにビジネスプロセスリエンジニアリングを実行してきたが、追いつけないことが明らかになっていたという。
そこでAWS上に分析システムを構築した。これが2013年に運用開始の「Market Information Data Analytics System(MIDAS)」と呼ぶもので、全米の取引所から、マイクロ秒単位でタイムスタンプされた取引データをクラウドに集約。「リアルタイムに近い形で」(ダイソン氏)分析が可能になったという。
MIDASでは数千の株式を対象とし、半年から1年間にわたるデータを活用した分析が可能とされている。フラッシュクラッシュの分析はもとより、市場を動かす力学についての理解を深めることに役立っているという。
今後は機械学習/AIの活用が日常業務の一部になる、とダイソン氏は言う。このためにSECは2018年5月、「Data Science Workstations(DSW)」を提供開始した。
これは、SECのデータアナリスト向けに、データ分析および機械学習のためのツールを、まとめて提供するシステム。
「DSWは有能な人材の引き留めに効果を発揮すると考えている。最先端の環境が、イノベーションの創出を促進するからだ」とダイソン氏は話した。
CIAのショーン・ロッシュ(Sean Roche)氏は、従来型のオンプレミスITを強く批判した。業務に直接貢献するのはソフトウェアであるにもかかわらず、ハードウェアや運用に大きなコストがかかる。ソフトウェアにしてもライセンス契約は硬直的で、用途に応じた構成や拡張がしにくく、CIAが求める機動性を提供できないとする。
「私たちは時に膨大なリスクを背負って情報を入手する。これを、独自のデータ構造を持つ、独自のデータベースに任せるわけにはいかない。こうした製品のライセンス契約に比べれば、フロリダのタイムシェアコンドミニアムの方がましだ」
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