レシート画像買い取りアプリで話題になった高校生CEOが今、やっていること今度はスタートアップ支援企業と提携(1/2 ページ)

2018年6月に大きな話題となったレシート画像買い取りのiOSアプリ「ONE」。高校生CEOの山内奏人氏にとって、これは実験的プロジェクトなのか、それともサステイナブルなビジネスを構築しようとしているのか。どんなビジネスモデルで、長期的には何を目指しているのだろうか。

» 2018年08月20日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 2018年6月、レシート画像買い取りのiOSアプリ「ONE」が反響を呼んだ。このアプリを開発したのは、高校生である山内奏人氏が設立してCEOを務めるスタートアップ企業、ワンファイナンシャルだということで、さらに大きな話題となった。

 「どんなレシートでも、アプリで撮影して登録すれば1枚10円になる」。アプリは6月12日午前6時に公開したが、1日も経たないうちに7万人以上から24万5000枚のレシートを買い取った。この時点で当初の予定をはるかに超えたとして、同社は同じ日の午後10時に、買い取りを「一時停止」した。

 その後レシート画像換金については、DMM AUTOとの提携で、対象をガソリンスタンドのレシートのみに限定して再開した。だが、それ以外の新たな取り組みについては、ワンファイナンシャルのWebに記載がない。ネットを検索すると、「ぴあデジタルコミュニケーションズとの提携で、マーケティングソリューションを展開」という2018年7月12日付のニュースリリースに出くわすが、具体的にはどんな活動をしているのかが想像しにくい。ONEで今起こっていることは、このアプリのユーザーなら分かるのだろうが、2018年8月初めの時点では新規会員登録ができず、ウェイティングリストにサインアップすることしかできない。

 そのONEで2018年8月6日、今度はスタートアップ企業を対象に人材紹介をはじめとした各種支援を行うフォースタートアップスがワンファイナンシャルと提携、名刺画像買い取りを始めると発表した。これで少なくとも、ONEにおける買い取りの対象がレシート以外に拡大したことは、ユーザーでなくとも読み取れる。

 そこで、山内氏自身と、今回の提携に関わったフォースタートアップスの幹部に取材した。山内氏たちのONEは実験的プロジェクトなのか、それともサステイナブルなビジネスを構築しようとしているのか。どんなビジネスモデルで、長期的には何を目指しているのかを知りたかった。

ワンファイナンシャル創業者CEOの山内奏人氏(中央)、フォースタートアップス取締役CFO兼コーポレート本部長の藤井優紀氏(左)、同執行役員兼GMの恒田有希子氏(右)

名刺の画像を登録するだけで、転職のきっかけになる

 ワンファイナンシャルとフォースタートアップスが、2018年8月6日にONEで始めたのは名刺画像買い取り。「港区、渋谷区、新宿区にオフィス所在地があるIT・インターネット関連企業に勤務しているユーザー」に限定して、1人につき2枚を撮影して登録すれば、150円に換金できる。

 フォースタートアップスは、今回のキャンペーンを「スタートアップ適性診断」と名付けている。名刺の情報から、送ったユーザーがスタートアップ企業で働くのにどれくらい適しているかを、暫定的に示す。そして一部の人たちに対しては、フォースタートアップス側から働きかけを行う。

 「名刺の画像を登録するだけで、転職のきっかけをつかむことができます。得られる情報は少ないですが、スタートアップ企業への転職に向いているかどうかは、ある程度想像できます」と、フォースタートアップス取締役CFO兼コーポレート本部長の藤井優紀氏は言う。

 「昨今のスタートアップ企業は、求めるスキルや経験がはっきりしていて、採用ハードルが高くなっています。例えば、経営企画ポジションなら戦略コンサルティングか、M&Aアドバイザリー経験者、もしくはベンチャー企業の経営企画出身者が望まれます。営業職になるとさらに門戸が狭くなります。各社のビジネスモデルが少しずつ違うため、「営業」というスキルと「事業領域」という経験がセットで必要になります。このような現状から、大手一流企業在籍の方が、書類選考で落選することも少なくありません」

 これは、「名刺情報」と聞いて、通常イメージする評価の仕方とは、ある意味で逆だ。大企業や上場企業で高い地位に就いていることが、必ずしも評価されるわけではない。成長企業に貢献できることがうかがえる情報の方が、よほど大切なのだと藤井氏は話す。

 フォースタートアップスは人材情報の供給元として、ビズリーチ、リクナビ、マイナビなどの転職情報サービスを活用している。だが、スタートアップ企業への転職支援にほぼ特化している同社は、そうしたサービスからの情報だけでは、人材を十分に発掘できないのだという。

 「インターネット/IT業界は、新陳代謝を繰り返しています。例えばオンラインゲームで急成長した企業が、VTuberやペイメント、自動運転などに軸足を移している例があります。私たちは、こうした変遷に沿った、業界内における人材の移動を支援している側面があります」と、執行役員兼GMの恒田有希子氏は説明する。

 変化の激しいインターネット/IT業界で、思うような仕事ができていないと感じていても、転職の経験がなくてやり方が分からず、きっかけもつかめない人は多いのだと恒田氏は言う。結局、スタートアップ企業に来るきっかけは、知り合いを通じた紹介ということになってしまいがちだ。

 こうして埋もれている人材にリーチする方法を多角化したい。そのためにONEを使いたいという。

 「また、弊社はスタートアップ関係者の間では知られる存在になっていますが、インターネット/IT業界全体における認知度はまだまだです。弊社のことをより多くの人に知ってもらいたいと考えています。山内さんを応援したいという気持ちも、もちろん大きいです」(恒田氏)

 今回のキャンペーンは実験的な位置付けだが、「うまくいった場合、対象を他の区に広げるなどして継続することを考えています」(藤井氏)という。取材したのはキャンペーン開始の翌日。前述の通り、ONEの新規会員登録ができない状態が続く中でも、開始当日は1日の目標を大きく超えたという。

もうレシートだけではない、画像買い取りで広がる可能性

 知り合いだった恒田氏に、今回の提携を持ち掛けたのは、山内氏の側だという。山内氏は、これまでと違う形で、ユーザーを支援できると考えたからだと話す。

 「名刺を登録しておくだけで、的確なタイミングで『転職しませんか』という知らせが来るようになれば、意味があるのではないかと考えました。転職という、人の生活の中で重みのある意思決定について私たちがお手伝いできるなら、社会の役に立つと思いました。また、例えば1年後に同じような形で名刺情報を取得するチャンスがあれば、その人のキャリアを追えるようになります」

 「これまで(ONEでは)、データを買い取ってクライアントに売るというビジネスを進めてきましたが、その先にある世界観のようなものを築いていくきっかけが欲しいと思いました。例えば就職活動中の学生に履歴書画像を送ってもらうことも考えましたが、よりスモールスタートしやすく、価値が出しやすい取り組みとして、フォースタートアップスと一緒にやりたいと考えました」

 そもそも、フォースタートアップとの今回の提携以前に、ONEは「レシート買い取りアプリ」から、「画像買い取りアプリ」に進化しているのだという。クライアントの依頼を受け、例えば日用品や保険証券をスマホで撮影・登録してもらい、買い取るキャンペーンを実施してきたという。

 「ONEでは60〜70万のアプリダウンロードがあり、日によって異なりますが5〜8割がアクティブです。このため、クライアントが多数のユーザーを対象に、欲しい情報を即座に集めることのできるメディアとして機能しています。例えば部屋の写真を送ってもらえば、部屋に何を持っているのかが分かります」

 ONEにおけるビジネスモデルは、基本的には次のようになっている。

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