VMware Cloud on AWS (VMC on AWS)の提供開始から1年。VMwareが2018年8月に開催した「VMworld 2018」で、その後のさまざまな進展が明らかになった。VMC on AWSに関する最新情報をお届けする。
VMwareがAmazon Web Services(以下、AWS)のデータセンターでVMware vSphereを稼働するVMware Cloud on AWS (以下、VMC on AWS)の提供開始から1年。VMwareが2018年8月に開催した「VMworld 2018」で、その後のさまざまな進展が明らかになった。以下では、同イベントで入手したVMC on AWSに関する最新情報をお届けする。
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VMworld 2018の展示会場におけるAWSブースで、VMware CEOのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏がAWSのエンジニアたちに対して真剣に語りかけている姿を、筆者は目撃した。VMwareがVMC on AWSにかけている期待と熱意は、このことからも分かる。
では、AWS側には、どこまでの期待と熱意があるのだろうか。
VMwareとAWSは、経営層からエンジニアリング、マーケティング、営業まで、あらゆる部門で連携を進めているという。
「VMC on AWSはマーケティングパートナーシップではない。真のエンジニアリングパートナーシップだ」と、AWSのエンタープライズアプリケーション担当バイスプレジデント、サンディ・カーター(Sandy Carter)氏は話す。
VMwareとAWSは毎週、エンジニアリングに関するミーティングを行い、VMware NSXとAWSのDirect Connectおよびデータセンターネットワークとの連携をはじめとした課題をクリアしてきたという。
「Amazonでは、製品ロードマップの90%が顧客のフィードバックを起点としている。製品ありきではない。そこでVMC on AWSでは、主要なユースケースを両社で話し合ってから、エンジニアリング作業を進めてきた」(カーター氏)
後述するが、ふたを開けてみると、顧客がアプリケーションあるいはデータセンター全体を、社内データセンターからVMC on AWSに移行するケースが非常に多いという。ディザスタリカバリ用途での利用なら、ネイティブなAWSサービスが絡む余地は多くないかもしれないが、アプリケーション/データセンター移行では、ネイティブAWSサービスの利用によって既存アプリケーションの改善や拡張を図る需要が見込める。こうしたことからも、AWS側のボルテージは高まっているようだ。
VMwareのシニアバイスプレジデントでクラウドプラットフォーム事業部門ゼネラルマネージャーであるマーク・ローマイヤー(Mark Lohmeyer)氏は、これを次のように解説する。
「AWSは顧客志向に徹している会社だ。そのAWSは顧客から、どれだけVMware Cloud on AWSを気に入っているかを聞かされている。顧客は両社のサービスがもっと統合されることを望んでいる。AWSはこうした顧客の期待に応えようとしているということだ」
「例えば私たちは顧客から、大容量ストレージが必要だと聞いた。VMC on AWSでは従来、こうしたニーズを直接接続のSSDで満たすことができなかった。そこで両社で解決策を検討した結果、最も自然な解決策は、vSANを通じてAmazon EBSをVMC on AWSから使うことだという結論に達した。その後6カ月を費やし、今回この機能を正式に発表できた。今後も顧客が増えるに従って、新たな機能が求められるようになっていくだろう。私たちは一緒に、顧客の問題を解決する努力を続けていくことになる」
当初VMwareは、「2018年中に世界中の全AWSリージョンでVMC on AWSを展開する」と宣言していた。今回のVMworldでは、「2019年中」という表現に変わった。とはいえ、展開は今後加速するという。
「VMC on AWSでは、四半期ごとに1リージョンを追加してきた。2018年の第4四半期からは四半期ごとに少なくとも4リージョンを追加していく」と、VMwareのローマイヤー氏は話す。
2018年8月末時点では5リージョン(オレゴン、北バージニア、ロンドン、フランクフルト、シドニー)での展開が始まっている。これが2018年末には10リージョンに急増する。
2018年中の東京リージョンにおける提供開始はほぼ確実となった。そして意外なことに、2019年第2四半期には大阪ローカルリージョンでも提供することが明らかになった。
AWSの大阪ローカルリージョンは、現時点では正式リージョンとは言いにくい。大阪のみを使うことはできず、しかも利用が限定されている。これはAWSが需要と投資のバランスを計りかねているためだと考えられる。しかし、VMC on AWSが大阪で提供されれば、特にディザスタリカバリのための利用が見込める。
例えば東京に自社データセンターを持っている企業が、AWSへの「オールイン」、すなわち全面的な移行を進めているとしても、現在VMware vSphere上で大部分の業務システムを動かしているのであれば、とりあえず大阪リージョンのVMC on AWSをディザスタリカバリ先とすることによりバックアップデータセンターを短期間に撤廃できる。
もちろん西日本にメインのデータセンターを構えている企業にとっても、大阪リージョンをメインとして使い、東京リージョンをバックアップとして使うことができるようになる。
こうしたvSphereユーザーのディザスタリカバリ需要によって大阪ローカルリージョンの規模が拡大し、「ローカル」でなく正式なリージョンへの昇格が実現する可能性がある。
「当初はディザスタリカバリが最もポピュラーな用途になるだろうと思っていた。だが、アプリケーション移行が一番人気だった。これは意外だった」と、AWSのカーター氏は話している。
カーター氏によると、VMC on AWSの3大用途は「アプリケーション移行」「ディザスタリカバリ」「既存のデータセンター撤廃」だという。アプリケーション移行といっても、(データセンター全体ではない)特定システム単位の移行という意味で、必ずしも小さなものではない。VMworld 2018では、マサチューセッツ工科大学(MIT)が約3000の仮想マシンをVMC on AWSに移行した例が紹介された。
ディザスタリカバリであれば、基本的にはVMC on AWSに閉じた使い方になる。一方、アプリケーション移行では、VMC on AWS上に移行したアプリケーションから、ネイティブなAWSサービスを利用する例が増えているという。
VMworld 2018では、Amazon EBS を、VMC on AWSのストレージであるvSANから拡張ストレージとして使えるようになったことが発表された。これを前述のMITも利用しているという。
「MITでは550TBのデータを移行しなければならなかった。これを1人で、複雑な作業なしにゼロダウンタイムで行うことができた。同校では、こうした大量データを保存する最もコスト効率の高い選択肢としてAmazon EBSを活用している」(カーター氏)
上では、「ディザスタリカバリであれば、基本的にはVMC on AWSに閉じた使い方になる」と記述したが、システムに関してはそうであっても、データに関しては必ずしもそうではない。VMC on AWSでは大容量データを扱えない。そこで、データのバックアップやディザスタリカバリにネイティブAWSサービスを使う例は増えてこざるを得ない。
VMC on AWSは「ホステッドプライベートクラウド」と表現できるサービスだ。AWSのデータセンター上で、複数の物理サーバを各顧客専用のものとして確保。この上に自動的にvSphere環境が構築され、VMwareによって運用される。
顧客はその利用に徹することができるが、拡張については柔軟に行えないのではないかという懸念を持つ読者は多いはずだ。だが、VMC on AWSでは当初から、運用ポータル上で容易に物理サーバを増減できる。この点は、社内データセンターでvSphere環境を構築・運用するよりも優れている。
さらに興味深いのは、2018年6月に加わった「Elastic DRS」という機能。一定の条件を事前に設定しておくことで、この条件が満たされた場合に物理サーバを増やし、次に仮想マシンの物理サーバに対する負荷の平準化が図られる。
もともとvSphereには、「DRS(Distributed Resource Scheduler)」がある。事前に設定した条件に基づき、物理サーバ間で自動的に仮想マシンを再配置することで、物理サーバの負荷を平準化する機能だ。Elastic DRSは、DRSに物理サーバの自動追加機能を付け加えたものと表現できる。
日本では、そもそもDRSがあまり活用されていないとされる。これは、せっかくvSphereにクラウド的な運用自動化を助ける機能が備わっているのに、運用でそのチャンスを無にしているとも指摘できる。DRSをさらにクラウド化したElastic DRSは、こうした硬直的な運用を変えるきっかけになるかもしれない。
アプリケーション移行にしろ、データセンター全体の移行にしろ、仮想マシンとデータを一括して移行する作業は困難を伴う。
社内データセンターからVMC on AWSへの移行では、「Hybrid Cloud Extension」と呼ばれる仕組みにより、レイヤー2トンネルを張った上で、(vSphereのバージョンが異なっても)vMotionにより仮想マシンをゼロダウンタイムで移行できるようになっている。だが、大規模な環境を移行しようとすると、長い時間がかかってしまう。
これを改善するのがHybrid Cloud Extensionの新たな機能、「Bulk Migration」。ストレージレプリケーションでデータをまず送ってしまい、その上でvMotionを実行することにより、vMotionでの移行はデータを送った後の差分で済むことになる。
VMC on AWSでは、当初4ノード、すなわち4台の物理サーバが最小構成だった。しかし、2018年8月の機能強化で、最低3ノードから環境を構築できるようになった。東京リージョンの開設には間に合わないだろうが、2018年9〜11月には、3ノード環境を2ノード分の料金で使える期間限定キャンペーンを実施するという。
また、VMC on AWSでは、一定期間の試用を目的とした1ノードでの利用もできるようになっている。
AWSは今回のVMworldで、「Amazon RDS on VMware」を発表した。これはAWSが初めて、他のITインフラベンダーと提携してAWSデータセンター外にAWSサービスを提供する試みといえ、非常に興味深い。同サービスの提供理由をカーター氏に聞いたところ、同氏はこう答えた。
「多くの顧客が、オンプレミスでのマネージドデータベースを求めている。特に大企業からは、『クラウドソリューションに関する次の一歩を踏み出すためにこうした機能が必要だ』と聞いている。こうした声に基づき、VMwareと相談して提供することになった」
今一つ利用シーンを想像しにくいが、例えば次のようなことは考えられる。
VMwareはVMworldの基調講演において、IoTのコンピュートエッジでRDS on VMwareを動かすデモを見せた。また、VMwareは既に、AWS Greengrassのサポートを発表している。この2つを考え合わせると、IoTのコンピュートエッジにおけるインフラはProject Dimensionで管理し、アプリケーションに関してはGreengrassやRDS on VMware、その他のAWSによるサービスを組み合わせて運用するといったIoTソリューションにつながる可能性が、少なくとも考えられる。
他の記事でも紹介しているように、Project DimensionはIoTのコンピュートエッジだけでなく、企業の拠点にも適用される余地がある。そこでRDS for VMwareも、サービスとしてのVMwareの浸透と共に、支店や中小企業に広がる可能性がある。
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