Arm仮想化が象徴する、IoTとVMwareのビジネスモデルの意外な関係IoT技術責任者のレイ・オファレル氏に聞いた

VMwareが2018年8月のVMworld 2018で行った発表で、IoTという多様性に富んだ市場に対する同社のアプローチ、そして同社の全社的なテーマとの関係が見えてきた。

» 2018年08月30日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 VMwareは2018年8月27日、年次イベント「VMworld 2018」で、Arm CPU向けハイパーバイザと、エッジ向けハイパーコンバージドインフラ(HCI)の設置・運用代行サービス「Project Dimension」を発表した。この2つの発表を通じて、IoTという多様性に富んだ市場への、ITベンダーとしてのVMwareのアプローチがはっきりしてきた。

 以下では、VMware上席副社長でCTOのレイ・オファレル(Ray O'Farrell)氏や、クラウドプラットフォーム事業部門バイスプレジデント/CTOのキット・コルバート(Kit Colbert)氏に確認したことに基づき、VMwareのIoT戦略についてお届けする。オファレル氏はIoTやブロックチェーンなど、先進的技術に関する同社の活動において、技術的な側面を率いている。

VMwareが発表したArm仮想化とProject Dimensionとは

 まず、VMwareがVMworld 2018で発表したのは、64ビットArm CPU用のESXiハイパーバイザ、そしてIoTエッジやマイクロデータセンターの展開や運用を容易にする「Project Dimension」のテクノロジープレビュー版提供開始だ。

 Armの仮想化は、一般的なデータセンター用途に向けたものではない。IoTゲートウェイなどの組み込み機器を想定している。組み込み機器でハードウェアとソフトウェアのライフサイクルを分離したい、アプリケーションの機動的な展開/更新を行いたい、IoT機能の可用性を高めたいといった場合に適しているという。運用のために組み込み機器上でフル機能のvCenterを動かすわけではない。将来的にArmで汎用アプリケーションが動くようになれば、下記のProject Dimensionを適用することを考えているようだ。

 一方、Project Dimensionは、VMware vSphereベースのHCIとしての、IoTエッジ/マイクロデータセンターの設置や運用を代行するサービス。仮想化マイクロデータセンターといっても、必ずしも大げさなものでなくてよい。例えば小さいものでは手のひらに乗るサイズのコンピュータ3台で構成したものなどが考えられるという。

 イメージとしては、顧客がWebポータルでマイクロデータセンターのサイズ(処理能力)とサービスレベル、設置場所を指定すると、ハードウェアベンダーのスタッフが顧客に代わって現地に行き、設置する。SD-WAN製品に似て「ゼロプロビジョニング」であり、現地での作業はほぼ設置とネットワーク接続のみ。ネットワーク設定を含む初期構成の大部分は、リモートでクラウドから送り込むことができる。その後のパッチ当てをはじめとするソフトウェアメンテナンスはVMwareがオンラインサービスを通じて提供。ハードウェアのトラブルシューティングやサポートは、ハードウェアパートナーが行う。

 また、顧客はWebポータルを通じて、自社管理下にある全てのエッジロケーションを対象とした稼働状況の監視や、一部の構成変更などができる。

顧客はWebポータルでエッジの稼働状況を監視できる

 VMwareはProject Dimensionについて、「VMware Cloud on AWSで培ったノウハウを適用したサービス」といった表現もしている。加えて、SD-WAN製品の一般的な構築・運用アーキテクチャを取り込んでいるとも言えそうだ。実際、VMwareは同社が買収したVeloCloudのSD-WANを、Project Dimensionにおけるネットワーク接続コンポーネントに採用するとしている。

 「プロジェクト」という名前が付いている通り、Project Dimensionは正式に提供開始されたわけではない。現時点ではDell EMCとLenovoをハードウェアパートナーとし、限定顧客を対象にテクノロジープレビューを開始した段階。ニーズや運用上の課題を確認しているところだという。正式なサービス開始時期は未定としている。

 VMwareは2017年のVMworldで、エッジデバイスのライフサイクル管理を行う「Pulse IoT Center」を披露した。この時点では基本的に、2層構造(データセンター/クラウドとエッジデバイス/システム)に基づいて同社のIoTへの取り組みを説明していた。

 2018年の発表で2017年と大きく異なるのは、「エッジコンピューティング」とも呼ばれる動きに焦点を当ててきたことにある。つまり、ビデオ画像へのリアルタイムでのAI適用をはじめとして、「エッジとクラウド/データセンター」の2層構造では対応し切れないケースは多い。安定的なネットワーク接続と帯域を確保できるかという問題に加え、伝送遅延を考慮しなければならないからだ。

 Project Dimensionは、3層のIoTシステムを構築・運用する人たちが共通に遭遇する、エッジコンピューティングシステム(VMwareはこれを「コンピュートエッジ」と表現している)関連の課題を解決しようとしている。まずコンピュートエッジは、単一のコンピュータでいいのか。多数の物理拠点への展開作業をどうするか。故障をどう検知し、これに対応するか。さまざまな場所に散在するコンピュートエッジの稼働状況をどう監視するか。

 Project Dimensionでは、VMware vSphereとvSANを採用した複数のコンピュートノードによるHCIで、可用性の問題に対処する。また、コンピュートエッジの設置を(料金体系は未定だが)請け負い、設置後に全てのコンピュートエッジをユーザー組織が集中管理できるようにする。Pulse IoT Centerと併用すると、IoTエッジとコンピュートエッジを単一画面で統合的に管理できる。

 全体的にVMwareは、「IoTシステムを展開しようとしている組織が自ら関与したくない部分を肩代わりする」ことで、IoT分野において自社の存在価値を発揮しようとしている。

 「IoTの多様性」という観点で考えると、ハードウェアにはさまざまなフォームファクター(形状)や機能が求められる。VMwareは、ハードウェアベンダーとの協業でこれに対応しようとしている。

 Armの仮想化を行う当面の理由は、Arm上で動くソフトウェアプロセスを、ハードウェアと分離したいというニーズに応えるため。

「IoTの多様性」と「VMwareビジネスのサービス化」の関係

 「産業に応じた多様性のため、VMwareがIoTで大きな事業を築こうとする際のハードルは高いのではないか」という筆者の質問に、オファレル氏は次のように答えている。

 「確かにデバイスエッジでは多様性が高い。だが、コンピュートエッジを考えれば、この多様性は低下する。VMwareは伝統的に、こうした部分でサイロが生まれている場合に、仮想化や管理のレイヤーで違いを抽象化することに力を入れてきた。例えばデータセンターでは、さまざまなOSをまとめ上げた。エッジでも同じことをする必要がある。ただし、エッジでは多様性がさらに高く、ハードルは大きい」

 「とはいえ、さまざまな産業に共通のパターンは見いだせる。エッジではIoTゲートウェイなどの比較的非力なコンピュートデバイス、そして(マイクロデータセンターでは)より洗練されたITインフラ、そして(プライベート/パブリックの)クラウドコンピューティングの構成だ。ソフトウェア的に言えば。エッジでは何らかの組み込みOSが動く。これについてはパッチやアップデートなどの管理が行われなければならない。そしてエッジに近い部分で、ハイパーコンバージドな汎用ITインフラが必要だ。そしてプライベートあるいはパブリックのクラウドインフラが求められる。このモデルは至るところで繰り返されている。そこで私たちは、エッジデバイスの管理と、コンピュートエッジでのハイパーコンバージドインフラおよび管理を提供していく」

 すなわち、ハードウェア面でのユースケースに応じた多様性は、ユースケースに応じた機器を開発・提供するさまざまな企業と提携することで吸収する。その上で、ハードウェアベンダーには取り組みにくい運用関連のソフトウェアやサービスを、ユースケースに非依存なものとして提供するということになる。

 「とはいえ、コンピュートエッジでは、当初想像していたよりも特殊な要件は少ない」とコルバート氏は話す。前述のProject DimensionのWebポータルでは、パブリッククラウドに似た感覚で、コンピュートエッジのサイズを「スモール」「ミディアム」「ラージ」の3つから選べるようにしている。この3つでおそらくニーズの80%を吸収できるという。実際、Project Dimensionで当初提供されるハードウェアは、IoT向けに特別に設計されたものではないという。屋外対応などについては、ニーズを見極めた上で、選択肢としての追加を考えていくという。。

 興味深いのは、IoT、店舗、小規模拠点で共通に、Project Dimensionのような遠隔管理ソリューションが適用できることだ。

 VMwareの製品/クラウドサービス担当COO(最高執行責任者、ラグー・ラグラム(Right Raghuram)氏は今回のVMworldで、「(Project Dimensionを)エッジだけに限る必要はない。支店やデータセンターにも適用していける可能性がある」と話している。

 Project Dimensionは、IoTのコンピュートエッジを対象としたソリューションとして出発するものの、それに限定されるものではない。将来的には、VMwareが全社的に大きなテーマとしている「サービス化」を進めるための、切り口の一つに発展していくものと解釈できる。

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