みずほ銀行、三井住友海上、三菱UFJ信託銀行。3大金融グループの企業がこぞって、創業して間もないシード期のスタートアップ企業を対象とした支援サービスに協力することを明らかにした。3社の狙いはどこにあるのだろうか。
みずほ銀行、三井住友海上火災保険(以下、三井住友海上)、三菱UFJ信託銀行。3大金融グループの企業がこぞって、創業後間もないシード期のスタートアップ企業を対象とした支援サービスに協力することを明らかにした。
各社の狙いはどこにあるか。もちろん最終的にはビジネスにつながることを期待している。だが、スタートアップ企業を対象とした活動は、3社ともこれまで行ってきている。ビジネスマッチングや各種セミナーなど、内容も多彩だ。今回シード期のスタートアップ企業支援サービスに協力する理由は、スタートアップ企業側の目線に立つことにあるという。この時期特有の、「何をどうやればいいか分からない」という悩みに応え、役立つことができるかどうかから始めたいのだと、3社は口を揃える。
3社が協力するのは、成長企業支援のフォースタートアップスが2018年8月下旬に提供を開始した「forSEED」。設立して間もない企業が抱くさまざまな悩みに答える会員制サービスで、同社は「コンシェルジュサービス」と呼んでいる。フォースタートアップスの取締役 CFO(最高財務責任者)兼 コーポレート本部長である藤井優紀氏が中心となり、自身の前職であるスタートアップ企業での経験を基に構築したという。
「前職の技術系ベンチャーでは人数も少なく法務から財務経理、広報、開発、ホームページデザインまで、さまざまな手配や確認をしなければならず、忙殺された。広く浅く、いろいろなことをすぐに聞けるようなサービスが欲しかった」(藤井氏)
会費を支払った会員に対し、チャットで質問や相談に対応する。対応内容は、資金調達の相談、経理、短期エンジニア派遣、プログラミング、ビジネスマッチングなど、基本的には何でも受け付ける。さまざまな悩みの一元的な窓口になることが特徴だ。
フォースタートアップスは成長企業向けの人材支援を展開しており、人に関するニーズには対応しやすい。3社とも、自社にはできないこととして、特にこの点で補完関係が得られることに期待しているという。
シード期のスタートアップ企業に対する支援は、「インキュベーター」あるいは「アクセラレーター」と呼ばれる企業も行っている。だが、こうしたところはまだ数が少なく、投資を伴う場合には、支援できる企業の数が限られる。また、スタートアップ企業の悩みを全般的に解決できるような機能を持たないという。
一方、フォースタートアップスでこのサービスに関わるメンバーは、ほぼ全員スタートアップ企業出身。従って、実経験を踏まえた細かいアドバイスができるとする。そして、対応に専門的な知識が必要な相談については、3社が、それぞれの得意分野に応じてフォースタートアップスから依頼を受け、別料金で引き継いで対応する。
では、3社はどんなサービスを提供するのか。
三菱UFJ信託銀行は、信託銀行として証券代行業務、つまり株主名簿の管理や配当金の支払いなどを行い、日本の上場企業で42%のシェアを持つ。株式上場支援でも、ほぼ5割のシェアだという。
シード期のスタートアップ企業であっても、株主総会の招集通知や議事録など、さまざまなドキュメントを作成する必要がある。三菱UFJ信託銀行では、同社の会員制組織「IPO倶楽部」のWebで提供しているドキュメントテンプレートの一部を、フォースタートアップスから紹介を受けた企業に対し、無償で提供するという。
「ひな形の提供に始まり、ストックオプションのコンサルティングなどを含む、株式実務や資本政策、ガバナンスに関するコンサルティングを、一気通貫で提供できる」と、三菱UFJ信託銀行 証券代行営業推進部長、小澤寛高氏は話す。
三井住友海上保険は、リスク管理に関するコンサルティングを提供する。
「まず自社の進めている事業には、どのようなリスクがあるかを把握してもらいたい。早い段階でリスクを整理し、事故を起こさないための態勢を作ってもらう支援をしたい」と、同社理事で東京南支店長の馬場邦彦氏は言う。
スタートアップ企業では、個人情報保護に関する事故が成長や上場の妨げになることがよくあるという。保険によってリスクを排除するか、保有するかは、当然ながら各スタートアップ企業の判断。だが、保険に加入していれば大きな損害の発生を防ぐことができた例は多いはずという。
みずほ銀行は、主に融資とビジネスマッチングで、今回のサービスに協力する。
「以前は、スタートアップ企業では融資を受けることが難しいとされていた。このため、ベンチャーキャピタルによる投資にこだわるスタートアップ企業が多かった。だが、最近では、融資を受けやすい環境が整ってきた。そこで、資本と融資を使い分けた最適化を進めやすくなっている。成熟した企業には金融サービスを選ぶノウハウがあるが、創業当初のスタートアップ企業では『どうしたらいいか分からない』のが現状だと思う。成長ステージの最初の時期に、自社に適した資金調達のあり方を見つけて欲しい」と、みずほ銀行 イノベーション企業支援部 執行役員 部長の大櫃直人氏は説明する。
「結局、3社それぞれのサービスを使う方向へ誘導されるのでないか」という印象を抱く読者はいるだろう。だが、金融機関がスタートアップ企業を囲い込めるような時代ではないと、3社は言う。金融グループとしてはライバルである3社が、同一のサービスに協力する理由もここにあるという。
例えばみずほファイナンシャルグループには、ベンチャーキャピタル会社としてみずほキャピタルがある。だが、他のさまざまなベンチャーキャピタルにも出資しており、他金融グループが出資しているベンチャーキャピタルと連携することもあるという。また、同グループが運営するスタートアップ企業向けの会員制サービス「M’s Salon」では、幅広いベンチャーキャピタル会社とのマッチングイベントを開催してきた。
前出の大櫃氏は、「最も重要なのは、スタートアップ企業を支えるエコシステムを拡大すること。金融機関にしろ、ベンチャーキャピタルにしろ、それぞれ得手不得手がある。自社に足りないところを補完し合い、『寄ってたかって』企業の成長を促進したい。まずスタートアップ企業の役に立つことに徹し、その上で弊社のサービスを選んでもらえるなら有難い」と話している。
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