コモディティ化が進む、データセンターネットワーク製品市場で、「カテゴリーキラー」とも呼べる存在になっているベンダーがある。このベンダーは、どのようにしてシェアを拡大しているのか。
「イーサネット」という言葉は、この技術がネットワークの下位層におけるスタンダードとなり、また人々が意識するのはIP層以上であることから、あまり使われなくなってきているようだ。代わって、「ネットワークスイッチ」「ネットワークアダプタ」といった表現が増えている。
イーサネットアダプタおよびイーサネットスイッチに関しては、コモディティ化の進行も、ここ数年大きな話題となってきた。専門ベンダーが開発・製造する「マーチャントシリコン」と呼ばれるASICを使った、機能面での差別化を意図しない製品を採用する動きが、ハイパースケールデータセンターに始まり、一定の広がりを見せている。
こうした動きに、ある意味で逆行するかのように、自社開発チップを使った製品で存在感を示しているベンダーがある。以前はInfiniBandネットワーキング製品で知られていたMellanoxだ。
10Gbps以上のイーサネットアダプタ市場で、MellanoxはIntelに次いで第2位のマーケットシェアを獲得している(2017年、Crehan Market Share Report)。この市場では、2016年に、Cisco Systemsを抜いたという。しかも、2013年には4%だったシェアが、2017年には13%に急成長している。なぜなのか。
謎を解くカギの一つは、高速イーサネットへの注力、特に比較的最近(2016年)、規格が策定された25Gbpsイーサネットへの対応にある。Mellanoxはこの規格に当初から関わり、対応製品を市場投入した最初のベンダーとなった。このことも寄与して、25Gbps以上のイーサネットアダプタでは、64%のシェアを獲得している(Crehan Quarterly Market Share Server-Class Adapter-LOM-Controller 4Q’17)。
同じ調査によると、25Gbps以上のイーサネットアダプタ市場は2017年時点で2億9100万ドルだったが、2021年には11億7100万ドルに成長するという。4年でおよそ4倍になる計算で、Mellanoxがシェアを維持したと仮定すると、同社のイーサネットアダプタ事業は急成長することになる、
ただし、イーサネットネットワーク製品では、アダプタよりもスイッチの方が数倍大きな市場だ。ここでもMellanoxは興味深い戦略をとってきた。
まず、Mellanoxは「Spectrum」「Spectrum-2」といったデータセンタースイッチASICを開発・製造。これを使って自社ブランドの製品を開発している。さらにこのスイッチを自社ブランドで売るのに加え、他社にOEM提供している。公表された提供先には、Hewlett-Packard Enterprise、日立製作所、Penguin Computingがある。さらに、Broadcomには及ばないものの、ASICのみを他社に提供することもしている(こちらについては、提供先を公表していない)。
つまりMellanoxは、スイッチベンダーとスイッチASIC供給ベンダーの、2つの顔を持っているという表現もできる。自社利用、他社提供を含めた25GbpsイーサネットスイッチASICベンダーとして、同社はナンバー2の位置に付けているという。
スイッチのコモディティ化は、Facebookが立ち上げたOpen Compute Project(OCP)によって、エコシステムが広がってきた。MellanoxはOCPで、スイッチハードウェアに対し、複数のネットワークOSから選択して任意のOSをインストールするプロセスの簡素化を実現する「Open Network Install Environment(ONIE)」、そしてスイッチASICを抽象化する共通APIである「Switch Abstraction Interface(SAI)」を支援してきた。
ONIEはスイッチのOSとスイッチハードウェアを別のベンダーから調達する際の面倒を防ぎ、ユーザーが自身の目的に適したスイッチOSを選び、調達したスイッチに導入する作業の大部分を自動化する。この点で、スイッチOSとスイッチASICを、積極的に分離する機能を果たす。
MellanoxはONIEを支持し、自社のスイッチOS「Onyx」に加え、一部大規模データセンター運用者の間で利用が広がっている「Cumulus Linux」を自ら販売している。スイッチベンダーによるONIEのサポートは徐々に広がっているが、自社でスイッチASIC、スイッチハードウェアを開発・提供しながら、自社および他社のスイッチOSを販売する例は、他に見当たらない。加えて、同社はMicrosoftのSONiCもサポートしている。
一方、SAIはMicrosoftが提案し、Broadcom、Mellanox、Dell、Cavium、Barefoot、 Metaswitchといった企業の協力で開発した、スイッチASICの共通プログラミングインタフェースだ。スイッチASICのベンダーが異なっても、単一のインタフェースを通じてプログラムできる。
Microsoftは、SAIがOCPによって正式採択された際のブログポストで、次のように記している。
「SAI以前は、ハードウェアの複雑さと、これがプロトコルスタックソフトウェアと緊密に結びついていることによって、私たちは、自身のネットワーキングニーズに照らして最高のハードウェアとソフトウェアの組み合わせを選択する自由を否定されてきた。SAIにより、ソフトウェアは変更なしに、複数のスイッチチップをプログラミングできる。このため、ルータプラットフォームが、シンプルで一貫性に優れ、安定したものとなる」
つまり、SAIは「最高のハードウェアとソフトウェアの組み合わせを選択する」ためのツールの一つということになる。
ONIEとSAIは、どちらも、これまで、スイッチのハードウェアとソフトウェアを一体として供給し、付加価値を追求してきた従来型のネットワーク製品ベンダーの考え方とは大きく異なる。スイッチベンダーにとっては付加価値を奪われかねない動きだ。
だが、既存ネットワークベンダーには脅威であっても、もともとイーサネットスイッチに関しては実質的に「後発参入者」といえるMellanoxにとって、OCPで2013年に始まったネットワーク関連プロジェクトは、同社の取り組むべき市場を形作ってくれるという言い方ができる。
Mellanoxが注力する高速データセンターネットワーク市場は、ハイパースケールデータセンターによってけん引される。そして「ハイパースケールデータセンター第一主義」に基づき、新たに開発されてきたインフラ製品の調達モデルがOCPだ。だから、OCPの活動を支援し、OCPが示すハイパースケールデータセンターによるネットワーク製品調達の「流儀」に沿って、製品を提供することがチャンスにつながる。
では、OCPが提示する新たなネットワーク製品の調達モデルに沿って、どのように価値を発揮するか。少なくともMellanoxのマーケティング担当バイスプレジデントであるケビン・デイアリング(Kevin Deierling)氏は、次の点を訴えている。
スイッチASICでは、パケットサイズに関わらずゼロパケットロスであること、そして遅延(レイテンシ)が安定的に低いこと。また、ソフトウェアストレージやビッグデータ処理の広がりで、データセンターネットワークでは、ストレージI/Oの扱いが大きな課題となってきている。InfiniBandベンダーとしての経験が長い同社は、NVMe over Fabrics(NVMe-oF)やRDMA over Ethernetに対応し、CPU負荷と遅延の低いスイッチ、イーサネットアダプタを提供していくという。
64ビットArmチップを搭載したイーサネットアダプタ、「BlueField SmartNIC」では、軽量Linuxを搭載し、さまざまな処理のオフロード機能を果たす。IPフィルタなどにより、イーサネットアダプタのレベルでセキュリティを強化することもできる。
つまり、ハードウェアの基本的な性能に加え、高速イーサネットを使いたいユーザーの用途に沿った機能の開発に注力していくということのようだ。
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