── コンテナやマイクロサービスのメリットとして、チームごとに権限移譲することなどから、現場のオーナーシップやモチベーションは大きく上がると言われていますね。
安田氏 間違いなく上がります。アプリケーションエンジニア(デベロッパー)がコンテナを使ったアジャイル開発やDevOpsに取り組み始めると、「もう元には戻りたくない」「何であんな環境で開発しなくちゃいけないの」と皆が口をそろえます。
効率もスピードも上がって開発に集中できるようになるため、従来の開発環境や手法に戻りたいとは思えなくなる。最新の技術やフレームワークを取り入れていくことはモチベーションアップにもつながる点で、従業員満足度に貢献します。
何より一人一人がビジネスの目標が分かり、自分たちの貢献度もはっきりと実感できるようになる。このため生き生きと楽しく仕事ができるようになるんです。これはわれわれが経験している全ての現場がそうです。
── 経営層は、DXを推進するためにITをどう考えるべきでしょうか。
安田氏 まず経営とITは一体化していることをあらためて認識することでしょう。ITはツールですが、ツールを入れることでデジタルトランスフォーメーションを実現できるわけではありません。これは当たり前です。しかし、デジタルトランスフォーメーションをITと考えてしまうと、この当たり前のことが分からなくなる。
デジタルトランスフォーメーションという言葉は「単なるバズワード」と揶揄(やゆ)されることも多いですが、ITやツールを直接意識させない点では、私はとてもいい言葉だと思っています。
かつて、「DevOps」においてはツールの話ばかりが注目されてしまい、それが正しい理解を阻害する一因になっていた。「デジタルトランスフォーメーションって何?」と悩む経営者もいる中で、「AIやIoTなどの先端テクノロジーを活用して……」といった説明をしてしまうと同じことになるわけですが、「ビジネスの再構築」と捉えればそうした誤解に陥らない。
テクノロジーでしかできないことを前提に、新しいビジネスモデルを考え構築することがDXなんです。コンテナ、マイクロサービス、DevOpsなど、各論についてはその後で説明していけばいいと思います。
── 最後に経営層にメッセージをいただけますか。
安田氏 偉そうなことは言えないのですが、自分たちを取り巻くビジネス環境の変化はもちろんですが、技術領域で起きている環境の変化にもアンテナを張る必要があると思います。その上で自分たちが到達する先の「ビジョンを明確化」する、それを「現場に対し伝わるまでメッセージング」することの2つだと思います。
自分たちの責任で、自分たちの手で取り組んでいくんだという強い思いを発してほしい。もちろん現場もそうしたメッセージを受け取り、覚悟を持って取り組んでほしいと思います。
テクノロジーの力を使って新たな価値を創造するデジタルトランスフォーメーション(DX)が各業種で進展している。だが中には単なる業務改善をDXと呼ぶ風潮もあるなど、一般的な日本企業は海外に比べると大幅に後れを取っているのが現実だ。では企業がDXを推進し、差別化の源泉としていくためには、変革に向けて何をそろえ、どのようなステップを踏んでいけばよいのだろうか。本特集ではDXへのロードマップを今あらためて明確化。“他人事”に終始してきたDX実現の方法を、現実的な観点から伝授する。
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