アナリティクス/機械学習/AIブームの裏で、各業界の「実需」を語るSAS「全社分析基盤の構築進む」

アナリティクス/機械学習/AIはブームだが、「実需」と呼べるようなものはどこにあるか。SASが語った業界別のトレンドからは、その一端がうかがえる。

» 2019年02月12日 10時13分 公開
[三木泉@IT]

 アナリティクス/機械学習/AIへの取り組みを強化する非テクノロジー系企業は増えているが、「概念検証(PoC)で終わるものばかり」といった話もよく聞かれる。では、「実需」と呼べるようなものは何なのか。

 「デジタルトランスフォーメーション」が叫ばれる前からこの分野の総合ベンダーとして知られてきたSASが語った業界別の顧客トレンドからは、同社の注力分野が強調されているものの、各業界における実需の一端が読み取れる。なお、日本法人は2018年、3年連続の2桁成長および過去最高の売り上げを達成したという。

 2019年2月5日にSAS Institute Japanが行った戦略説明会で、代表取締役社長の堀田徹哉氏は業界別の2018年におけるトレンドを次のように紹介した。

金融業界

 金融業界では、マネーロンダリングおよびテロ資金供与への対策が急務になっている。このための政府間会合FATF(Financial Action Task Force)による「対日第4次相互審査」が2019年10月に予定されており、前回の審査の結果が芳しくなかったこともあり、次回に向けて官民を挙げた取り組みが進められている。金融庁が2018年2月に示した対応ガイドラインには、取引モニタリング/フィルタリングなどが含まれており、これに機械学習を適用する動きが民間金融機関の間で進んでいるという。

 三菱UFJ銀行は、全社的なデータ分析/機械学習の統合環境を構築したという。これはSAS Japanが2017年に国内販売を開始したプラットフォーム製品「SAS Viya」を活用したもの。統計解析からディープラーニングまでを単一の基盤に統合でき、プログラミングスキルの有無や使用開発言語/ツールを超え、さまざまな立場の人々がアナリティクスや機械学習モデルの構築・利用を行える点、データと予測モデルの関係管理やモデルの判断根拠可視化を通じてガバナンスを効かせられる点などが採用の理由という。

 一方、ふくおかフィナンシャルグループは、SASの製品を採用して、リアル、デジタルにまたがる複数のマーケティング/営業チャネルを横断するリアルタイムのオムニチャネルプラットフォームを構築したという。

製薬/ライフサイエンス

 臨床試験データ分析・評価ではSASが事実上の標準になっているが、最近では臨床試験情報を研究者や一般に開示することで、透明性の向上を高める取り組みが進んでおり、これに同社のソリューションが採用されるケースが増えているという。また塩野義製薬は、SAS Viyaをプラットフォームとし、臨床試験解析の自動化などを進めているという。品質管理における規制への対応も進んでいるとしている。

 データ分析に基づくMR(営業担当者)の行動最適化への取り組みも見られるという。

製造/流通/輸送

 製造業では、マテリアルズ・インフォマティクス(データマイニングや機械学習によって新材料を効率的に探索する技術)などで、新製品開発におけるアナリティクス/機械学習の活用が勢いを増しているという。

 小売り、流通では高精度な需要予測に基づいてサプライチェーンの自動最適化を図る動きが見られるといい、2019年にかけては総合商社の情報分析基盤構築需要が見込めるという。また、鉄道や航空では顧客サービス高度化のための分析基盤構築が進みつつあるという。

2018年の動向を踏まえ、2019年は図のような活動に注力するという

SAS Viyaの展開とサービス対応

 SAS Japanは、特に新たなアナリティクス/機械学習の利用形態に向けたプラットフォーム製品として、SAS Viyaに注力している。上記の三菱UFJ銀行による採用の理由にもあるように、Python、R、Lua、SASと多様な言語に対応し、GUIを通じた利用も可能で、アナリティクス資産を全社的に共有・活用、ガバナンスを確保できる点などを特徴として押し出している。

 SAS Viyaの国内売り上げは、2018年に前年比で700%成長したという(もっとも、2017年に投入された製品なので、この数値はあまり参考にならない)。既存のSASユーザー組織では、SAS言語利用経験の有無に関わらず単一の基盤で業務が行えるなどの理由で導入されるケースがある一方、ビジネスユーザーを含めた全社分析基盤の必要性から導入を決めた非SASユーザー組織もあるという。

 なお、SASは中堅・中小企業にとってハードルが高いというイメージがある。こうした層に活用してもらうため、同社は2019年、国内パートナーを通じたサービスとしてのソリューション提供を推進するという。

 ただし、同社自身が自社製品の包括的なサービス化を進めるつもりはないと、堀田氏は説明している。グローバルでも日本国内でも、各製品の用途や目的に応じ、サービスとして提供すべきものは既にサービスとして提供しているという。一方、SASはグローバルで、現在CPUコア課金のライセンス体系に、従量課金を追加することを検討しているようだ。

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