AWSへ「電話システム」を移行するメリットはあるか?羽ばたけ!ネットワークエンジニア(14)(2/2 ページ)

» 2019年03月25日 05時00分 公開
[松田次博@IT]
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AWS上のVoIPサーバでPBXレスを実現

 企業が音声コミュニケーションをAWS上のサーバで実現することだけを目的に契約するのは非現実的だ。AWSの閉域接続などに固定費がかかるからだ。しかし、AWSが本来得意とするコンピュータシステムで導入済みの企業が、ついでにAWS上で音声コミュニケーションシステムを構築するなら、経済的で効果的な電話システムを構築できる。

 図2がその構成例だ。イントラネットは固定通信網と閉域モバイル網で構成し、クラウド接続事業者のサイトにラックを建てる。ここにイントラネットの回線と電話回線を引き込む。イントラネットの回線は既にシステムを利用するために引いてあるものを使う。閉域モバイル網はモバイル回線だけでなく、トラフィックの集中するところは固定回線が使える。図2のラックに引いているのは固定回線である。

図2 AWS上のVoIPサーバによる音声コミュニケーションシステムの構成例

 VoIPサーバとしてはオープンソースソフトウェアの「Asterisk」が使える。AsteriskはオンプレミスのPBXとして自治体などで実績がある。

 AsteriskはSIP(Session Initiation Protocol)というプロトコルで社内のスマホや固定IP電話機の電話番号とIPアドレスを保持しており、端末で相手の番号がダイヤルされると接続メッセージがAsteriskに送信され、Asteriskはそれを着信先の端末に転送することで通話を設定する。外線電話の場合はゲートウェイを通じて電話網へ接続要求が送信される。

 Asteriskは呼制御のメッセージを扱うだけで、音声パケットは端末の間で直接やりとりできるため、AWSのデータ転送料はごく少なくて済む。

 AWS上にVoIPサーバを置くことでオンプレミスと比較して信頼性が向上し、運用コストの節減も期待できる。端末数が増大してもキャパシティーの不足を心配する必要がない。

 AWSのメリットではないが、SIMフリーのスマートフォンに入れるSIMはパケット通信用だけでよいので、パケットの他に電話の契約が必要なキャリアのスマホを使うより大幅に電話料金を節約できる。ただし、外線から直接スマホに着信させたい場合は050番号をスマホに付与する必要がある。これは月額500円程度である。固定IP電話機も同様だ。

 今回はAWSに電話システムを移行するメリットを概観した。Amazon Connectを大規模なコンタクトセンターに適用してメリットがあるかどうかは検証の段階であり、メリットがあると断定はできない。しかし、業務量の変化が大きいコンタクトセンターでクラウドの柔軟性が発揮できると企業にとっては朗報である。近々にそのメリットが証明されることを期待したい。

 既にAWSを使っている企業がPBXレスをするためにVoIPサーバをAWS上に構築すると、メリットがある可能性が高い。閉域モバイル網、スマートフォン内線と併せて導入を検討してはいかがだろう。

【訂正:2019年3月26日午後0時40分】本記事の初出時、過去の報道に基づき、記事冒頭で「TOTOの経営判断について報じた記事では『電話システムをパブリッククラウドに移行することで災害対応一つとっても受信できるコール数を状況に応じて柔軟に増減できる』というユーザーのコメントを引いていた。企業の電話システムには内線電話を主体としたものと、コンタクトセンターがある。『受信できるコール数』という文言から、TOTOはコンタクトセンター、つまり『Amazon Connect』を使うようだ」としておりましたが、事実とは異なるという指摘がありました。お詫びして訂正いたします。該当箇所は既に修正済みです(編集部)

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECセキュリティ・ネットワーク事業部主席技術主幹。


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