VMwareは、「『プライベートクラウド』とは言わなくなっている」という。なぜなのか。「AWS」「Kubernetes」「IoT」という3つのキーワードから、その理由を探る。
「(社内で)『プライベートクラウド』とは言わなくなっている」と、ヴイエムウェア代表取締役社長のジョン・ロバートソン氏は、2019年3月19日の新年度事業説明会で口にした。そして新年度における日本法人のミッションの一つに、「データセンター/アプリケーションのモダナイゼーションにより、お客さまのパブリッククラウド移行の“架け橋”になる」ことを挙げた。
また、同社チーフストラテジスト(SDDC/Cloud)の高橋洋介氏は筆者に、VMwareが新会計年度にグローバルで注力していくのは、「ハイブリッド/マルチクラウド」「ネットワークセキュリティ」「コンテナ」の3つだと話した。
「プライベートクラウドとはもう言わなくなっている」というのはさすがに言い過ぎではないかと思う人もいるだろう。例えば「VMware Cloud on AWS(VMC on AWS)」について、「プライベートクラウドのリーダーと、パブリッククラウドのリーダーがパートナーになった」と事あるごとに説明してきたではないか。
だが、VMwareが、複数の賭けを通じて「従来のサーバ仮想化だけの会社」から脱皮しようとしていることは確かだ。同社が単純な「プライベートクラウド対パブリッククラウド」の議論を超えることで、これを進めようとしている。
あらゆる組織のあらゆるワークロードが、いずれかのパブリッククラウドに移行する――。これが今後数年のうちに実現することが誰の目にもはっきりしているのであれば、どれほど物事は簡単だろうか。もちろん、主要パブリッククラウドベンダーの業績が順調に成長している限りにおいて、各社は「移行が順調に進んでいる」と主張し続けることができる。一方で、「シンプルな勧誘/啓蒙(けいもう)活動だけでは、組織/ワークロードが(少なくとも自社が望むほどのペースでは)自らのパブリッククラウドに移行してくれない」と認識している事業者もある。
少なくともAmazon Web Services(AWS)はそう考えており、VMC on AWSおよび「AWS Outposts」という形で、このようなハイブリッドクラウドのニーズを拾うことに具体的な投資を行っている。また、この2つの取り組みの双方で、VMwareと提携している点も見逃せない。
VMC on AWSとAWS Outpostsで興味深いのは、ハイブリッドクラウドを、「物理的な場所」と「プラットフォーム」に分けて扱っていることにある。VMC on AWSは「物理的にはAWSのデータセンター、プラットフォームはVMware vSphere」という形でのハイブリッドクラウドだ。一方、AWS Outpostsは物理的にはユーザー組織のデータセンター、プラットフォームはAWSという形でのハイブリッドクラウド。付け加えると、AWS Outpostsには「VMware Cloud on AWS Outposts」というvSphereバージョンもあり、この場合はVMC on AWSと連携できる形で、vSphereをマネージドサービスとして利用できる。
VMwareはAWSと同様、「ハイブリッドクラウド」の実態が多様で、複雑なものであることを認識している。「プライベートクラウド」という言葉をもう出さなくとも、多くの組織がハイブリッドクラウドあるいはクラウド化を考えた場合に、vSphere(およびvSAN)の担える役割がまだ大きいと考えている。
実際、オンプレミスのITを今後どうしたいかについては、組織によって考え方が大きく異なる。主な目標からして、「データセンターを集約し、その数を減らしたい」「新しいITは機動力と柔軟性、自由度に富む環境でやりたい」「総体的なコストを減らしたい」「IT運用の負荷を減らしたい」などさまざまだ。しかも組織/ワークロードによって、許容できるリスクの種類や大きさは異なる。
VMwareは大まかにいえば、「(既存のvSphereベースの)データセンターを減らしたい、あるいは撤廃したい。だが、運用変更やシステム再構築のコストは避けたい」というユーザー組織/ワークロードに向けてVMC on AWSを提供し、「運用負荷を減らしたい」というユーザー組織に対しては、「vSphere運用代行サービス」あるいは「サービスとしてのvSphere」とも表現できるVMware Cloud on AWS Outpostsを提供する。
VMC on AWSの成功は、ハイブリッドクラウドの多様性という現実を広く示すために、VMwareにとって欠かせない。一方でその多様性のゆえに、同社の製品を採用するクラウドサービス事業者(「VMware Cloud Partner Program(VCPP)パートナー」)の存在もますます重要だと同社は強調している。
VMwareはVCPPパートナーに対し、仮想デスクトップなどのVMware側が運用するサービスのOEM提供を推進しようとしている。VCPPパートナーはこうしたサービスを取捨選択して活用することで、個々の企業顧客のニーズにきめ細かく対応しやすくなると説明している。
Kubernetesの勢いはすさまじい。そしてこのコンテナオーケストレーションプラットフォームは、ハイブリッドクラウドのプラットフォームとしても注目されるようになってきた。
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