2019年5月末、「Windows 10 May 2019 Update(バージョン1903)」が一般向けに正式にリリースされ、Windows Updateを通じて機能更新プログラムの配布が開始される予定です。今回が「半期チャネル(対象指定)」(SAC-T)が廃止されて初めてのリリースとなります。企業のWindows 10クライアントへの影響について再確認しましょう。
Windows 10には「半期チャネル(Semi-Annual Channel:SAC)」と「長期サービスチャネル(Long Term Servicing Channel:LTSC)」の2つの更新チャネルがあります(これ以外にInsider Previewもありますが省略します)。
汎用(はんよう)的なデスクトップOS向けであるSACでは、春と秋の年2回、新バージョンが「機能更新プログラム」としてリリースされ、18カ月または30カ月のサポートが提供されます。
一方、医療機器やキオスク端末など、主に専用デバイス向けに提供されるLTSCは、機能更新プログラムとしては提供されず(メディアからの新規インストールのみ)、メインストリームサポート5年と延長サポート5年の計10年間のサポートが提供されます。SACは18カ月または30カ月のメインストリームのみで、延長サポートが提供されないと考えてよいかもしれません。
これまでのSACでは、Windows 10の新しい機能更新プログラムが「半期チャネル(対象指定)」(SAC-T)とSACの2回リリースされてきました。今回のWindows 10 バージョン1903から、SAC-Tは廃止となります。詳しくは、筆者の別の連載記事を参照してください。今回はWindows 10 バージョン1903の展開とその後について、簡潔に紹介します。
先に言っておくと、「Windows Server Update Services(WSUS)」を導入して、Windows 10クライアントの更新を管理している場合、SAC-Tが廃止になったからといって何一つ影響はありません。
しばらく前のWindows 10からは、機能更新プログラムが一般向け(旧SAC-T向け)にリリースされると、同時にWSUSでも機能更新プログラムが利用可能になります。また、2019年1月以降、Windows 10 バージョン1803以降に対しては、新しい更新ビルドにリフレッシュされた機能更新プログラムが毎月のように提供されています(必ずしも毎月ではないようです)。その機能更新プログラムをどの対象に配布するかどうかは、「コンピューターグループ」に対して管理者が承認するかしないかで決まります(画面1)。
ベストプラクティスは、先行(パイロット)展開用のコンピューターグループ向けに承認して検証した上で、より大きな範囲を対象としたコンピューターグループ(部門や全社)向けに承認するというように、段階的に行うことです。
旧SAC-T/SACモデルのSAC向けリリースを待って、全社展開を始めていた(全社的なコンピューターグループに対して手動で承認していた)という場合もあるでしょう。今後、その判断は事実上できなくなります。Windowsのリリース情報や更新履歴のWebサイト(最新情報は英語ページで)、Windows IT Pro Blogのブログ記事をチェックして、一般向けのロールアウト状況や、自社の使用デバイス、使用方法に影響する既知の問題が残っていないかどうかなどを確認して判断するしかないでしょう。
なお、「Windows 10 Release Information」ページは、2019年5月末に新しい「Windows Release Health Dashboard」に置き換えられる予定です。新しいページは現在、パブリックプレビュー段階にあり、「Windows 10 Release Information」ページからアクセス可能です(画面2)。
SAC-Tの廃止が影響するのは、「Windows Update for Business(WUfB)」を使用して機能更新プログラムの受信を延期していた場合に限られます。WUfBは、グループポリシー/ローカルコンピューターポリシー、またはWindows 10の「設定」アプリにあるWindows Updateの「詳細オプション」で構成できます(画面3、画面4)。
Windows 10 バージョン1903からは、一般向け(SAC向け)に1回だけリリースされます。しかしながら、Windows 10 バージョン1903を受け取ることになるWindows 10 バージョン1809以前は、SAC-Tが廃止されることを前提に開発されたわけではありません。
そのため、今回のリリースに限り、WUfBでSAC-T(旧SAC-T)が構成されたWindows 10 バージョン1809以前は、Windows 10 バージョン1903のSAC(新SAC)向けリリースを基準日として延期日数(0〜365日)の後にWindows 10 バージョン1903の機能更新プログラムを受け取ることになります。
WUfBでSAC(旧SAC)が構成されたWindows 10 バージョン1809以前は、Windows 10 バージョン1903のSAC(新SAC)向けリリース日の60日後を基準日として、延期日数(0〜365日)の後にWindows 10 バージョン1903の機能更新プログラムを受け取ることになります。
この変換対応は今回のリリース1回に限定的に行われるもので、Windows 10 バージョン1903以降はSAC向けリリース1回と、そのリリース日を基準日とした延期日数(0〜365日)による延期のみが可能となります。
Windows 10 バージョン1903にアップグレード後、現在のSAC-T/SACの設定が同等のものに変換されて移行されることはありません。例えば、旧SACで延期日数365日の設定が、新SACで365+60日延期設定になることはありません。機能更新プログラムの延期設定は、従来と同じ最大365日です。
WUfBの設定方法の一つはグループポリシーです。複数台(場合によっては数百台や数千台)、複数バージョンのWindows 10クライアントに影響するポリシー設定が、クライアント側のWindows Updateで書き換えられることはありません。
単純に旧SAC-Tがなくなり、設定延期日数のみが引き継がれることになるはずです。「設定」アプリのSAC-T設定は削除され、グループポリシーのSAC-T設定がある場合は無視されることで、“暗黙的に新SACとして扱われる”ことになるのだと筆者は想像しています。
WUfBを使用している場合は、アップグレード後にポリシー設定や「設定」アプリの「詳細オプション」を念のため確認することをお勧めします(画面5、画面6)。
特に、Windows 10 バージョン1809以前とバージョン1903以降が混在する環境で、WUfBをグループポリシーで制御するという場合は、グループポリシーオブジェクト(GPO)を別にして、適切なバージョンに適切なGPOが配布されるようにする必要があるでしょう。
例えば、GPOにはWMIフィルターを設定して適用対象を限定することができますが、次の1つ目のWMIフィルターはWindows 10 バージョン1809を、2つ目のWMIフィルターはWindows 10 バージョン1903をフィルターするものです(バージョン1903の現在プレビュー提供中の18362.xのままである場合)。
select * from Win32_OperatingSystem Where Caption like "Microsoft Windows 10%" AND Version = "10.0.17763"
select * from Win32_OperatingSystem Where Caption like "Microsoft Windows 10%" AND Version = "10.0.18362"
2019年5月22日に「Windows 10 May 2019 Update(バージョン1903)」の一般提供が開始されました。Windows Updateでの段階的なロールアウトに加え、Windows 10ダウンロードサイトおよびWindows Server Update Services(WSUS)でも利用可能になっています。また、「Windows Release Health Dashboard」はパブリックプレビューから正式版になりました。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2018/7/1)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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