セグメントルーティング、あらためてどのようなメリットを持つ技術なのかInterop Tokyo 2019直前特集(1)

コアネットワークの関係者に知られるようになってきた技術として、「セグメントルーティング」がある。標準化および製品の対応が進み、通信事業者やクラウド事業者、Webデータセンターの間で、導入が広がりつつある。本記事では、2018年11月に東陽テクニカが開催した「Core Router Summit in TOKYO 2018」における講演をダイジェストする形で、この技術の仕組みやメリットについてお届けする。

» 2019年05月30日 12時00分 公開
[三木泉@IT]

 コアネットワークの関係者にはよく知られるようになってきた技術に、「セグメントルーティング」がある。2013年に生まれたもので、標準化および製品の対応が進み、2017年以降、通信事業者やクラウド事業者、Webデータセンターの間で、導入が広がりつつある。例えばソフトバンクは2019年4月24日、移動体通信の商用ネットワークで、セグメントルーティングのIPv6版である「SRv6」の本格運用を同月に開始したと発表した。

 本記事では、2018年11月に東陽テクニカが開催した「Core Router Summit in TOKYO 2018」における講演をダイジェストする形で、あらためてこの技術の仕組みやメリットについてお届けする。

 セグメントルーティングはコアネットワークの入り口で、パケットヘッダに付加する情報に基づき、通信の経路指定や優先付けが実施できる。「ソースルーティング」と呼ばれる技術の一種だ。

 パケットの転送には、通信事業者に広く利用されてきたMPLS(Multi-Protocol Label Switching)と、IPv6が使える。どちらの場合でも、新たなプロトコルを持ち込むわけではないため、通信機器側の対応負担は軽い。そして、WANの経路に存在する全ルーターを巻き込んでトンネリングなどを設定し、ステートを維持する必要がないため、構成および運用がシンプルになり、スケールしやすいとされる。また、通信網におけるあらゆる障害において、ループを防ぎながら高速に復旧することが可能という。

 既存WANサービスの全般的な改善に加え、5Gを支えるネットワーク技術として期待される理由はここにある。

「パケットにステート情報を持たせることができる」

シスコシステムズ サービスプロバイダー事業部の鎌田徹平氏 シスコシステムズ サービスプロバイダー事業部の鎌田徹平氏

 シスコシステムズ サービスプロバイダー事業部の鎌田徹平氏は、セグメントルーティングがキャズム(普及の谷)を超え、本格的な普及期を迎えていると話した。同氏が示した図では、セグメントルーティングを導入済み、あるいは導入予定とする件数が、2017年には24だったが、2018年には82に増えていることが読み取れた。

 鎌田氏は、セグメントルーティングの利点を、「パケットにステート情報を持たせることができ、ルーターはパケットヘッダを見るだけで複雑な処理が可能。ステートをルーターで持たないため拡張性が高い」と表現し、この技術の仕組みを次のように説明した。


 セグメントルーティングは、一般的なIPルーティングのような分散型アーキテクチャと、SDN(Software Defined Networking)に見られるような集中制御型アーキテクチャの「良いところ取り」をすることを目指して策定された。ネットワークを「セグメント」で表現する新たなパケット転送方式を用いる。ノードと隣接関係(リンク情報)を「セグメント」として表現、パケットヘッダにこの情報を付加することで、トラフィックエンジニアリングや経路の高速な迂回(うかい)、サービスチェイニングなどを実現しようとしている。

セグメントルーティングの概要 セグメントルーティングの概要

 データプレーンにMPLSを使う場合(以下、SR-MPLS)、ネットワーク機器ハードウェアは既存製品を活用し、ソフトウェアのアップグレードで対応できる。セグメントはラベルとして表現。リンク情報についてはリストとして明示するなど複数の方法があるが、OSPF(Open Shortest Path First)あるいはIS-IS(Intermediate System to Intermediate System)で広報する。

 一方、IPv6を使う場合(以下、SRv6)、IPv6のソースルーティング拡張ヘッダを活用したSRヘッダに、「1セグメント=1 IPv6アドレス」として表現できる。

 セグメントルーティングでは、トンネリングを使うことなく、トラフィックエンジニアリングのためのポリシー(SR Policy)を作成し、適用できるようになっている。このポリシーでは、「Color」(すなわち「色分け」)という情報項目を活用する。例えば特定のColorが割り当てられた経由ノード群を指定し、これらのノードのみで構成されるトポロジーで、最小のメトリックを計算し、パケットを転送するなどができるという。

 さらにネットワークスライシング(ネットワーク面の論理分割)を進めるための新たな追加仕様として、「Flex Algorithm(Flex-Algo)」があると鎌田氏は話した。これは、「IGP(Interior Gateway Protocol)自体を分割するもの」という。

 Flex-Algoでは、ネットワークノード(ルーター)をグループ化したセグメントIDを構成できる。各ノードは、自らの属するFlex Algorithmを広報する。ソースノードは特定セグメントIDを指定することで、どういった経路を通るかを明示的に指示できる。

Flex-Algoの仕組み Flex-Algoの仕組み

 Flex-Algoは「オペレーターが定義するロジックに従って、あらゆるトポロジー/パスにトラフィックを自動的にステアリングできる、ソースルーティングによるトラフィックエンジニアリングへの、非常に有意義な追加機能」と表現されているという。

SRv6は「ネットワークの未来」

Huawei Technologiesの技術戦略顧問として登壇したステファノ・プレヴィディ氏 Huawei Technologiesの技術戦略顧問として登壇したステファノ・プレヴィディ氏

 MPLSやセグメントルーティングの標準化に貢献してきたステファノ・プレヴィディ(Stefano Previdi)氏は、Huawei Technologiesの技術戦略顧問として登壇し、「SRv6はネットワークの未来だ」と話した。

 プレヴィディ氏によると、セグメントルーティング、特にSRv6は、次のようなネットワーク運用ニーズに応えることができるという。

運用のシンプル化

 ネットワーク運用者は、多数のプロトコル、テーブル、ステートを管理したくはない。最低限のネットワーク構成により、運用をシンプル化したいと考えている。コアルーターは、高速なパケットのスイッチングだけを実行すればいい。パケットを分類し、どう扱うかを決めるといったインテリジェンスは、エッジで発揮されるべきだ。

トラフィックの差別化における拡張性の確保

 従来のVPNに見られるようなトンネリングはスケールしない。コアルーターで管理されるトンネルのステートは極力減らすべきだ。ステートはパケットに存在すべきだ。これにより、ルーティングテーブルを小さく保ち、プロトコルの種類もごく少数に抑えるべきだ。セグメントルーティングでは、OSPF、IS-IS、BGP(Border Gateway Protocol)のみで済む。

リソース利用の最適化

 各パケットに対しては、必要とするリソースだけを与えるべきだ。それ以上でも、それ以下でもよくない。そのためには、各パケットが必要とするものを、パケット自体に持たせるべきだ。

仮想化による拡張性の確保

 VPN(Virtual Private Network)やネットワークスライシングといった、単一のインフラを共有しながらも別の仮想ネットワーク/トポロジーを運用したいというニーズに対応するには、各パケットの経路をエンド・ツー・エンドで制御しなければならない。それには、「特定の経路をたどる」といった、各パケットに必要なものをそれぞれの内部で定義できなければならない。

ネットワークの信頼性向上

 信頼性の高いネットワークを維持する必要がある。何らかの障害が発生しても、ネットワークが自己回復できなければならない。あらゆるトポロジーで、高速な迂回(うかい)などの機能が求められる。

SRv6の主なメリット SRv6の主なメリット

 SRv6では、IPv6パケットのソースルーティング拡張ヘッダに、このパケットが通るべきノードのリストや処理(Function)を書き込むようになっている。処理に関する機能は、「ネットワークのプログラミング」を実現するもので、セグメントルーティングにおける大きなイノベーションだとプレヴィディ氏は強調した。

パケットが通るべきノード(群)のリストや処理(Function)を、パケット自体の拡張ヘッダに書き込んで適用する パケットが通るべきノード(群)のリストや処理(Function)を、パケット自体の拡張ヘッダに書き込んで適用する

標準化作業は落ち着き、導入のフェーズへ

 セグメントルーティングは、「RFC 8402」としてアーキテクチャに関する標準化作業が終わっている。特定ユースケースなどに関する他の仕様についても、順調に標準化作業が進んでいるという。「もう、新たなドキュメントが次々に登場する段階ではなくなった」と、プレヴィディ氏は話した。

 一方、Cisco Systems、Juniper Networks、Huawei Technologies、Barefoot Networksなどによる製品が出そろい、相互接続検証が進んでいる。日本でも東陽テクニカのテスト製品を用い、複数ベンダー間の接続検証を実施したという。

 「SR-MPLSを運用する通信事業者が増加している。こうした経験に基づき、SRv6への自然な移行が始まりつつある。こうした事業者は、トラフィックエンジニアリング/信頼性向上、VPN、サービスチェイニング、ネットワークスライシング、モビリティ、既存のMPLS/IPv6ネットワークサービスとの統合などを目的として、SRv6の導入を進めている」と、プレヴィディ氏は話した。

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