図3は5Gではなく、4Gのインドアソリューションである。2017年に都内の新築ビルで実際に構築されたものに基づいた図だ。
インドアソリューションとは、モバイル用の電波が十分入らないビルにおいて電波を問題なく使えるようにする仕組みだ。携帯通信事業者のネットワークから光ファイバーの固定回線が引き込まれ主装置へ接続する。主装置から屋内ケーブルが伸びて、天井裏に子機とアンテナを設置する。アンテナから4Gの電波が出てデータ通信と電話が利用できる。
図4にインドアソリューションで使った子機とアンテナの写真を示した。
4Gが700MHzから3.6GHzと周波数帯が低いのに対し、5Gでは3.7GHzから28GHzと周波数帯が高い。低い周波数帯の電波は障害物があっても回り込んで届く特性がある。だが、高い周波数帯の電波は直進性が強く、障害物があると電波が届きにくい。つまり、5Gはオフィスビルであれ、工場であれ電波を行きわたらせることが難しいのだ。5Gにこそインドアソリューションが必要だといえる。
インドアソリューションを用いて工場やオフィスビル内で5Gを使えるなら、わざわざ手間をかけてローカル5Gを構築する必要はない。図5がそのイメージである。
図中にあるように、インドアノードに折り返し通信の機能が備わっていれば、工場内やオフィス内の通信は外部の設備に依存せず、インドアソリューションの中で済む。外部の設備の障害やネットワークの輻輳(ふくそう)の影響を受けない、というローカル5Gのメリットはインドアソリューションでも得られるのだ。
5Gインドアソリューションはセキュリティ面の不安も少ない。4Gと同様、閉域網で5Gインドアソリューションを利用し、プライベートIPアドレスで構成すればインターネットと切り離されたネットワークになるからだ。
キャリア5Gの周波数帯で使えるスマートフォンやPC、センサーなどのさまざまな端末が確実につながるのも、大きなメリットだといえる。
中堅中小企業も含めて、5Gがオフィスや工場で広く使われるためにリーズナブルな料金で使えるインドアソリューションの登場に期待したい。
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECセキュリティ・ネットワーク事業部主席技術主幹。
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