「表情から感情を正確に読み取れる」という仮定を実験で否定、南カリフォルニア大AI技術や精神生理学のアプローチで検証

「顔の表情には、人が何を考えているかが表れる」と仮定する通俗心理学やAI表情認識技術の考え方を覆すことを目指した研究の成果を、南カリフォルニア大学などの研究チームが発表した。感情を読み取るアルゴリズムはごく基本的なテストをパスできなかったものの、ある表情には他の表情にはない特徴があることが分かった。

» 2019年09月06日 10時20分 公開
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 南カリフォルニア大学(USC)クリエイティブ技術研究所(ICT)の研究者などからなる研究チームが、「顔の表情には、人が何を考えているかが表れる」と仮定する通俗心理学やAIによる表情認識技術の考え方を覆すことを目指した研究成果を発表した。

 研究チームは2019年9月4日(英国時間)、英国ケンブリッジで開催された「ACII 2019」(8th International Conference on Affective Computing and Intelligent Interaction)において、研究成果のプレゼンテーションを行った。

 USC ICTのVirtual Human Researchでディレクターを務め、同大学Viterbi School of Engineeringのコンピュータサイエンス部の教授でもあるJonathan Gratch氏は次のように研究の目的を語っている。

 「われわれは、『表情を認識できれば、人々が何を考えているかが分かる』という人々の考え方を覆そうとしている。この考え方は真実からは程遠い。怒っているにもかかわらずほほ笑んだり、本音を隠したりした経験は誰にでもあるだろう。また、多くの表情は内面の感情とは関係なく、会話や文化的慣習を反映している」

 例えばまじめな顔をしてうそをつくことがある。ポーカーではポーカーフェースが重要だ。就職試験では面接の際に偽りの表情を作るだろう。浮気をした人は顔を作る。政治家は陽気に虚偽の発言をする。

多用されている表情分析アルゴリズム

 このような背景があるにもかかわらず表情分析アルゴリズムが広く使われている。

 例えば米国では、国土安全保障省がテロなどの潜在的な脅威を予測するアルゴリズムに投資している。一部の国では、監視カメラや通信データを大規模に集めている。ビジネス寄りでは、顧客をグルーピングしたり、マーケティングキャンペーンに使ったりしている。ローンを申し込むユーザーの選別などだ。

 だが、現在のアルゴリズムは虚偽の表情を見分ける能力が実は高くない。公共政策やビジネス、人々の生活に関する決定を下すためのさまざまな技術が社会にますます普及している中で、これが課題となっている。

 「うそ発見器のように、技術が誤用された例が過去にもあるが、現在では表情関連の技術が誤用されている。こうした技術は、表情と実際の感情には関連があるという素朴な仮定に基づいているが、実はそうした関連はない」(Gratch氏)

 表情と実際の感情には関連がないという主張を証明するため、Gratch氏とフェロー研究員のSu Lei氏、オックスフォード大学のBrian Parkinson氏、Danielle Shore氏は、社会的状況における自発的表情を検証した。

 ある研究では、金銭を得ることを目的とした(対面型の)ゲームを開発し、700人が参加した。研究チームは、人々の表情がゲーム上の判断と獲得金額にどのように影響したかを調べた。

 次に、参加者にゲーム時の行動を振り返ってもらい、ゲームを有利に進めるためにどのように表情を利用したか、自分の表情が実際の感情と一致していたかについて、説明を受けた。

ある1つの表情だけに一貫性あり、それは……

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