阿部川 エンジニアやプログラマーは「今ある問題に集中しすぎて大きな視点で問題を見ることができない」という人がいます。おっしゃることは非常に重要で、決して「エンジニアのためのエンジニアリング」というような仕事をしてはいけない、ということですね。ですからマルキンさんの肩書も、エンジニアではなくAI Architect(AIで構築する人)となっている。大学を終えた後、幾つかお仕事をされていますね。
マルキン氏 はい。例えば、トレーダーとして、ロンドンのLiquid Capital Groupという企業で、アルゴリズムを独自に開発して、ハイフリークエンシートレーディング(高頻度取引:コンピュータとプログラムを用いて例えば毎秒何百回にも及ぶ取引を自動的に行う手法)などの仕事をしました。これはAIではありませんが、ある種のマシンラーニングだったと思います。AI的なものに需要があると分かり、自分で会社を興しました。Spinoza(スピノザ)といいます。
何か製品を売るのではなく、クライアント企業に行ってワークフローや課題などを聞いてその解決策を提案するというものでした。一般の企業がAIを使いこなしたり、AIに何ができるかといったことを判断したりすることは難しいので、そこをビジネスにしようと考えたのです。結局実現はしませんでしたが。
阿部川 それはなぜでしょうか。
マルキン氏 面白いことにスピノザを設立したまさに次の日に、他の会社から「私を雇いたい」という連絡が入ったためです。
大学を終えると金融業界でAIの需要があり、1人で会社を設立すると、次の日にエンジニアとして求められる。これらの一連の出来事によって、今自分がやろうとしていることは、実は時代が求めていることだと痛感できました。
阿部川 ご自身が思っているよりも、世間ではAIが求められていたということですね。
マルキン氏 それからすぐに、現在の社長のエリックと純(Cogent Lab代表取締役 飯沼純氏)に出会い、Cogent Labに入社しました。スピノザは、基本的に私一人の会社だったので閉めました。ただ、当時のクライアントとは現在でもつながりがありますから、ロンドンに戻ったときは、よく会っていますし、もちろん卒業した大学とのネットワークもあります。
ロンドンにいるときから、世界中でディープラーニングへの期待がどんどん高まっているのは感じていました。しかし、それに比べて日本は少し遅れていて、それでいて経済は世界でも有数の大きさです。ですからディープラーニングに対する潜在的な需要は非常に高いだろうと思いました。
大きな機会が待ち受けていることは間違いありませんでしたから、悩みは全くなく、むしろ「今やらなければだめだ」と思いました。Cogent Labには優秀なメンバーがたくさんいますから、彼らと一緒にここ日本で仕事ができることは、とてもラッキーだと思っています。
学生時代にAIが持つ潜在的な力に気付いたマルキン氏。自分の会社を設立した次の日にスカウトを受けるという特別な体験が同氏の今後を決定付けることになった。後編はCogent Labが開発したAI製品「Tegaki」から考える「これからのAIと人間の関わり」について話を聞く。
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