ただ鈴木氏は「この事件をきっかけに、リクナビに限らず、業界全体の問題が浮き上がってきた。1社、2社の問題ではない」とし、より根本的な問題に目を向けるべきとの認識を示した。山本氏も「これはリクナビだけに限った問題ではない」と言う。
板倉氏が指摘するように、新卒一括採用を前提とする日本の企業では、人事担当者にとって予定内定人数の確保はKPIの1つ。倉重氏は「人事の担当者も、自分の評価になると思えば無理もする」と述べた。
山本氏によると、人手不足が深刻化する中、競合である「マイナビ」がエントリーシートを用いたモニタリングシステムを提供していたことを背景に、大手顧客から「内定辞退率を知りたい」という相談があった。競合の動きにリクルートキャリア側も危機感を覚え、1年前倒ししてリクナビDMPの提供を開始したのではないかと山本氏は推測する。
「非常に強いプレッシャーの下、提供したのではないか」(山本氏)
しかもリクルートキャリアからすると、こうした企業は「大手顧客」であり、コントロールも難しければ、そもそも「顧客からこうした要望があった」と明言することすら難しい。
鈴木氏はこれに対して、「組織人としては、上から降ってきたミッションを再定義し押し戻すことは難しい。大手の顧客に対する交渉力も乏しいという問題があり、企業文化として、この問題に関する組織内の意思疎通が機能していなかったのではないか」としてきた。
依田氏は「利用企業が困っているのは事実でも、両面市場におけるプラットフォーマーの利益の源になっているのは学生であり、消費者。その彼らが後から聞いて不快になるビジネスはいけない。利用企業と話す中で、同じデータを使って彼らが喜ぶサービスを作れないかと話すべきだった。要は、個人データを使ったサービスに対する認識が間違っていた」と述べている。
厚生労働省はこの事件を踏まえてリクルートキャリアに行政指導を行うと同時に、業界団体に向けて通達を行った。これを踏まえて鈴木氏は「厚生労働省も、リクナビだけの問題ではなく、もっとどぶ川のような不適切な状況があるのではないか、経団連に所属する企業も無意識のうちにダークな部分に足を踏み込んでいるのではないかと認識していることを示しているのではないか」と述べ、データベース内の情報を無断で提供する行為が広く行われている可能性に言及した。
山本氏によると、「転職活動のために登録した人物の情報が、現業の人事に伝えられる」という採用支援の目的外利用に当たるケースも報告されているという。
問題は人事、採用領域だけにとどまらない。「他にも医療やEdTechなど、いろいろなところに情報が流通する一方、曖昧な守られ方でいっていいのか」と山本氏が問題を提起すると、高木氏も「EdTechの領域では何が起こるか分からない。履歴を学習して本人に影響を及ぼす選別行為を行う、という行為をやっていいのかどうかを考えなければいけない」と述べた。
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