オープンソースにも戦略がある、Linux Foundationの2020年「オープンソースの投資信託」とは(2/2 ページ)

» 2020年01月07日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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 また、ネットワーク機能仮想化(Network Function Virtualization)の「OPNFV」は、世界の通信事業者の80%が参加し、活用しているという。

 特定のテーマや分野に属する複数のOSSプロジェクトを束ねた「アンブレラプロジェクト」あるいは「アンブレラファンデーション」も増えている。例としては、エネルギー業界を対象とした「LF Energy」、機械学習/AI関連の「LF AI」「LF Deep Learning」、ネットワーク関連の「LF Networking」などがある。

 こうしたアンブレラプロジェクトの先駆的な成功例と言えるのがCloud Native Computing Foundation(CNCF)だ。

 CNCFは「クラウドネイティブ」をテーマとする。実質的にコンテナオーケストレーションのKubernetesを核としながら、これに加えて42の多様なプロジェクトをホストするに至っている。2019年11月にCNCFが米サンディエゴで開催したイベント「KubeCon+CloudNativeCon North America 2019」は、IT関連カンファレンスで最大級の約1万2000人を集め、同団体の活動への注目度の高まりを明確に示した。

 ゼムリン氏は「あらゆる産業をOSSで支えるのがLinux Foundationの目標」といい、2020年に向けても活動の幅と深みをさらに増していくと話した。

 例えば、セキュリティに関して新たな取り組みを進めているという。Linux Foundationはこれまでもコードスキャニングツールなど、一部のセキュリティ関連OSSをホストしてきた。現在は大学の研究所との共同で、ソフトウェアサプライチェーン全体を対象としたセキュリティに関する調査を実施中で、その結果を2020年に公表するという。

Linux Foundationのデベロッパーリレーションズ担当バイスプレジデント、クリス・アニズィック氏

 FinTech関連ではブロックチェーンのHyperledgerなどがあるが、2020年にはさらに多くの活動を展開するという。

 LF EnergyやLF Deep Learningについても大きな進展が予定されており、この2つのアンブレラプロジェクトにも注目してほしいと話した。

 ただし、上記のような話を聞くだけでは、バブルに似た「OSSブーム」に乗っているとしか受け取れない人もいるかもしれない。だが、Linux Foundationのデベロッパーリレーションズ担当バイスプレジデントであり、CNCFのCTO(最高技術責任者)兼COO(最高執行責任者)も務めるクリス・アニズィック(Chris Aniszczyk)氏は、同ファンデーションの戦略を分かりやすく説明した。

「Linux Foundationはオープンソースの投資信託」

 「Linux FoundationはOSSプロジェクトおよびファンデーションの投資信託のようなもの」とアニズィック氏は説明した。

 つまり、同ファンデーションは、さまざまなOSSプロジェクトや団体で構成されるポートフォリオを管理し、OSSユーザーにとって最大のメリットが得られるような形に保つ役割を果たしている。これが各OSSプロジェクトにとってのサステナビリティ(持続性)につながるという。

 まず、OSSは世の中に多数存在し、さらに毎日次々に生まれてくる。従って、「どのOSSプロジェクトが重要なのか」を判断する必要がある。Linux Foundationは、サステイナブルなエコシステムが築けるOSSプロジェクトこそ重要だと考えているという。このため、潜在的な価値が高いプロジェクトを適切に見出し、こうしたプロジェクトのサステイナブルな状態に向けた成長を加速する支援を提供しているとする。

 だが、こうした取り組みは一筋縄にはいかない。潜在的な価値が高くても、メリットを受けるユーザー層が広くない、あるいは機能がピンポイントなものであるなどの理由で、単一のOSSプロジェクトでは開発、普及、投資のサイクルが回りにくいケースがある。こうした場合には、前述のアンブレラプロジェクトあるいはアンブレラファンデーションとして、複数のプロジェクトをまとめ上げることを選択しているという。

Linux Foundationのプロジェクトは、コード/標準、単独/アンブレラの軸で、さまざまに位置付けられる

 また「あらゆる製品にライフサイクルがある。OSSプロジェクトも例外ではない」とアニズィック氏は言う。そして、どのステージにいるかによって各プロジェクトのニーズは異なる。

 発足当初のプロジェクトは、開発を速いスピードで進め、ユーザーを獲得する必要があり、露出を高め、勢いを示さなければならない。これらのために投資が求められる。一方、成熟してきたプロジェクトは、多様なディストリビューションの認定が必要になり、多数の組織による安定的な利用を支えるために長期サポートリリースが求められ、セキュリティの維持やバグ排除の優先度が高まる。

 こうしたさまざまな段階にあるプロジェクトでポートフォリオを構成し、安定した投資を維持する活動を進めているのだとアニズィック氏は話した。

 その過程では、既存の関連プロジェクトによるアンブレラファンデーションの設立や、競合するプロジェクト間の統合を促すこともある。前者の例にはContinuous Delivery Foundation、後者の例にはOpenCensusとOpenTracingの統合によるOpenTelemetryなどがある。

 OSSプロジェクトで開発に加わるのは狭義のIT関連ベンダーに所属するエンジニアだけではない。前出のAcademy Software Foundationがいい例だが、ユーザー組織のそれぞれが開発したものを持ち寄ることで、ユーザー同士、それ以外のさまざまな立場の人々が協力し合い、さらに役立つソフトウェアを作り出していける可能性が生まれる。

 ゼムリン氏とアニズィック氏は、デジタルの世界がこのように新たな共創ステージに向かっていることを強調し、一般企業も戦略としてOSSの活動に取り組んでほしいと話している。

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