「eSIMのファーストペンギンに」、ソラコムがiPhone/iPad向けグローバル通信サービスを日米英で販売開始「プラットフォームサービスへつなげる」

ソラコムは2020年2月21日、eSIMを使ったiOSデバイス向けの海外データ通信サービス「Soracom Mobile」を、日・米・英で提供開始したと発表した。IoT(Internet of Things)では多様なサービスを展開している同社だが、コンシューマー向けサービスは初めて。ただしソラコムは、単なる海外SIM事業者になろうとしているわけではない。

» 2020年02月24日 15時19分 公開
[三木泉@IT]
ソラコムの玉川憲社長

 ソラコムは2020年2月21日、eSIMを使ったiOSデバイス向けの海外データ通信サービス「Soracom Mobile」を、日・米・英で提供開始したと発表した。IoT(Internet of Things)では多様なサービスを展開している同社だが、コンシューマー向けサービスは初めて。ただしソラコムは、単なる海外SIM事業者になろうとしているわけではない。

 「リモートSIMプロビジョニングに対応したSIM」という意味でのeSIMを使ったモバイル通信サービスは、IIJmioがβ版として提供している。だが、IIJmioでは申し込み手続きが終了すると送られてくるQRコードを読み込むことで、情報をeSIMに設定する必要がある。ソラコムも、QRコードを使ったeSIMへの通信プロファイル書き込みは、限定的に対応してきた。

iOSアプリ上でプランを選択し、決済を完了すれば、プロファイルが自動的に設定される

 Soracom MobileではiOSアプリから申し込むと、そのままApple Payあるいはクレジットカードでの決済から、eSIMへの通信プロファイル設定までが一気通貫で行える。この利便性が今回のサービスの売りで、対応端末をiPhone/iPadに限定している理由もここにあるという。

 新サービスは海外旅行者を対象とした、合計42カ国におけるテザリング可能なデータ通信(音声通信/SMSは不可)サービス。プランの選択肢は、今のところ限定的だ。地域としては、「北米プラン」(4カ国をカバー)、「ヨーロッパプラン」(36カ国をカバー)、「オセアニアプラン」(2カ国をカバー)の3つしか選べず、国別のプランはない。また、いずれのプランも利用期間は30日間のみに限られている。「(ユーザーによる商品選択を)シンプルにしたかった」(ソラコム代表取締役社長、玉川憲氏)からだという。

 料金は、例えば北米3GBプランで32.99米ドル、10GBプランで97.99米ドルなどとなっている(円貨での料金設定はない)。国内における物理SIMを使った大部分の海外SIM/Wi-Fiルータレンタルに比べれば低価格だが、物理SIMによるグローバルSIMサービスであるAIRSIMや、QRコードを使ったeSIMグローバル通信サービスのUbigiとは、大まかにいって同レベルだ。

Soracom Mobileの発表時点でのプランと料金

 やはりSoracom Mobileは、iOSアプリで購入から利用開始までを完結でき、SIMを入れ替えたり機器をレンタルしたりする面倒なしに、使いたいときに即座に使える手軽さを、一にも二にも押し出していきたいようだ。

 今回のサービスは日本、米国、英国のユーザーに限定して提供する。いずれもソラコムが既に事業を展開している国であり、最も大きな需要が見込めることから選んだという。サポートは日本語と英語に対応する。

 現状では問い合わせに対応するサポートリソースが限られているため、ソラコムは大掛かりな宣伝活動を行わないという。当初は「せっかく自分のiPhoneにeSIMが搭載されているのだから活用してみたい」と考えるような、高感度ユーザーに使ってもらいたいとしている。

プラットフォームサービスへの展開は?

 ソラコムはこれまでの事業と同様、eSIMでもプラットフォームサービスとしての展開を想定している。玉川氏は、「2025年にeSIM搭載端末が20億台に達する」との市場調査会社による予測や、eSIMを統合したSoC(System on Chip)も登場することを紹介し、「(eSIMにおける)“ファーストペンギン”として、今後成長が見込まれる同市場にいち早く飛びんで新技術を事業化し、(市場が本格的に立ち上がる時期には)いいサービスを提供できるように準備していきたい」と話した。

 ソラコムは、Soracom Mobileを他の通信事業者/海外SIM事業者にOEM提供することも考えている。一方でAPI連携を通じた他業界とのパートナーシップも進めていくという。

 ではどんなパートナーシップを想定しているのか。例えば航空会社が自社アプリ上で、空港でのチェックイン時などに渡航先で使えるSoracom Mobileのプランをキャンペーン提供する、あるいはレンタカー会社がユーザーに対し、レンタル契約期間中に限って現地でのモバイル通信サービスを提供するといったことが考えられるという。

 玉川氏はそれ以上の展開について話していない。だが、eSIMが人の利用するモバイル端末に加え、モノに広まるにつれ、ソラコムが創業以来展開してきたIoTプラットフォームサービスとの関係は深まってくる。

 例えばソースネクストは、翻訳デバイス「ポケトーク」に「チップ型のSIM」という意味での「eSIM」を搭載し、ソラコムの通信サービスを採用している。だが、コストや柔軟性などの理由から「リモートSIMプロビジョニングに対応したSIM」という意味での「eSIM」を採用する日が、やがて来る可能性がある。

 また、eSIMは、自動車産業などでも生かすことができる。自動車では、モバイル通信機能の搭載がますます一般化している。ここでeSIMを活用すれば、モバイル通信サービスの効率的な活用ができる。例えば工場では適切な通信サービスを使用した一時的なモバイル接続を使ってテストを行い、出荷先/販売国ではそれぞれに適したモバイル通信事業者へソフトウェア的に切り替えて利用できるからだ。

 eSIMが普及すると、人、モノを対象としたMNO/MVNOにとってピンチとチャンスの双方を生み出す。Soracom Mobileは、こうした時代のセルラー通信サービスの在り方を探るための一歩でもあるようだ。

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