Windows Updateのインターネットトラフィックへの影響を考察してみた山市良のうぃんどうず日記(177)

新型コロナウイルス感染症拡大に伴うリモートワークの増加により、インターネットトラフィックが急増しているのではないか、というニュース記事を見ました。実は、2020年2月中旬から3月中旬までの約1カ月間、その根拠とされたサービスを筆者は別の目的で毎日確認してきました。筆者の個人的な考えでは、3月の急増は「Windows Update」の影響だと思うのですが……。

» 2020年04月22日 05時00分 公開
[山市良テクニカルライター]

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山市良のうぃんどうず日記

2020年3月のトラフィック急増は本当にリモートワーク増の影響か?

 今回の内容は、2020年4月の「緊急事態宣言」よりも半月以上前の話になります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で政府から要請された2020年3月2日からの全国一斉臨時休校の措置や在宅勤務(リモートワーク、テレワーク)の実施は、インターネットトラフィックを急増させるのではという懸念がありました。

 しかし、インターネットイニシアティブ(IIJ)の技術者の考察ブログでは、トラフィックは若干増えたものの、顕著なピークの急増などなく、既存の容量内で収まっており、十分な品質を提供できている状況ということです(ただし、IIJのサービスに限定)。

 一方、海外のニュースに目を向けると、こんな記事もありました。

 この記事は、Akamai Technologiesの「リアルタイムWebモニター」(現在はこのモニターは提供されていません)で、インターネットトラフィックが平均より50%ほど増加しているのを確認した記者が、新型コロナウイルスによるリモートワークの増加をその要因として考察しています。また、AkamaiのCEO(最高経営責任者)もその影響を認めていると伝えています。

 筆者は疑問に思いました。先に爆発的な感染拡大が起きた中国やイタリアを除けば、各国の感染拡大や都市封鎖の実施は2020年3月中旬以降のことです。この記事が書かれた時点で、リモートワーク増加の影響がそれほどまで顕著に出るものでしょうか。

 もちろん、日本国内でも世界的にも、4月以降、リモートワークやリモート教育の環境の準備が整い、多くの人が一斉に利用するようになれば状況は違ってくるでしょう。しかし、これは「リアルタイムWebモニター」がまだ利用可能だった3月中旬の記事です。

実は私、「リアルタイムWebモニター」を1カ月間、毎日観察していました

 残念ながら、この記者が見たというAkamaiの「リアルタイムWebモニター」は2020年3月中旬に利用できなくなりました。現在、「リアルタイムWebモニター」のURLにアクセスすると、「グローバルなインターネット状況の監視(Monitor Enterprise Threats)」という複数のモニター(「リアルタイムの攻撃可視化」など)を集めたダッシュボードにリダイレクトされます(日本語サイトには「Real Time Web Monitor」という呼称は残っていますが、これは別のものです)。

 実は、筆者は別の目的でこの「リアルタイムWebモニター」を2020年2月後半から3月中旬にかけて、毎日観察していました。その目的は、「Windows Update」がインターネット全体のトラフィックに与える影響を可視化したいと考えたからです。

 回線事業者やインターネットサービスプロバイダー(ISP)各社は、Windows Updateのインターネットトラフィックへの影響についてアナウンスすることがあります。それは、更新プログラムのリリースから数日間、特にリリース当日の朝9時ごろからインターネットに接続しにくい状況が続くという注意喚起や障害情報としてです。

 Windows Updateのダウンロードトラフィックは、インターネット全体にどれほど影響を与えているのか気になり、Akamaiの「リアルタイムWebモニター」にたどり着いた次第です。このモニターが利用可能だったころ、日本時間のお昼ごろまでにその日の協定世界時「0:00」(日本時間の9時)前後のトラフィックのレポートが更新されていました。以下の画面1にあるように、そのレポートは、過去60日間のトラフィックの平均に対する、インターネット全体のトラフィックの増減、および各国のトラフィックの割合を示すものでした。

画面1 画面1 Akamaiの「リアルタイムWebモニター」(3月中旬に提供終了)。画面は2020年3月13日(金)に取得したもの

 更新を含む品質更新プログラムは、米国時間の毎月第二火曜日の10時ごろ(提供開始時刻は約束されたものではありません)に利用可能になります。日本では翌水曜日の3時ごろに利用可能になるので、自動更新が有効であれば、朝PCを起動したときに更新プログラムの検索とダウンロードが始まると思います。米国の場合は、PCの起動時ではなく、次の実行スケジュールによって夕方、あるいは翌日の起動時に始まると想像しています(米国時間で過ごしていないので想像です)。

 3月の品質更新プログラムが提供された2020年3月11日の「リアルタイムWebモニター」を見てみましょう(画面2)。日本時間で3月11日の9時ごろ、米国時間(PDT、太平洋標準時-夏時間)で17時ごろまでの24時間の状況を示しています。インターネット全体では、過去60日の平均よりも99%増の約2倍にトラフィックが急増しています。

画面2 画面2 日本時間3月11日9時ごろまでの24時間のインターネットトラフィックは99%増。ニュース記事のいう50%増どころではない

 筆者が観測した2020年2月19日から3月17日までの28日間の「リアルタイムWebモニター」のレポートを、「全体(World)」「米国(United States)」「日本(Japan)」別にグラフにしてみました(図1)。

図1 図1 「リアルタイムWebモニター」の約1カ月間のレポート(縦軸の「100」は過去60日間の平均、3月11日の99%増は「100+99=199」)

 3月1日は毎月定例のセキュリティ更新日(2020-03 B)、2月26日は「Windows 10」バージョン1809以前に対する2月のオプションの品質更新プログラム(2020-02 C)、2月28日はWindows 10 バージョン1903/1909に対する2月のオプションの品質更新プログラムが提供された日、そして3月13日はWindows 10 バージョン1903/1909の緊急のセキュリティ問題を修正する定例外(Out-of-Band、2020-03 OoB)です。オプションの品質更新プログラムは自動更新の対象外ですが、セキュリティ更新は自動更新の対象です。

 ニュース記事では3月になって50%増と指摘していますが、筆者が確認した限り、過去60日の平均と比べると30%増、2月と比較して10%増といったところ。インターネットトラフィックは常に増加傾向にあるので、その範囲内ともいえますし、リモートワークが押し上げていることも否定できません。

 しかし、前日までの推移から外れて3月11日に急増し、その後数日間も増加傾向にあるのは、Windows Updateのリリース後の数日間の影響かもしれません。あくまでもこれは筆者の個人的な見解です。全くの偶然かもしれません。

 Windows Updateの影響であることを確認するため、4月までの状況も見たかったのですが、残念なことに「リアルタイムWebモニター」の提供が終了してしまいましたし、今後はリモートワークやリモート教育の影響も出てくるかもしれないので、証明するのは難しかったかもしれません。

Windows Updateのセキュリティ更新のサイズが大きいわけではない

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