新型コロナウイルス感染拡大の余波――Windows 10のライフサイクルへの影響は?企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内(74)

本連載で何度か取り上げてきたように、Windows 10は年に2回、春と秋に機能更新プログラムとして新バージョン/ビルドがリリースされ、そのサイクルが継続されます。従来の「最低10年」の製品ライフサイクルは、新しいリリースサイクルに合わせたモダンライフサイクルポリシーに変更されました。最新情報を定期的にチェックして、意図せずサポート対象外にならないように注意しましょう。

» 2020年05月19日 05時00分 公開
[山市良テクニカルライター]

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「企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内」のインデックス

企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内

新旧ライフサイクルポリシーの共存

 Microsoftの古いライフサイクルポリシー(現在は「固定ライフサイクルポリシー」と呼びます)では、OSを除くコンシューマー向け製品については「最短5年」のメインストリームサポートを、エンタープライズおよび開発者向け製品については最短5年のメインストリームサポートと最短5年の延長サポートの「最低でも10年」のサポートが提供されてきました。

 「Windows 10」のリリース以降、Windows 10およびWindows Serverには「半期チャネル(Semi-Annual Channel:SAC)」が導入され、製品リリース後、原則18カ月のサポートが提供されるようになりました。

 ただし、Windows 10 EnterpriseおよびEducationエディションについては現在、春のリリース(通常、3月ごろにビルドが完成)には「18カ月」、秋のリリース(通常、9月ごろにビルドが完成)にはさらに1年(12カ月)を追加した「合計30カ月」のサポートが提供されます。そして、サポート期間中のバージョンには、毎月「品質更新プログラム」が提供されます。

 サポートが終了すると品質更新プログラムが提供されなくなるので、それまでに後継の機能更新プログラムのバージョンに移行して、品質更新プログラムを受け取ることができるようにすることが重要です。

 Windows 10および「Windows Server 2016」以降には、半期チャネルに加えて、従来の固定ライフサイクルポリシーが適用される「長期サービスチャネル(Long Term Servicing Channel:LTSC、旧称、Long Term Servicing Branch:LTSB)」も用意されています。

 通常、企業のクライアントOSとしては半期チャネルのWindows 10を導入し、インフラ向けサーバOSとしては、Windows Server 2016や「Windows Server 2019」といった長期サービスチャネルを導入します。

 Windows 10の長期サービスチャネルは、POS端末や医療/製造機器の制御端末、その他の組み込み機器など、特定用途での利用を想定したもので、新機能を含む機能更新プログラムは提供されず、「最短10年」の長期サポートが提供されます。

 「Windows Server, version 1709」が最初のバージョンとなった半期チャネルのWindows Serverは、クラウドに最適化されたアプリケーションのプラットフォーム(仮想マシンのゲストOSやDockerコンテナのベースOSイメージ)としての利用が想定されたもので、インフラサーバ向けではありません。

 このWindowsのクライアントとサーバにおける半期チャネルと長期サービスチャネルの選択基準や、固定ライフサイクルポリシーとモダンライフサイクルポリシーの混在する状況は、企業のインフラを構築、運用する上でどうしても複雑になります。

 さらに、Microsoftはこれまで、サポートポリシーに変更を加えてきました。以下の「Windowsライフサイクルのファクトシート」(画面1)や「製品ライフサイクルの検索」ページで、適用されるポリシーの詳細や変更、現在使用中のWindowsのサポート期限について、定期的にチェックすることをお勧めします。これらをチェックすることで、意図せず、突然サポート期限切れになるクライアントやサーバが出現することがないようにすることが重要です。

画面1 画面1 「Windowsライフサイクルのファクトシート」のページは不定期にアップデートされるので定期的にチェックしよう

 また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、サポート期限が迫る半期チャネルリリースのWindows 10およびWindows Serverのバージョンについてサポート期限の延期が発表されているので注意してください。

2020年4月時点のサポート期限まとめ

 現在、サポート期間中と、サポートは終了したものの「拡張セキュリティ更新プログラム(Extended Security Updates:ESU)」が提供中のWindowsおよびWindows Serverについて、ライフサイクルの終了日(End Of Support:EOS)、つまり製品サポートが終了して品質更新プログラムの提供が終了する日と、ESUのセキュリティ更新プログラムの提供終了日を、以下の表1〜5にまとめました。

 表1は、現在サポート期間中のWindows 10(半期チャネル)のライフサイクル終了日になります。EnterpriseおよびEducationエディションに対する春リリース18カ月、秋リリース30カ月のサポート提供は、2018年9月に更新されたポリシーに基づくもので、Windows 10 バージョン1809以降に提供されます。Windows 10 バージョン1803以前については、リリース時期に関係なくEnterpriseおよびEducationエディションに対して30カ月のサポートが特定で提供されていました。

バージョン Home/Pro/Pro Education
/Pro for WorkstationsのEOS
Enterprise/EducationのEOS
Windows 10 バージョン1703
以前
既にサポート終了(*1) 既にサポート終了
Windows 10 バージョン1709 既にサポート終了 当初の2020年4月14日から
2020年10月13日に延長
Windows 10 バージョン1803 既にサポート終了 2020年11月10日
Windows 10 バージョン1809 当初の2020年5月12日から
2020年11月10日に延長
2021年5月11日
Windows 10 バージョン1903 2020年12月8日 2020年12月8日
Windows 10 バージョン1909 2021年5月11日 2022年5月10日
表1 半期チャネルのWindows 10(モダンライフサイクルポリシー)
(*1)特定のプロセッサ(Intel Atom Z2760、Z2520、Z2560、Z2580)を搭載したPCについては、Windows 10 バージョン1607のサポートが2023年1月10日まで例外的に提供される場合があります。

 表2は、長期サービスチャネルのWindows 10 Enterpriseのサポート期限になります。これらのバージョンには、従来の最短10年の長期サポートが提供されています。機能更新プログラムは提供されませんが、インストールメディア(ISOイメージ)を使用した後継バージョンへのインプレースアップグレードが可能です。半期チャネルから長期サービスチャネルへのインプレースアップグレードはサポートされません。長期サービスチャネルから半期チャネルへのインプレースアップグレードは可能です。

バージョン メインストリームサポート 延長サポート
Windows 10 Enterprise 2015 LTSB(バージョン1607) 2020年10月13日 2025年10月14日
Windows 10 Enterprise 2016 LTSB(バージョン1607) 2021年10月12日 2026年10月13日
Windows 10 Enterprise LTSC 2019(バージョン1809) 2024年1月9日 2029年1月9日
表2 長期サービスチャネルのWindows 10(固定ライフサイクルポリシー)

 表3は、「Windows 7」と「Windows 8.1」のサポート期限です。Windows 7の延長サポートは2020年1月14日に終了しましたが、1年ごとにESUを購入することで(Microsoft Azure上にWindows 7 Enterpriseをデプロイした場合はESUを購入しなくてもESUの対象です)、Windows 8.1のサポート期限と同日まで「緊急(Critical)」および「重要(Important)」レベルのセキュリティ更新プログラムを受け取ることが可能です(サポート期限が延長されるわけではありません)。

バージョン メインストリーム 延長サポート ESU(最大)
Windows 7 SP1 既に終了 2020年1月14日に終了(*2) 2023年1月10日
Windows 8.1 既に終了 2023年1月10日 なし
表3 Windows 7とWindows 8.1(固定ライフサイクルポリシー)
(*2)組み込み製品向けのWindows Embedded Standard 7 SP1は2020年10月13日、Windows Embedded POSReady 7およびWindows Thin PCは2021年10月12日まで延長サポートが続きます。

 表4は、長期サービスチャネルのWindows Serverのサポート期限であり、固定ライフサイクルに基づいて最低10年の長期サポートが提供されます。「Windows Server 2012 R2」以前は長期サービスチャネルと見なされます。「Windows Server 2008 SP2」および2008 R2 SP1は2020年1月14日にサポートが終了しましたが、1年ごとにESUを購入することで(Microsoft Azure上にこれらのWindows Serverをデプロイした場合はESUを購入しなくてもESUの対象です)、Windows Server 2012/2012 R2のサポート期限と同日まで「緊急(Critical)」および「重要(Important)」レベルのセキュリティ更新プログラムを受け取ることが可能です(サポート期限が延長されるわけではありません)。

バージョン メインストリーム 延長サポート ESU(最大)
Windows Server 2008 SP2/2008 R2 SP1 既に終了 2020年1月14日に終了 2023年1月10日
Windows Server 2012/2012 R2 既に終了 2023年1月10日 2023年1月10日
Windows Server 2016(バージョン1607) 2021年10月12日 2026年10月13日 なし
Windows Server 2019(バージョン1809) 2024年1月9日 2029年1月9日 なし
表4 長期サービスチャネルのWindows Server(固定ライフサイクルポリシー)

 表5は、半期チャネルのWindows Serverのサポート期限です。最初のバージョンWindows Server, version 1709と次のWindows Server, version 1803は、既に18カ月のサポートは終了しました。しかし、2020年2月まで、Windows Server, version 1803に対する品質更新プログラムの提供と、Dockerコンテナ用の更新されたベースOSイメージ(Windows Server CoreおよびNano Server)の提供が続きました。モダンライフサイクルポリシーの18カ月のサポート期限を超えて品質更新プログラムおよびコンテナ用ベースOSイメージが提供されている理由は明らかにされていません。

バージョン EOS 備考
Windows Server, version 1709 既にサポート終了
Windows Server, version 1803 2019年11月12日に終了 2020年2月までセキュリティ更新提供継続
Windows Server, version 1809 当初の2020年5月12日から
2020年11月10日に延長
Windows Server, version 1903 2020年12月8日
Windows Server, version 1909 2021年5月11日
表5 半期チャネルのWindows Server(モダンライフサイクルポリシー)

Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004)への影響は?

 Microsoftは2020年5月中にWindows 10の最新の機能更新プログラム「Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004、ビルド19041.x)」をリリースする予定です。2020年5月12日(米国時間)には、「Visual Studioサブスクリプション」(旧MSDNサブスクリプション)向けにISOイメージの提供が始まりました。現時点で一般提供のスケジュールが延期されるような情報はありませんが、企業では管理者が機能更新プログラムの配布を適切に制御していればスケジュール通りにリリースされたとしても何の影響もないでしょう。

 機能更新プログラムの配布を制御していない場合でも、ライフサイクル期間中のWindows 10を使用しており、Windows Updateの自動更新に任せているとしても、リリース後すぐに自動配布されることはありません。現在は、意図せず自動配布されることがあったWindows 10の過去のリリースとは異なります。

 Windows 10 バージョン2004のリリースが近くなっていますが、2020年5月現在、Windows 10 バージョン1809やバージョン1903(Homeエディションを含む)に対して、現行の最新バージョン1909の機能更新プログラムの自動配布は開始されていません。ユーザーの指示で「今すぐダウンロードしてインストール」(Windows 10 バージョン1903の場合は「ダウンロードしてインストール」)をクリックしない限り、更新されることはないのです。Windows 10 バージョン2004も同様の方法でリリースおよびロールアウトされることになると思います。

画面2 画面2 2020年5月時点でWindows 10バージョン1809や1903に対してWindows 10バージョン1909の機能更新プログラムは自動配布されていない。ユーザーの指示で「(今すぐ)ダウンロードしてインストール」をクリックしない限り更新されることはない

最新情報(2020年8月27日追記)

 2020年8月26日(米国時間)、Windows 10 バージョン1803のEnterpriseおよびEducationのサポート期限が、当初の「2020年11月10日」からさらに6カ月延長され、「2021年5月11日」までに変更されました。これにより、Windows 10バージョン1803とバージョン1809のEnterpriseおよびEducationのサポート期限は共通になります。


筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2019-2020)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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