今日から使えるデザインに関する知識をあれこれ紹介する本連載。第3回は書体の歴史、特徴、選び方について。
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書面を作ったり、プレゼンテーションの資料を作ったり、デザインを作ったりする際、必ずと言っていいほど文字を入れることでしょう。その際どうやって書体を選んでいますか? ゴシック体で一番上にあったもの、明朝(みんちょう)体で一番太かったもの、和風だから筆文字風……。そこまで時間をかけて選んでいないかもしれません。
今回は、書体を選ぶときの基準を解説していきます。今後は時間をかけて真剣に選びましょう! という話ではありません。その書体が作られた背景、歴史を知ることで書体選びが楽しくなり、そして上手になりますので、ぜひ知ってみてください。
周知の通り、日本語は漢字、平仮名、片仮名、さらにアルファベットを混在して使うことがほとんどです。このような言語は筆者が知る限りでは他にありません。漢字、平仮名、片仮名、アルファベットで、サイズが違う設計がなされており、漢字と片仮名を比べると片仮名の方が少し小さく見えます。
文字は「ボディ」と呼ばれる四角の中で設計されており、その中でどのくらいのサイズにするかといった設定を「字面」と呼びます。
和文書体は明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体、伝統書体、ディスプレイ書体の、大きく5つに分けられます。どのような場面でどの書体を使えばよりふさわしいデザインに仕上がるかを解説していきます。
第1回で解説した通り、明朝体は楷書を整理、簡略化したものです。楷書とは小学校の書道の授業で最初に習うであろう、くずしていない筆文字のことをいいます。元は漢字ですので中国が起源です。読みやすく、日本で最も使われている書体です。
その整理、簡略化の特徴が顕著に表れているのは漢字です。「始線」「うろこ」「はね」は様式化され、どの明朝体にも見られるものですので、違いが出づらくなります。明朝体の中で、個性を持った書体を使いたい場合は、平仮名の特徴に注目して選ぶとよいでしょう。
明朝体の中にも細かな違いがあります。大きく分けると、モダンスタイル、スタンダードスタイル、オールドスタイルの3つです。
まずはこの3つにどのような違いがあるか見てみましょう。
モダンスタイルは、現代的なイメージでデザインされています。四角いボディに対して直線的、幾何学的、無表情的にデザインされており、無機質な雰囲気に仕上げたいけれど、ゴシック体ではなく明朝体を使いたい、という場合に使えます。
対してオールドスタイルは筆文字や活字*)の雰囲気をしっかり残しています。かといって伝統書体ほど筆文字そのままというわけではなく、読みやすく整理/簡略化がしっかりとされており、情緒的な雰囲気に仕上げたいときはオールドスタイルがいいでしょう。
*)活字とは活版印刷で使用される字型のことをいいます。インクを乗せ、紙に押し付けることにより文字が印刷されます。そのときにできる独特のにじみなどレトロな雰囲気が人気で、わざわざにじみを再現しているデジタル書体もあります。
スタンダードはその中間になります。これはスタンダードなのか、オールドなのか? と迷ったときは、そのフォントを製作した企業のサイトを閲覧すると「スタンダードな書体として開発した」などの解説文がありますので、それを参考にするとよいでしょう。
ゴシック体は日本で生まれた書体です。全ての線がほぼ同じ太さになるように設計された書体のことです。誕生には諸説あり、欧文書体のサンセリフ体を元に作られたという説や、隷書が転じてできたという説があります。
もともと縦書きの漢字を源流として生まれた明朝体より、横書きにしたときの可読性が高くなっています。横書きが多い雑誌はゴシック体で組まれ、小説や実用書など縦書きのものはほぼ明朝体で組まれていますので、ぜひ意識して見てみてください。もちろん、横書きでも読みやすい明朝体、縦書きで長文でも読みやすいゴシック体も開発されていますので、絶対ではありません。
ゴシック体も、モダンスタイル、スタンダードスタイル、オールドスタイルと分けられます。実物がないと想像がつかないかもしれませんが、比べてみるとよく分かります。
解説としてはほぼ明朝体と同じになりますが、やはりモダンスタイルは直線的に作られています。下図のような空間を「ふところ」と呼びますが、それが広く作られているのが特徴です。
筆者の環境(macOS、Google Chrome)では、本連載の文章も「メイリオ」で表示されています。モダンスタイルの特徴を持つ書体です。
似た書体に「新ゴ」が挙げられますが、こちらは駅名看板や道路標識にも使われていることで有名です。ふところの広いモダンスタイルの書体は視認性が高いことを示してくれる一例でしょう。
対してオールドスタイルは情緒を残した曲線を持っています。しかし、明朝体の持つ特徴的な「始線」「うろこ」「はね」はありません。
スタンダードスタイルはその中間、とおまけのような解説になってしまいましたが、ゴシック体は多くの書体がスタンダードスタイルとモダンスタイルに分けられます。古風さを感じられるオールドスタイルの書体は明朝体に比べて多くありません。
本文を組む際や、サイズを小さくする場合は細めのモダンスタイルかスタンダードスタイルを使うと読みやすくなります。逆に太い文字は、見出しや本文中の目立たせたい箇所のみにするなど、部分的に使うことでメリハリのある紙面になります。
丸ゴシック体は見ればひと目でそれだと分かるのではないでしょうか。しかし、その中で違いを探すのは難しいでしょう。明朝体、ゴシック体のような明確なスタイルがあるわけではなく、骨格自体はゴシック体にほぼ準拠しています。書体の名前も「ヒラギノ角ゴシック」に対して「ヒラギノ丸ゴシック」と命名されているものが多くあります。
さて、使い分けですが、丸ゴシック体は丸ゴシック体という印象が強く出てしまうので、この雰囲気を出したいときはこの丸ゴシック! という使い分けは非常に難しいでしょう。ここではゴシック体の骨格を参考にしながら考えていきたいと思います。
まずはゴシック体や明朝体では出せない、柔らかい/かわいいといった雰囲気を求められる画面に使うことが前提となるでしょう。また、「新丸ゴ」は「新ゴ」と同じく道路標識に使われており、骨格がゴシック体のモダンスタイル、スタンダードスタイルに近いものは同じように視認性の高さが見てとれます。
その上で丸ゴシック体の違いを、太さ、角丸のカーブの大きさ、平仮名の線のつながりに注目して見てみましょう。
かわいい印象の丸ゴシック体ですが、太くすると存在感が増します。書籍のタイトルなど特別なデザインで使用すると個性的で目立つかもしれませんが、太過ぎる丸ゴシック体を普段使うことはないでしょう。
角丸のカーブですが、こちらもカーブが大きいほど個性的かつ柔らかい印象になります。本文などの長文よりは見出しに向いていると言えます。しかしこれも、どちらかといえば、というレベルの話です。ゴシック体を元にした丸ゴシック体は細めであれば高い視認性を保っているので、神経質になる必要はありません。
そして、和文書体の個性は平仮名に表れるようです。以下は同じ「筑紫丸ゴシック」ですがAとBで平仮名と片仮名の形が違います。Bの方が手で書いたときのような線のつながりと曲線が表現されています。
Bのような個性の強い書体は、本文ではなく見出しやタイトルなど、短くて目立たせたい箇所に使うといいでしょう。
伝統書体とは、中国や日本で古くから使われてきた書体です。楷書、行書、隷書など、印章に使われる書体、寄席文字などの江戸文字のことをいいます。
ディスプレイ書体とは、これまでに挙げた書体に当てはまらない、自由な発想でデザインされた装飾的な要素が強い書体のことをいいます。そのためスタイルを分類することは困難です。デザイン書体とも呼ばれます。
どちらも目立たせたい場所へ部分的に使用するのに向いた書体です。
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