グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。インドに会社を設立し、夢をかなえたKumar Karvepaku(クマール・カルベパク)氏。同氏が語る「常に自分は自分である」に込められた思いとは何だろうか。
世界で活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。前回に続きCACHATTO INDIAのKumar Karvepaku(クマール・カルベパク)氏にお話を伺う。
コロナ禍という悲観的な状況だからこそ「当たり前のことをしっかりやるのが大切」と語るカルベパク氏。そんな同氏が大切にする4つのキーワードとは。聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。
阿部川 日本で5年を過ごし、インドに戻られました。e-Janネットワークスのインド支社はそれからすぐに立ち上げたのですか。
カルベパク氏 はい。2012年にe-Jan India Japanという会社を作りました。まずは当社のサイバーセキュリティ分野の主力製品「CACHATTO」を顧客の前でデモンストレーションする機会を増やしました。当時インドの社会では「サイバーセキュリティ」という概念はまだまだ認知されておらず、インターネットやコンピュータについてセキュリティの重要さを説明するところから始めないといけませんでしたから。
阿部川 それは大変ですね。そんな状況ではビジネスが軌道に乗るまで時間がかかったのではないでしょうか。
カルベパク氏 確かに簡単なことではありませんでした。ですが、私たちは諦めませんでした。ビジネスが落ち着くまでの間は日本とインドを頻繁に行ったり来たりして製品の開発や改良に努めました。年に4、5回は日本に来ていましたね。
阿部川 CACHATTOをインドで展開するに当たって、ローカライズはされたのですか。
カルベパク氏 はい。ただ、CACHATTOはもともと海外展開を見越してマルチ言語に対応できるようにしていましたし、インドに持ってくる前に中国やタイ、米国へと製品を展開していましたので、インド市場に適応させることはそれほど難しいことではありませんでした。
阿部川 それは賢明な製品開発ですね。インドでの最初の顧客はどのような企業だったのですか。
カルベパク氏 インドでの最初の顧客はITサービス企業のWiproです。当社の製品にとても感銘を受けてくださり、「IT業界だけではなく、この製品を製造業に対してアプローチしたらどうか」というアドバイスをいただきました。Wiproのおかげで、私たちは新たな製品を開発するチャンスを与えられたと考えています。
それが基になって製造業向けのセキュリティ管理製品「NinjaConnect ISM」が生まれました。CACHATTOはアイデアが日本で、開発はインドですが、NinjaConnect ISMはアイデアも開発もインドです。これは史郎さん(現e-Janネットワークス社長 坂本史郎氏)と私の関係があって生まれたものだと自負しています。
阿部川 Wiproのような多くの事業を展開する企業が顧客となると、他の業界に製品を導入する大きなきっかけとなるでしょう。しかし、実際に製品を導入するとなると簡単なことではないと思います。それを打ち破ることができた理由は何でしょうか。
カルベパク氏 そうですね……、日本での販売経験があったことと顧客からの要求を製品に反映させたことでしょうか。
私は日本にいて、多くの日本の顧客を訪問した経験があります。日本のお客さまは製品の品質にとても厳しい。ローカライズされた製品であっても、日本で作られた製品のような高い品質が求められます。そういった厳しい環境での経験が生きたと思います。
もう一つは、市場に合わせた対応をしたことです。インドは多様な言語があり、さまざまな文化を持つ地域が混在する市場です。CACHATTOは15年という長い間、市場に受け入れられてきた実績がありますが、それで満足せず、「インドの顧客が求めることはむしろ製品をより向上させるチャンス」と考え、製品を改良しました。そのことが導入のきっかけになったのではないでしょうか。
阿部川 日本で、インドで、そして世界での成功と、機会を経るごとにCACHATTOは進化してきたのですね。現在のことを教えてください。今カルベパクさんはCACHATTO INDIAの社長(マネージングデレクター)でいらっしゃいますね。
カルベパク氏 社長兼CTO(最高技術責任者)といったところでしょうか。顧客からCACHATTOに関する競合製品との差異について深くヒアリングしています。もちろん社長として会社全体の運営もしています。現在社員は15人ですが、私はマーケティングもセールスもサポートもテクノロジーも全部担当しています(笑)。
阿部川 それは大変ですね。大変といえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るっています。御社のビジネスにはどういった変化がありましたか。
カルベパク氏 コロナ禍は私たちにさまざまなことを教えています。これまでさまざまな工夫してやってはきましたが、その全てを劇的に変えるような状況がやってきてしまったと思います。当然、仕事の仕方も変わらなければなりません。
インドにおいてこれまで在宅勤務は考えられなかったのですが、「会社にいなければできない仕事はそれほど多くない」と分かりました。これはある意味、COVID-19のおかげで明確になったことだと思います。また社長と社員といったような分け隔てもなくなったと思います。働いている者同士の信頼がないと、仕事を進められなくなってきたのです。
「デジタルトランフォーメーション」(DX)も進みました。皆その必要性は分かっていたにもかかわらず、なかなか現実的には進まなかったDXが一気に加速されたと思います。「ビジネスは顧客が求めることを正しく実現する」という当たり前のことがクローズアップされたと感じています。
阿部川 コロナ禍から導き出した素晴らしい考察だと思います。私たちは急いで世界をデジタルに変えようとしてきました。しかし必要以上に急ぎすぎてきたのかも知れません。人々の仕事、その先にある幸福といったものを軽視してきたようです。コロナ禍は私たちに再考を促しているとも言えますね。ただそれは決して将来を悲観することではなく、未来にわたって「私たちがどう変われるか」という、楽観的な見方でないといけないと思います。その意味では、インドの方々は特に宗教や自然、他の人への尊厳を忘れないので、そこが今後はより強みになるのではないでしょうか。日本人もそうだったはずです。
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