オンラインイベント「GTC 2020」の基調講演からNVIDIAの今後の方向性を探ってみる。以前のPCゲーム向けのグラフィックスカードベンダーではない、データセンター向けのソリューションや自動運転などのさまざまな方向性が示されている。
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2020年10月5日から9日まで、NVIDIAが「GTC(GPU Technology Conference) 2020」という催し物をオンラインでやっていた(GTC 2020の基調講演は、「GTC 2020 基調講演」で無料視聴可能。日本語字幕あり)。NVIDIAが「GTC 2020をやっていた」というのは少々語弊があって、「リアルタイム」の参加は終わっているが、参加費を払って(99ドル)登録してあれば、2020年10月中は後追いで視聴できるようになっている。1000以上のセッションがあるということなので、多分、一人で全てを視聴することは不可能だろう。
筆者はといえば、乏しいお金と時間をNVIDIAにささげるのも何だかなということでお金は払っていない。しかし、太っ腹なNVIDIAのことである、一部の基調講演(キーノートスピーチ)などはYouTubeで公開してくれている。ご存じの通り、NVIDIAは先日、Armの買収を発表したばかり。当然ながら、今後のNVIDIAの戦略に組み込まれるはずのArmの方向性も気になるところだ。早速、基調講演を見ていこう。
NVIDIAの有名なCEO、ジェンスン・ファン(Jensen Huang)氏(いつも革ジャンの人)のキーノートをYouTubeで視聴させてもらった(GTC 2020のキーノートスピーチは「NVIDIA GTC 2020 Keynote」でも視聴可能)。1時間を超えるビデオが9分割されている。まずはその内容をかいつまんで勝手に紹介させてもらおう。
Part 1の「The Coming Age of AI」から、Part 9の「Computing for the Age of AI」まで、全編AIで貫いているスピーチだ。スピーチといって途中にビデオ映像なども適宜差し込まれている。一部の実写シーンなどは別にして、ほとんどは自社のGPUで生成した映像だろう。
Part 1の導入でこれから語ることの予告にもなっているカッコイイ映像(多くはグラフィックス)が映しだされ、背景に音楽が流れる。チラリとその音楽の収録シーンが織り込まれているが、ここは実写だ。盛んに「Omniverse」という言葉を使っている。Omniverseは、NVIDIAの3Dデザインコラボレーションプラットフォームである。コンピュータの中、シミュレーターで計算され構築された世界が実世界を映し出している感じか。計算し、映像化するのはもちろんNVIDIAのデバイス、というストーリーだ。
途中のビデオも一瞬実写かと思って見ていても、ほとんどがコンピュータグラフィックスである。NVIDIAの本領発揮というところだろう。もちろん、商売の主力のAmpere GPUは最初の方のPart 2で登場する。だが、そういう世界を映し出す装置といった扱いである。しかし、ファン氏の前にはどのPartでも目立つ位置にグラフィックスカードが置かれている。
Part 3では、時節柄、病気が取り上げられている。創薬への応用だ。「イン・ビボ(in vivo:生体内。マウスなどの実験動物を使った試験)」とか「イン・ビトロ(in vitro:試験管や培養器で人や動物の組織を使った試験)」とかいう用語は聞いたことがあったが、スーパーコンピュータを使って行う創薬は「イン・シリコン」というらしい。もちろん、これもAIである。スーパーコンピュータに使われているのは、「NVIDIA DGXファミリー」だ。
続いて中盤のPart 4からPart 5はデータセンターでの応用である。どうもここに一番力が入っている感じで分量が多い。Part 4 ではNVIDIA(のGPU)がいかに主要なデータセンターのビジネスで受け入れられているのかアピールされている。
そして、Part 5 ではNVIDIAが「DPU」と呼ぶデバイスとDOCA(CUDAと合わせたのだろうが、日本語で発音すると「どこだか分からない」感じになる)というソフトウェアインフラ、ボードとしては「BlueField-2」と呼ぶもので、データセンターのインフラを「更新」しないかと提案するのだ。
ここにはNVIDIAが2019年に買収したネットワークのMellanoxが登場する(Mellanoxについては、頭脳放談「第219回 謎の会社『Mellanox』が好調の理由」参照のこと)。そして、これから買収するArmも登場する。x86系のデータセンターをNVIDIA製品で完全に置き換えたいようだ。
Part 6では、「AI for Every Company」という題でデータエンジンについて語っている。データセンターの運営側から利用する側に視点を変えた感じだ。Part 7では、「Edge AI」のプラットフォームを例として、ロボットが活躍する大規模なウェアハウス(倉庫)などを例に挙げている。Part 8で、メルセデスベンツの自動運転車を例に、エッジ先である末端の装置の自動化を挙げている。基幹のデータセンターから末端の自動化装置までスキなしの体制を総ざらいした感じである。
そして、最後の Part 9では、買収を発表したばかりのArmの登場だ。ただ、Part 9の6分50秒のビデオのうち、Armについては最初の1分ばかりである。買収は発表したものの、各国の規制当局の許可が下りたわけではないし、あまり多くを語るわけにはいかない段階だろうから当然か。その中で、ArmのエコシステムにNVIDIAの技術を注入していくみたいなことをちらっと言っている。まだ具体的にどうなるのか分からないが、危惧する人が多いわけである。
Part 9の残りはキーノートのまとめと、最後3分の1の音楽の収録シーンである。この収録がロンドンのアビーロードスタジオ(ビートルズ世代の聖地?)で行われていることが分かる。オーケストラの譜面台の上にはNVIDIAと印刷された楽譜が載せられているのがチラリと見える。そしてPart 1の冒頭で使われていた音楽の実演奏シーンがしばらく流れてお開きとなるわけだ。かっこいい。「英国のArmを買収するくらいの金を持っているよ」という無言のアピールと見たのは貧乏な筆者の僻(ひが)みの目か。
全編を取り巻いているのは、NVIDIAがビジネスにしているAIの市場が急激に伸びている、その市場をNVIDIAが占拠できるというムードである。その背景には、NVIDIAが米国半導体会社トップの時価総額となったという事実も影響しているように思える。
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