コロナ禍でもIT投資額は堅調推移 ITR「IT投資動向調査2021」を発表リーマンショック時との“違い”とは?

ITRは2020年11月12日、「IT投資動向調査2021」を発表した。2020年度のIT予算額を2019年度と比較し増額した企業の割合は36%、減額した企業の割合は15%だった。

» 2020年11月24日 08時00分 公開
[松林沙来@IT]

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 アイ・ティ・アール(ITR)は2020年11月12日、「IT投資動向調査2021」を発表し、全結果を記した報告書の販売を開始した。調査は、2020年8〜9月に国内企業のIT戦略、IT投資の意思決定に関わる役職者を対象に実施。有効回答数は2667件だった。

 2020年度のIT予算額について、2019年度と比較し「増額した」と回答した企業の割合は36%だった。2019年に実施した調査で2020年度のIT予算額予想を尋ねた結果は33%で、前年度予想と比較すると微増した。一方で、2020年度に「減額した」と回答した企業の割合は15%。2019年度調査時の2020年度予想は9%だった。

 IT予算の増減傾向を指数化した「IT投資インデックス(※)」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による経済活動への影響を受けてか、2020年度の実績値は1.93だった。2019年度の2.62と比較すると伸び悩んではいるものの、プラスの値は維持している状態だ。2021年度予想値は1.72と、マイナスに転じないものの、IT予算額の減少傾向は2021年度も続くと予想される。

(※)IT予算額の実績値について、20%以上の減少を-20、10〜20未満の減少を-15、10%未満の減少を-5、横ばいを0、10%未満の増加を+5、10〜20%未満の増加を+15、20%以上の増加を+20として積み上げ、回答数で割った値


IT投資インデックスの推移(2001〜2020年度実績値、2021年度予想)(出典:ITR「IT投資動向調査2021」)

 同社シニア・アナリストの三浦竜樹氏は、リーマンショックの影響を受けて実績値が前年比マイナス3.8ポイントと大幅に低下した2009年を振り返りつつ、「よくこのコロナ禍でプラスにとどまっているな、というのが率直な印象」と述べた。景気動向が不安定な状況下でもIT予算が大幅に減少していない理由について、「一般に見られているニュースでもコロナ禍に対応できるデジタル化の重要性が取り上げられていることが多かったように思う。それも踏まえて、IT投資が必要な部分を減らすわけにはいかない、という意識が高まりIT投資額の減額が抑制されたのではないか」と分析した。

名目GDPと比較 リーマンショックとコロナ禍の“違い”を解説

IT投資インデックスと名目GDP成長率の比較(出典:ITR)

 IT投資インデックスと名目GDP(国内総生産)の比較では、リーマンショックのあった2009年は4%ほどGDPが下がり、翌年の2010年にIT投資インデックスが同じくらいの水準で低下したことが示されている。2020年度と2021年度の名目GDP予測値(第一生命経済研究所による試算)は、2020年度にマイナス5%まで落ち込み、2021年度は3.5%ほどに回復するとされている。

 同社シニア・アナリストの舘野真人氏は「2011年に発生した東日本大震災後はあまり景気の動向とリンクしておらず、景気が良いとき悪いときも一定水準になっているのが2010年代以降の傾向。リーマンショック当時のように急激に落ちることは現状では考えにくい」と述べ、景気後退局面であっても必要なIT投資は行われる傾向にあるとした。

DXの動向は? デジタル変革部門設置状況とIT投資の関係を分析

 デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する部門の設置状況を尋ねた設問では、「DXを推進する専任部門が設置されている」(18%)、「既存部門がDX推進を担当」(28%)、「部門横断型のプロジェクトチームがDXを推進」(21%)と、何らかのDXに対する取り組みを実施していると回答した割合は67%だった。2019年調査の同様の設問では61%と、DXに取り組む企業が増加していることが分かる。

デジタル変革の専任部門の設置状況の変化(2019、2020年調査の比較)(出典:ITR「IT投資動向調査2021」)

 また、デジタル変革の専任部門の設置状況別にIT投資インデックスを見ると、DXのために何らかの組織を設置している企業はIT投資インデックスがプラス水準を示しているのに対し、組織を持たない、分からないと回答した企業はマイナス水準を示していることが分かった。

IT投資インデックスの変化(2020〜2021年度予想:デジタル変革の専任部門の設置状況別)(出典:ITR「IT投資動向調査2021」)

 この結果について三浦氏は「特に中小企業でよく聞くのが『DXや、そもそもITに詳しい人が社内にいない』という悩み。在宅勤務や電子署名の導入を提案する人も組織もないので、IT投資額が伸びないという結果につながるのではないか」と分析した。

 「DX専任部門を置かなくとも、部門横断型のプロジェクトチームを設置するくらいであればお金をかけずに実施できる。それすら実施できない企業は今後厳しい状況に置かれる可能性がある」(三浦氏)

2021年以降のIT投資動向に大きな動きがある可能性

 三浦氏は2021年以降のIT投資動向を以下のように考察している。

 「テレワークの普及から、オフィスの引越しを考えている企業が増えた。オフィス縮小や保養所を閉じるという計画と同時に、これを機にデータセンターの契約を3年後に切ろう、ネットワーク基盤を見直そうという動きが活発になっている。感覚としては、2021年にRFP(提案依頼書)をベンダーに提出するスピード感だ。投資動向調査に傾向が現れるのは2021〜2022年以降になるだろう」(三浦氏)

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