それ、本当に「DX」ですか?特集:内製化によるDX開発 SIerをどう生かすか(1)

業種・業態を問わず、およそ全ての企業・組織に「ITを前提としたビジネスプロセス、ビジネスモデルの変革」、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践が求められている。システムをSIerに外注するスタイルが一般的な日本において、企業とSIerのパートナーシップは今後どうあるべきなのだろうか。

» 2020年12月15日 05時00分 公開
[編集部,@IT]

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DX投資に積極的な企業の中でも進む「二極化」

 国、社会のデジタル化が急速に進む中、DXという言葉が市民権を持ち直している。2020年4月の緊急事態宣言以降、リモートワークの導入をはじめとする強制デジタル化の波は、当初こそ多くの企業を混乱に陥れたが、そのメリットを実感させることにもつながった。紙・ハンコを軸とした仕事の進め方の非合理な部分も浮き彫りにされた他、国のデジタル庁創設や規制改革関連の各種報道も手伝い、たった半年ほどで、デジタルに対する社会の認識は大きく変わることになった。

 こうした中で、企業の動きは二極化した。出勤ラッシュの復活に象徴される、これまでのスタイルに固執する企業と、新しいやり方に乗り出す企業だ。この傾向は編集部が2020年6月に実施した読者アンケートにも表れていたが、社会のデジタル化が進むことは間違いない以上、一日でも先に取り組んだ方が有利なことは自明の理だ。その差は日々広がっているといえるだろう。

 ただ、「デジタルを使った新たなやり方」に乗り出している層の中でも、ある種の二極化が進んでいるようだ。「自分で考える企業」とそうでない企業だ。新たなやり方に乗り出すにしても、ノウハウやスキルといったハードルが立ちはだかる。「DXを目指すといっても、何をすればいいか分からない」といった声も多い。そこでこれまでもITツールの導入や運用などを依頼してきたSIerに相談を持ち掛けるわけだが、企業によっては、ここである間違いを犯してしまう。

 ビジネス課題と改善したいことが明確で、ITのスキル、ノウハウといった自社にない部分で外部の力を借りるなら問題はない。だが従来のように、目的が不明瞭なまま「ツールさえ入れれば」といった考え方で丸投げをしてしまう。これでは、たとえSIer側が「DX支援」をうたっていても、プロジェクトは暗礁に乗り上げることになる。DXとは「ツールを入れること」ではなく、「デジタルの力を使ってビジネスの在り方、遂行の仕方を変えること」であるためだ。自社のやり方、もうけ方を他社に丸投げして、成果が得られるわけがない。

 だが、この当たり前のことをいまだ認識できていない企業は多い。デジタル化の流れは長年指摘され続けてきた丸投げの問題を改めて浮き彫りにし、企業のITへの向き合い方を根本から問い直すことにつながっているわけだ。

問題は、「ツールを入れること」「アプリを作ること」ではない

 この背景にあるのは、言うまでもなく「ビジネスとITの分断」だ。多くの企業において、ITが経営戦略に埋め込まれることはなく、単なる「コスト削減や効率化のためのツール」と捉えられてきた。これは組織にも反映され、IT部門やIT子会社は半ば一方的に経営層や事業部門の指示を受けてツールを導入するという体制が一般的であり続けている。IT部門側にビジネス理解はさほど求められず、IT部門側から提案するという流れが組織的に阻害されているケースも多い。

 無論、クラウドが浸透し、ITを選び、使いやすい環境が整っていることも手伝い、IT部門発の変革を成し遂げている企業も少なくない。だが大局的には、そうした例はまだまだ限定的であり、大半は従来の在り方を脱却できていない。しかしビジネスが対面前提からデジタル前提に変わり、ビジネスの在り方そのものを見直さざるを得ない状況となった今、もはや従来のスタンスのままでは社の存続に関わることになるだろう。

 ではどうすればよいのか。これには3つのポイントがある。1つは、経営層と事業部門のIT理解と、IT部門のビジネス理解だ。前者はビジネス、後者は技術の専門家という立ち位置である以上、共に詳細まで知る必要はない。だが、1つの目的に向けて課題解決のアプローチを議論できるだけの共通言語は必要だ。いきなり組織体制を変えることは難しいが、少なくとも課題を議論する場の創出は求められる。

 2つ目は、「今何をすべきか」の正しい認識だ。「DX」「デジタル化」といった言葉のイメージから「ツール導入」を中心に考えてしまいがちだが、考えるべきは「どうビジネスを進めるか、進め方を変えるか」であり、ツールは手段にすぎない。

 3つ目は「DX」に対する誤解の払拭だ。DXは「全く新しい価値」を生み出すものではなく、自社の強みやビジネスプロセスを見直し、再構成して、「既存の強みを先鋭化させる取り組み」だ。ここに至るまでには、まずは書類の電子化や、個人/部門単位の作業を自動化する「デジタイゼーション」、その上で業務/ビジネスの処理・遂行プロセスを見直し、自動化した作業同士を連携させて、部門横断でプロセス全体を自動化するなど、より効率的な形に変える「デシタライゼーション」が求められる。この部分では、例えば「この承認プロセスは本当に必要か否か」など、既存のプロセスを縛っている制度やルールの見直しも必要だろう。

 こうして業務/ビジネスをデジタルの力で効率的、合理的にさばく下地が整って初めて、そこに新たな要素を加える、他社の機能やデータを連携させるなどして新たなビジネス価値を生み出す「DX」につなげることができる。つまり、「ツールを入れれば終わり」ではなく、企業としてありたい姿という全社観点の目的を見据えて、「やり方」を継続的に改善する取り組みが必要なのだ。

 多くの場合、こうした理解が抜け落ちたまま、「DX」「デジタル化」といった言葉だけに惑わされている傾向が強い。悪いことに、一部ではベンダー側がこうした潮流に“乗っかっている”例も時に見受けられる。

 例えば、DXやデジタル化という言葉でなくとも、「データ活用」「RPA活用」「リモートワーク環境整備」でも何でもよい。そのソリューションにはプロセス変革や全社最適、継続的改善などの視点があるだろうか。もしなければ、貴社にその視点がない限り、ツールを入れても成果が得られないか、成果を得てもデジタイゼーションの域を出ず、そこから先のロードマップがない、すなわち、これまでと同じ局所的な効率化にとどまることになりやすい。場合によっては、「各人、各部門の個別作業の効率化」という個別最適の視点しかないため、ツールのサイロ化、重複という無駄や弊害すら生み出しかねない。それでは従来と何ら変わらない。

 「内製化」も同様だ。経営環境変化に追従するためには、SIerに外注していると時間もコストもロスが大きい。故に自社内に開発リソースを持ち、真に必要なアプリケーションを自社で作ることが重要だという指摘はその通りだが、気を付けるべきは、内製化の目的は「アプリケーションを速く、安く作ること」ではなく、「ビジネスを変えること」という点だ。内製化を目指す企業はSIerのスタッフと自社の社員で仮想的な開発チームを組成する、ノーコード/ローコード開発ツールなどを導入する、といった方法が一般的だが、DXを目指す場合、形だけ整えても、目的をはき違えると成果は望めないことになる。

 今、企業側に求められているのは、以上の認識に基づき、全社視点でビジネスの在り方、進め方を見直すことに他ならない。そのためには経営層や事業部門とIT部門が対話し、「今の課題と本当に必要なこと」を見定める必要がある。その上で、ITのスキル、ノウハウ、人材など足りない部分でSIerの力を借り、できる部分から段階的に取り組みを進めていくことが重要だ。このためには、「それを使うと何ができるのか」といった最低限の技術の目利き力も必要だろう。丸投げではなく、「ビジネスのこの部分をこう変えたい」という主体的なスタンスがあって初めて、SIer本来の力を生かせるのだ。

改めて選別されるSIer 組むべきSIerの要件とは

 一方で、SIer側も試されることになる。従来のようにツール導入、保守・運用を柱に収益を上げるのではなく、顧客企業に寄り添い、彼らに通じる言葉と、場合によっては実際に動く成果物を見せながら、アジャイルのアプローチで「ツール導入」ではなく「ビジネスの変革」に伴走する必要がある。

 このためには顧客企業の業種・業態理解に基づく、ビジネスコンサルテーションの能力や、全体最適の視点を持ち、ビジネスプロセス全体を視野に入れて、顧客企業の予算事情やゴールと照らし合わせつつ、現実的なロードマップを提案する能力も求められる。また、ある意味、ゴールのない「継続的な取り組み」となる以上、要件定義書に基づく算出工数と人月単価を掛け合わせた従来型の契約形態を見直す必要もあるだろう。SIビジネスの変革については数年前から重要性が指摘されてきたが、今改めて選別されるフェーズに入ったというわけだ。

 こうした中、変革に乗り出し、収益と信頼を獲得しているSIerは着実に増えつつある。アジャイル開発のアプローチを採り、「顧客に寄り添う」ことを打ち出しているSIerもあれば、Amazon Web ServicesやGoogle Cloud、Microsoftといったメガクラウドベンダーのように、コンサルティング企業や多彩なパートナーのクラウドインテグレーターと協業し、それぞれが得意分野に基づきコンサルや実装に注力しているケースも目立つ。各社各様の要件に応じてサービスの最適な組み合わせと適用をスピーディーに行えるよう、グローバルでのベストプラクティスやリファレンスアーキテクチャを整理するなど、ベンダー側も積極的に支援の姿勢を打ち出している。企業にとって、「ビジネス課題」「やりたいこと」に集中しやすい環境が年々整っていることは間違いない。

 ただ、繰り返しになるが、そうした力を生かす上では、企業側がITに対する認識を持ち直すことが前提となる。事業部門の要望、ビジネスの狙いとは切り離されたところで「コスト削減の手段」とのみ捉えている限り、IT投資の8割を占める運用コストはさほど減らせず、使われないシステムは増え、クラウド移行プロジェクトも「移行」だけで終わってしまうことだろう。ビジネスプロセス/モデルの変革に向けて、主体的にITを活用する企業との差は数年後には縮めようがないほど開いているはずだ。

 「ビジネスのこの部分をこう変えたい」ということなら、貴社も4月からの8カ月間で嫌と言うほど痛感させられてきたのではないだろうか。本特集では、そうした問題意識を共有し、解決に向けて共に走っている複数のSIerに話を聞く。今、変革を推進しているSIerは何を見据え、何を行っているのか。ニューノーマル時代の企業ITの要件と、現実的かつ効果的な「内製化」に向けて、SIerと企業のパートナーシップはどうあるべきなのか――力を借りる企業、力を貸すSIer、共にDXを目指すリテラシーが改めて問われている。

特集:内製化によるDX開発 SIerをどう生かすか

業種・業態を問わず、およそ全ての企業・組織に「ITを前提としたビジネスプロセス、ビジネスモデルの変革」、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践が求められている。システムをSIerに外注するスタイルが一般的な日本において、企業とSIerのパートナーシップは今後どうあるべきなのだろうか。



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