コロナ禍で、ITに対する意識が二分――存続できる企業、できない企業の「明確な差」読者アンケート「コロナ禍における企業のIT戦略」結果速報

@IT編集部では2020年6月4日〜19日にかけて読者アンケート「コロナ禍における企業のIT戦略に関する調査」を実施した。その結果から垣間見えた実態を基に、企業の今後を占う。

» 2020年07月21日 05時00分 公開
[編集部,@IT]

コロナ禍は企業とITに何をもたらしているのか

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック(世界的大流行)を受け、多くの企業がリモートワーク/シフト勤務を急ぎ導入することとなった。社外向け、社内向けを問わず、ビジネスコミュニケーションはITを介することが前提となり、社会、ビジネスともに新たな様式への変革が求められている。

 ソーシャルディスタンスを保った生活様式は、業種・業態によっては深刻な経済的ダメージをもたらし、国際通貨基金(IMF)の2020年6月24日の発表によると、2020年の世界経済の成長率見通しは−4.9%、日本は−5.8%と、2008年のリーマンショック時とほぼ同水準の落ち込みが予測されている。企業においても投資を絞り込む傾向が見られているのは周知の通りだ。

 だが、半ば強制的にリモートワークを強いられたことは、生産性向上をはじめ、IT活用のメリットを多くの企業が再認識することにもつながった。収束時期の予測が難しいことも手伝い、リモート前提の働き方、ビジネスの在り方は今後定着していくことが予想される。

 こうした中で、ITをどう捉えるのか。テレワーク関連ツールさえ導入すればビジネスを問題なく運用できるわけではない。新たな様式に変革する上では、制度や文化、コミュニケーションの在り方など、IT以外の問題も含めて、ビジネスプロセスを根本から見直すことが求められる。特にエッセンシャルワーカーなくして立ち行かない業種・業態においては、ビジネスモデルそのものを見直す必要性も生じつつある。

 では、実際はどのような状況なのか。@IT編集部では2020年6月4日〜19日にかけて読者アンケート「コロナ禍における企業のIT戦略に関する調査」を実施。(調査方法:@IT Webサイト上の自記式アンケート/調査対象者:@IT読者を中心とするITmedia ID会員/回答数:1218件)。アンケート結果の一部を基に、1000件を超える回答から垣間見えた企業の現状と意識をお伝えする。

「従来の課題」と「ITに対する認識」が露呈

 まず注目したいのは「テレワークの導入状況」と「導入時期」だ。以下のように、「全社的に導入している」「限られた職種や部門で導入している」を合わせると、実に85.9%に及ぶ。だが「導入時期」は「直近3カ月以内」、つまり政府の緊急事態宣言が出された2020年4月6日前後以降に導入したことが分かる。各種メディアで報道されている通り、必要に迫られて急ぎ導入した格好だ。

ALT 図1 「テレワークの導入状況」と「導入時期」(n=1218/1047)《クリックで拡大》

 では導入してどうだったのか。「テレワーク環境整備の課題」に関する設問では、「業務に必要なシステムの全てを使用できない」「ネットワーク遅延」「従業員のITリテラシー」などの課題が目立ち、混乱、困惑が広がっていたことが改めてうかがえる。

ALT 図2 「テレワーク環境整備の課題」(n=1094)。当面の問題に縛られ、「ライセンスコスト」「ガバナンス」に目が向いていない傾向が強い《クリックで拡大》

 だが、致し方ないとはいえ、「セキュリティ」以外、守りの施策に対する関心が低い点は気がかりなところだ。日頃の取材の中では、「コミュニケーション関連ツールを導入するに当たり、急ぎSaaS利用を開始した結果、コストが増大してしまった」「リモートワーク用端末を用意できず、従業員の私物端末を使ってもらった」「VPNの設定を各従業員に任せるしかなかった」といった声も聞かれる。

 IT資産に対する意識やリテラシーに起因する問題はシャドーITを生み、セキュリティはもちろん、コスト、ガバナンス、コンプライアンスに大きな影を落とす。この辺りは、以前から指摘され続けてきた問題が、コロナ禍によって一気に露呈したと捉えることができる。

 BCP(事業継続計画)/BCM(事業継続マネジメント)も後回しにされている傾向が強い。「対策を行った」のは約24%。「行う予定」も含めた約76%は、アンケート回答時点で対策を行っていない。さらに「事業継続のために採用している製品/サービスをいくつでも選択してください」という設問では、コミュニケーション関連ツールがバックアップツールなどよりも目立つ傾向にあった。

ALT 図3 「BCM/BCP(事業継続マネジメント/事業継続計画)の見直しや準備状況」(n=1218)。「対策を行った」のは約24%《クリックで拡大》

 「当面の問題」に対応せざるを得なかったということだろうが、備えは平時に整えておいてこそ意味がある。およそ全てのビジネスをデータとITが支えていながら、事業基盤の脆弱(ぜいじゃく)性を放置してきたという結果も、「ITと事業が分断されている」という現実を裏付けているといえるのではないだろうか。

「ニューノーマル」に対する企業のスタンスは二分

 だが、冒頭で触れたように、新たな様式に対応する上では、制度や文化、人材、コミュニケーションの在り方も含めて、ビジネスプロセス、場合によってはビジネスモデルそのものを見直す必要がある。緊急事態宣言や東京アラートが解除されて以降、通勤ラッシュが復活したが、2020年7月16日現在、感染者は再び拡大し、第二波も予想されている。デジタル化の流れは着実に加速していくはずだ。

 アンケートでは、そうした流れを読み取っているのであろう企業と、そうでない企業で大きく二分することになった。

 「新型コロナウイルス感染拡大のIT投資への影響」では、31.2%が「プラス方向に影響する」と回答。「変わらない」も含めると約半数を占める。

ALT 図4 「新型コロナウイルス感染拡大のIT投資への影響」(n=1218)《クリックで拡大》

 ここではグラフを紹介しないが、くしくも「DXの継続状況」についても約半数が「継続している」と答えていた。だからといって、この「IT投資」が全て「DXに対する投資」というわけではない。言うまでもなく、テレワーク関連ツールなど「当面の課題」に対応するための投資も含まれている。だが、あえてネガティブな見方をすれば、約半数の企業は、これまでもDXに取り組んでおらず、ここまでITの必要性が訴えられている中でもIT投資を削っていることになる。ITの重要性を認識していない企業は、何が起ころうとその認識は変わらない、ともいえるのではないだろうか。

 では、DXに「投資している」と答えた企業は「どの領域の投資を重視」しているのだろうか。回答を見ると、「業務標準化・自動化」「ワークスタイル変革」が、手段としてはクラウド、AI、IoT、RPAが目立つ結果となった。

 ここで注目したいのが、前述した「テレワーク環境整備の課題をいくつでも選択してください」という設問で、「その他」と答えた回答者の自由回答だ。ご覧の通り、コミュニケーションやリテラシーに関する意見も多いが、「紙ベース」「ハンコ文化」を問題視する声と、「事務処理のデジタル化」「書類の電子化」を望む声が目立つ。テレワークを始めても、紙ベース、ハンコ文化という出社前提のプロセスが足かせとなっていることに改めて気付かされた格好だ。

ALT 図5 「テレワーク環境整備の課題」における自由回答(n=1094)《クリックで拡大》

 もちろん、これは自社だけで解決できる話ではなく、取引先も含めた業界全体に関わる商慣習の問題だ。だが、「人や場所の問題に縛られるビジネスプロセス」から、「デジタルを軸とした合理的かつスピーディーなビジネスプロセス」への変革の必要性が、一定の危機感とともに、改めて明確に認識されたのではないだろうか。前述したクラウド、AI、IoT、RPAなども、各テクノロジーをそれぞれ単体で扱うのではなく、「1本のプロセス」に埋め込むアプローチが求められる。

「プロセスの非合理」をどう受け止めるか

 従来、企業のビジネスプロセスは、クラウドサービス、パッケージ、スクラッチのアプリケーションなどが混在する中で、人が手作業でサービス/アプリケーション間のワークフローをつないできた。自動化を取り入れても部分的な単純作業の自動化にとどまり、これがいわゆる“野良Excel”、“野良ロボット”などの温床となっていた。

 また、全社的なIT戦略がないか、希薄なことは、部門単位で勝手にSaaSなどを導入してしまう、複数部門が同じものを導入してしまうなど、シャドーITや無駄を招く原因にもなっていた。だが、人に依存したプロセスは属人化の問題を招き、ハンコ文化も含めて、業務や意思決定のスピードを阻害するボトルネックをあらゆる部分に作り出してしまう。

 これらはすなわち、データの流れを阻害していることに他ならず、業務効率のみならず、ビジネス機会の獲得・発掘をも阻害することにつながる。今回のパンデミックで、そうしたプロセス上の問題が、実感を伴う形で極めて具体的に認識されたということだろう。無論、従来のビジネスプロセスや組織、人の在り方が合理的な時代もあったが、今の経営環境にはもはや適さなくなっているというわけだ。

 ではどうすべきか。ここには大きく4つのポイントがあるだろう。1つは自動化の推進だ。一連の業務を可視化し、棚卸しした上で、より効率的なプロセスに改善し、部分的な自動化ではなく、人にしかできない部分以外は、一連のプロセスへと自動化の範囲を広げていくことが求められる。2つ目はデータ基盤の整備だ。データの流れを整え一連のワークフローを滞りなく運用する、データ基盤を一元化し全社的なデータ活用環境を築くといった取り組みが必要だ。

 3つ目はビジネスを支えるインフラの変革だ。コスト最適化、災害対策の観点も含めたパブリッククラウドの活用と、オンプレミスのクラウド化、ハイブリッド環境の一元管理などが求められる。そして4つ目は、データを基に新たな価値をスピーディーに創出するための取り組みと、そのために必要な仕組みの整備だ。

 つまり、まずは業務の属人性解消を軸にビジネスプロセスを整え、自動化を軸に業務効率化を図る。ここで“ニューノーマル時代の市場競争”に参加する前提条件が整う。その上で、自社の既存の強みを基に、デジタルの力を使って強みを強化する、あるいは新たな価値を創出する――こうしたデジタイゼーション、ひいてはデジタライゼーションを推進していく必要がある。言うまでもなく、これはまさしくDXの推進に他ならない。

ALT 従来の課題が認識された今、DX実践に向けたデジタイゼーション、デジタライゼーションが加速する可能性は高い

 従来は、AI、IoT、クラウド、RPAなど、各種技術要素を個別に捉えてしまいがちだったり、ベンダーメッセージも個別に訴求する傾向が強かったりと、ビジネスプロセス全体を視野に入れにくい傾向も強かった。だが、ビジネスプロセスの問題を痛烈なまでに認識させられた今、プロセス全体を見て、明確な目的意識の下、以前よりも主体的に技術を選定、適用しやすい土壌が整ったといえるのではないだろうか。

 パンデミックで露呈した数々の非合理は、現状を見直すヒントであり、現状を可視化できれば、コスト、セキュリティ、コンプライアンス上の問題にもおのずと目が向かうはずだ。また、テクノロジーを使って標準化・自動化すべき領域、自社ならではの強みをさらに先鋭化すべき領域も明確に見えてくるだろう。

 今をチャンスと捉えるか否か。経営層の認識も含めて、存続がかかった第一歩が試されているといえるのではないだろうか。

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