マルチクラウドにおける次の課題とVMwareのサービス化、Kubernetesの役割VMworld 2021発表まとめ(2/2 ページ)

» 2021年10月20日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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 VMware Cloud Universalに契約していると、クレジットを使ってTanzu StandardをオンプレミスやエッジのVCF、VMware Cloud on AWS、「Azure VMware Solution」、さらには「Amazon Web Services(AWS)」「Microsoft Azure(Azure)」の仮想マシンインスタンス上に展開でき、統合管理ができる。VMware環境上でなくてもクレジットを使い回しできるということになる。

 また、今回発表した「VMware Cloud on AWS Outposts」は、オンプレミスのVMwareインフラのサービス化を進める取り組みの1つだと表現できる。これが今後VMware Cloud Universalに含まれるならば、オンプレミスを含めた複数クラウドの機動的な利用を実現する新たな選択肢になる。

 その延長線上に、今回のVMworldで技術プレビューが発表された「Project Arctic」がある。 このプロジェクトでは、オンプレミスで従来型の「VMware vSphere」を運用している企業が、これを即座に「ハイブリッドクラウド化」できるようになる。オンプレミスの「vCenter」(管理ツール)から外部のVMwareクラウドを呼び出し、ディザスタリカバリーを構成するなどができるという。

Kubernetesで、開発者、IT部門の双方にアピールする発表

 マルチクラウドに関連して、ますます注目されるのがコンテナ/Kubernetes、そしてその上のアプリケーションプラットフォーム。なぜなら、組織内での開発チームとIT部門の考え方の乖離(かいり)と直接関係するからだ。

 VMwareのクラウドネイティブアプリケーションビジネス部門 R&D担当バイスプレジデントであるクレイグ・マクラッキー氏は、この部門の目的を「VMwareの製品群だけでなく、パブリッククラウドやネットワークエッジをカバーし、マルチクラウドの機能を提供するための取り組みを行うこと」だと話している。

 VMwareのコンテナプラットフォーム製品「Tanzu」は、KubernetesにPrometheus、Harbor、Sonobuoy、Velero、Calico、Contour、Cluster APIなどの関連OSSをパッケージしたもの。これに後述の管理ツールをバンドルしている。

 「Kubernetesは退屈なものでなければならない。 立ち上げるのに証明書やIngressコントロールなど、細かい設定に惑わされなくて済むようにしなくてはならない」(マクラッキー氏)

 そこでTanzuでは、Kubernetes運用に必要と考えるOSSツールを選び、検証した上で構成している。ユーザーは、これを一括してインストールし、即座にKubernetes基盤を立ち上げて活用できるという。

 一方、Tanzuの管理ツール「Tanzu Mission Control」では、さまざまな場所に展開されるTanzuの他、「Elastic Kubernetes Service(EKS)」、「Azure Kubernetes Service(AKS)」といったパブリッククラウドのKubernetesクラスタのライフサイクル管理、その他あらゆる認定Kubernetesのクラスタの統合管理ができる。また、アクセス管理やアイデンティティ管理、構成管理、クラスタのバックアップ/リストアも実行できる。

 今年のVMworldでは、このTanzu製品群で、開発者/開発基盤担当者、IT部門/VMware運用担当者の双方にアピールする発表を行った。

有償版と同一の無償版コンテナ基盤、「Tanzu Community Edition」

 まず、Tanzuでは、無償版の「Tanzu Community Edition」を発表した。 サポートはないが、有償版のTanzuと同一のものを、利用規模や機能の制限なしにどこへでもインストールして使える(管理ツールはない)。構成するソフトウェアは全てOSSなので、無償だということに驚きはないかもしれないが、開発者が即座にKubernetes環境を立ち上げて、アプリケーションを投入できるという点をアピールする。

 また、Kubernetes管理のTanzu Miision Controlでは「Starter Edition」という、機能を限定した無償版を提供開始した。Starter Editionでも、パブリッククラウド上のKubernetesクラスタをまとめて管理できる。

 すると、Tanzu Community EditionとTanzu Miision Control Starterを組み合わせれば、タダでコンテナ基盤を一通り運用できてしまう。

 「もちろん、有償版に移行してもらいたいとは思う。だが、まずは無償版を使ってもらいたい。組織として使うのに役立つ機能やサポートが欲しいと考えた時に、有償版を検討してもらえればいい」(マクラッキー氏)

「Tanzu Application Platform」がβ2に、開発チームが仮想マシンを制御するプロジェクトも

 ラグラムCEOが今回のVMworld 2021におけるアプリケーションプラットフォーム関連の発表で最も重要だと述べたのは「Tanzu Application Platform」。これは開発者がコンテナ基盤のことを全く考えず、アプリケーションを投入することに専念できるPaaS基盤を目指すもの。

 VMwareはCloud Foundryに基づくPaaS基盤を推進してきたが、これとは別のツールとして、Tanzu Application Platformのβテスト開始を発2021年9月に表した。Kubernetesをベースとして開発されていて、パブリッククラウドのKubernetesサービスを含むディストリビューションでマルチクラウドに動作する。一般提供の開始は2022年を予定する。

 VMwareは開発者/開発チームに向け、今回「Project Cascade」も発表した。

 これは、Kubernetesの拡張API/コマンドで、コンテナクラスタに加え、 vSphereも管理するツール。開発チーム/開発基盤担当者は、Kubernetesの宣言的な制御手法を活用できる。これまでVMwareはIT部門/VMware管理者がVCFとTanzuを連動して管理できることを強調してきたが、Project Cascadeでは開発チーム/DevOps担当者がコンテナクラスタ運用に合わせて仮想マシンの立ち上げや停止を制御できるようになる。

 vSphere/VCFとは直接結び付かないTanzu関連のニュースはもう1つある。VMwareのKubernetesディストリビューションであるTanzu Kubernetes Gridで、AWS、Azureの仮想マシンインスタンスにおけるGPUをサポートする。

無償のマネージドKubernetesサービスを発表

 一方で、VMwareは従来通り、VMware環境とTanzuの組み合わせを推進している。今回のVMworldでは、マネージドKubernetesサービスとして「VMware Cloud with Tanzu services」 を発表した。

 「VMware Cloud with Tanzu services」は無償のマネージドKubernetesサービス。現在のところ、VMware Cloud on AWS上でのみ提供される。VMware Cloud on AWSと同様マネージドであるため、インストール、設定、アップデートなどの作業は必要ない。また、無償であるため、コンテナ/Kubernetesへの支出をためらっている企業にも採用しやすい。

 Tanzuでは、仮想マシンとコンテナが同じプラットフォーム上に混在で動き、開発チームの自由を保ったまま、vCenterから一括して管理ができる。VMware Cloud with Tanzu servicesでは、こうした環境が追加コストなしに、運用ゼロで使えるというメリットを訴求している。

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