用語「人間中心のAI」について説明。人間の能力を機械(AI)に置き換える「自律的なAI」のアプローチよりも、機械(AI)を使って人間の能力や体験を向上させる「人間中心のAI」のアプローチの方が大切だとする、AIの研究/構築方法に関する考え方を指す。その考え方では、「人間と機械の相互作用」および「人々や社会への倫理的な影響」に関心を向けることも重要視される。
人間中心のAI(HCAI:Human-Centered Artificial Intelligence)とは、人間の能力を機械(AI:人工知能)に置き換えることよりも、機械(AI)を使って人間の能力や体験を向上させることに焦点を当てたアプローチの方が大切であるとする、AIの研究/構築方法に関する考え方である(図1)。
「AI/機械学習モデルをどのように設計/構築するか」の観点では、人間が一切介在することなく機械(AI)自らが自律的に判断して動作する「Autonomous AI(自律型AI)」のアプローチがある。それに対して「HCAI(人間中心型AI)」のアプローチは、人間による知恵や創造性、多様性を機械(AI)で代替することはできないと主張する。HCAIの考え方では、設計/構築の各段階で「人間と機械の相互作用(HCI:Human-Computer Interaction)」、さらに「人々や社会への倫理的な影響」に関心を向けることが重要なポイントとなっている。
関連用語として、「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL :Human-in-the-Loop)」はHCAIを実現するための一手段であり、「責任あるAI(Responsible AI)」はHCAIの一種/一部だと考えられる。またHCAIには、人々(people)や社会(society)に関心を向けて設計(design)することも含まれると考えられるので、「人間中心設計(HCD:Human-Centered Design)」も関連用語となるだろう。
HCAIは、以前(1997年頃)から議論があったが、2019年にスタンフォード大学で「人間中心のAI」の研究所として「Stanford HAI」が設立されるなど、近年、より大きな注目を集めるようになってきている。
またHCAIには各企業も取り組んでおり、例えばグーグルは「PAIR:People + AI Research」というサイトを通じて、HCAIやHCI、HCD、責任あるAIなどに関する研究結果が公開されている。このサイトでは、ガイドブックを閲覧したり、ツールにアクセスしたりできる(図2)。
またマイクロソフトは「人間とAIの相互作用に関するガイドライン」というサイトを通じて、HCI研究に基づく18個の設計ガイドラインを提案している(図3)。
日本政府も「人間中心のAI社会原則」という資料を2019年2月に公開している。文書内には「AIは、人々の能力を拡張し、多様な人々の多様な幸せの追求を可能とするために開発され、社会に展開され、活用されるべきである。」という一文があるが、これはまさにHCAIの考え方である。
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