ITエンジニアが習得したい技術と、企業が求める技術 需給の差は縮まるのかハイパースケーラーがスキル需要をけん引

人材クラウドサービスを手掛けるTuring.comの幹部が「Stack Overflow」のブログに記事を寄稿し、ソフトウェア開発者のスキルに対する企業の需要の変化や、開発者のキャリア形成における経験の位置付け、求められる経験などを解説した。

» 2022年08月24日 18時20分 公開
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 Turing.com(以下、Turing)のCRO(最高売上高責任者)を務めるプラカシュ・グプタ氏は2022年8月3日(米国時間)、開発者向けQ&Aサイト「Stack Overflow」に記事を寄稿し、ソフトウェア開発者のスキルに対する企業の需要の変化や、開発者のキャリア形成における経験の位置付け、求められる経験などを解説した。Turingは企業とリモートソフトウェア開発者をマッチングするAIベースの人材クラウドサービスを提供している。

 グプタ氏はTuringがこのサービスを提供する中で、「開発者が需要の高いスキルと技術を特定し、最良のキャリア開発方法を理解するのに役立つ膨大なデータセットを蓄積してきた。ここでは、このデータセットに基づいて解説する」と述べている。

今、需要の高いスキルは何か

 スキルに関しては、技術スキルとプロジェクトスキルの2つのカテゴリーで考えることができる。

 プロジェクトの観点では、モバイル開発やDevOps、DX(デジタルトランスフォーメーション)などのスキルや専門知識を持つ開発者の需要が高いと考えられる。企業は、ハイパースケーラー(大手クラウドサービスプロバイダー)が採用しているプラクティスを中心に自社のプラクティスを構築するようになってきており、これらのワークフローに関する経験は貴重だ。

 技術面では、「JavaScript」「React」「Python」が、世界中で常に最も需要の高い技術スキルの部類に入る。特にReactは、開発者スタックの一部として高い人気を誇っている。

 次のグラフはTuringが収集したデータに基づいている。幅広いスキルへの評価に基づいて、採用されていることが分かる。だが、どのスキルが自分のキャリア開発に役立つのかを考えるのであれば、需要が特に高いスキルは一目瞭然だ。

採用された開発者が習熟している主要な言語と技術(提供:Turing)
採用された開発者が習熟している主要なスタック(提供:Turing)

新型コロナのパンデミック以降、スキル需要はどのように変わっているか

 多くの企業が在宅勤務を可能にしたことを考えれば、企業が技術スタックをクラウドコンピューティングサービスに移行し始めたのは当然だ。これがこの2年間で最も大きな変化であり、さらに加速しそうだ。開発者としては、クラウドの認定資格を持っていれば有利になる。

 また、この3〜5年間に多くの新しいプログラミング言語や技術スタックが台頭してきた。これによって開発者や企業は、プロジェクトに適したツールをより自由に選択できるようになった。だが、2022年後半から2023年にかけて、(米国の)マクロ経済状況の変化に伴い、企業はコストに目を向けざるを得なくなる。まだ開発者の採用難は続いているものの、大手IT企業の多くが2022年前半に、レイオフや採用凍結を発表している。

 人員削減や採用の減速とともに、企業は連携する技術スタックを統合しようとしている。現在、エンジニアリングの責任者やCTO(最高技術責任者)にとって最大の頭痛の種は、製品やエンジニアリングプログラムで使用されている技術の数だ。多くの異なる言語に依存することは、長期的に持続可能ではない。メンテナンスと人材採用にコストがかかりすぎ、面倒だからだ。企業は、自社の目標にとって最も重要な技術に特化した開発者を、優先的に採用するようになっている。

 このことは開発者にとってどんな意味を持つのか。最も需要のある開発者は、特定のプログラミング言語にとらわれず、プログラミング言語はツールであり、自分を定義するものではないと考える。需要がある新しいスタックや言語の学習に投資し、それらを実務に活用する意欲がある開発者は、常に成功を収めることができる。

経験を積むことだけがキャリアアップの道か

 現在、開発者の世代交代が進んでいる。1990年代には、急速に進化するインターネットの可能性に胸を高鳴らせた開発者たちが、労働市場に参入した。採用担当者は適切な人材を選抜するために、学位や経験年数などを目安にすることが多かった。Turingのデータによれば、今もその傾向が続いている。ここ3〜5年間に、コードを書くことをアカデミックな探究の対象として扱うのではなく、オンラインで学んだ職業スキルとして扱う開発者世代が現れている。採用担当者は選抜基準に頭を悩ませ、経験年数などの単純な要素に頼ってしまっている。

 Turingが同社のプラットフォームを立ち上げた当時、企業はまだ「経験年数XX年」の応募者を採用することに固執していた。経験年数で応募者の能力レベルを判断していたからだ。だが、企業と開発者のマッチングサービスの提供を通じてTuringが収集したデータは、プロジェクトの経験年数と開発者の能力が、必ずしも相関しないことを示している。

 すなわち、3年以上の経験を積んだ開発者は、これまでの仕事の質が問われることになる。そこで、例えばTuringのマッチングサービスでは、応募する開発者を対象に技術試験を実施している。応募者が試験結果を求人企業に提示し、「自分は経験年数が必ずしも長くなくても、企業ニーズに合った特徴や実績を持っている」ことを簡単にアピールできるようにするためだ。

 ただし、ある程度の経験が必要になることは言うまでもない。需要の高い応募者の多くは、最低でも3年の経験を持っている。3年以上の経験があれば、経験年数自体はそれほど重要ではない。だが、数年の業界経験がなければ、開発者が価値ある経験と、需要の高いスキルを身に付けることは難しい。

 需要の高い応募者は一般に、新製品や新機能の構築と、本番システムのサポートという2つの領域で実際のプロジェクト経験を積んでいる。

 多くのエンジニアは新規開発プロジェクトに参加したいと考えるが、生産システムのサポートにはあまり興味がない。だが、企業が求めているのは、新機能の開発経験と、大規模な高スループットの本番システムのサポート経験、この両方を持つ応募者だ。全てのプロジェクトで新しいアプリケーションや機能を構築するわけではなく、多くの企業が既存コードベースのサポートを必要としている。この2つの専門性を磨けば、他の応募者に差をつけることができ、需要の高い人材になれる。

需要と供給のギャップを埋めるにはどうすればよいのか

 開発者には大きな需要がある。だが、開発者が身に付けたいたいスキルと、企業が求めるスキルは必ずしも同じではない。開発者は一般に、新しい技術を学ぶことを好む。だが、企業、特に歴史ある企業は「Java」や「.NET」など、より伝統的な言語を使いこなせる人材を雇う必要がある。これらの言語のうち1つ以上について自分の専門性を示すことができれば、既存コードベースを扱える開発者を求める企業で職を得られるだろう。

 もっとも、近年は新技術が数多く台頭してきた。今後1年半の間に、技術スタックを移行する企業や、新しい言語やフレームワークによるスキルアップを目指すエンジニアの間で、新技術への関心が高まりそうだ。

 企業にとって、必要な人材を確保するのは必ずしも簡単ではない。ニッチな言語や技術を使用する企業は特にそうだ。

 このギャップを埋めるには、企業はリモート開発者の採用を含めて、より広い地域からの採用を検討する必要がある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を機に広く普及したテレワークは、企業と開発者の双方にとって、より幅広い採用機会へのアクセスを可能にするものであり、開発者の需給ギャップを埋めるのに役立つ。

今後、スキルの需要はどう変わっていくのか

 予測可能な将来において、ハイパースケーラーと一部のSaaS(Software as a Service)企業が、開発者とそのスキルセットへの需要を引き続きけん引していくと、Turingはみている。その結果、記事中のグラフで図示した求められている主要なスキルは、当分の間、ほぼ変わらない見通しだ。

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