市民開発ブームも相まって、「誰でも」「簡単に」「スピーディーに」開発できるローコード/ノーコード開発が注目されている。だが、安易に飛びつくとやけどをするのはご存じの通り。ローコード/ノーコードによる市民開発とかつてのEUCの違いはどこにあるのだろうか。
2020年春、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るうさなかに、緊急事態宣言からわずか1カ月半で「健康相談チャットボット」をリリースした自治体があった。兵庫県の神戸市だ。
元エンジニアの職員が率いる特命チームはローコード/ノーコードツールを駆使し、その後も、特別定額給付金の受け付け状況を確認できる「特別定額給付金の申請状況等確認サービス」や、COVID-19発生状況のデータを解析、公開するサイト「神戸市:市内での患者の発生状況について」などをリリースした。いずれのサービスも開発期間は約1週間、刻一刻と変わる状況にスピーディーに対応し、市民の不安や不便に寄り添った。
コロナ禍の神戸市が情報公開を中心とした新しいサービスを次々と内製、リリースした。いずれのサービスも開発期間は約1週間。担当したのは、情報化戦略部の職員である元エンジニアだが、あえてコードを書かずに開発したという。その理由は何なのか――ローコード開発の利点と課題、生かし方などについて聞いた。
あれから2年半。特命チームはどうなっているのだろうか。
3〜4年での人事異動が多い行政では、元エンジニアの担当者がいつまでも同じポジションにいられるとは限らない。ITを内製するムードやナレッジは次世代に引き継がれているのだろうか。そして、緊急時にスピード開発したアプリたちは、正しく運用されているのだろうか。
くしくも2年半前、当時の担当者はこう語っている。
コードを書かずに簡単に作ったり、直したりできるものの、その後、どう管理していけばよいかは、まだ適切な答えが見つかっていません。具体的には、開発標準やドキュメンテーション、変更管理などです。また本番環境を止めずに新機能の追加などを実施するのは、ハードルが高いようです。
当時の課題は解決したのだろうか。
2023年2月9日に開催する「@IT ローコード/ノーコード開発セミナー」では、神戸市デジタル戦略部の小阪真吾氏に、コロナ禍でのスピード開発から2年半が経過した神戸市の今と、どのような管理方針でどのような運用を行ってきたのか、その実態をご講演いただく。
阪神淡路大震災を契機に長らく業務改革を進めてきた神戸市では、2018年のkintone導入以降、ローコードツールを活用した職員によるIT内製化にも力を入れている。コロナ禍を経て、非IT人材の行政職員がローコードツールによって「自分たちが必要なものを自分たちの手で短期間で構築」できるようになり、短期間で多くの好事例が生まれている一方で、中長期的な視点で「ナレッジの継承」や「ガバナンス」といった事柄と向き合う必要性も分かってきた。こうした経験から、神戸市がローコードツールとどう向き合い、何を目指していこうと考えているのか、事例も交えながら紹介する。
「誰でも」「簡単に」「スピーディーに」開発できるという側面に注目されがちなローコード/ノーコード開発ツールだが、運用やガバナンス面の統制がとれていないと、かつてのEUC(エンドユーザーコンピューティング)ブームの二の舞になりかねない。作成したアプリの管理、運用、セキュリティ面など、組織の情シス部門が主体的にリードする必要があるだろう。
本イベントは、ローコード/ノーコード開発のメリット/デメリット、運用の勘所、市民開発における情シス部門の関わり方などを事例とともに紹介する。オンラインでの配信セミナーなので、オフィスやご自宅で安全に参加いただきたい。
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