Microsoft、量子コンピューティングサービス「Azure Quantum」の新たな進化を発表量子スーパーコンピュータに向けたロードマップを設定

Microsoftは、クラウド量子コンピューティングサービス「Azure Quantum」の新たな進化として、「Azure Quantum Elements」「Azure QuantumのCopilot」「量子スーパーコンピュータに向けたロードマップ」を発表した。

» 2023年06月27日 08時00分 公開
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 Microsoftは2023年6月21日(米国時間)、クラウド量子コンピューティングサービス「Azure Quantum」の新たな進化を発表した。

 Azure Quantumは、「世界最高の量子ハードウェアの実験を始めることができ、量子スーパーコンピューティングが現実のものとなった際に、より複雑な問題を解決するための準備ができる」サービスだ。

 Microsoftは、量子コンピューティングによって科学的発見を加速させ、科学者や企業がこれまで解決できなかった問題を解決し、成長と人類の進化を実現できるようにするというビジョンを掲げており、このビジョンに向けた「Azure Quantum Elements」「Azure QuantumのCopilot」「量子スーパーコンピュータに向けたMicrosoftのロードマップ」というAzure Quantumの3つの進化を紹介した。

Azure Quantum Elements

 Azure Quantum Elementsは、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、AI(人工知能)、量子コンピューティングにおける最新の飛躍的進歩を融合し、科学的発見を加速する。Azure Quantum Elementsにより、科学者や製品開発者は次のようなことが可能になる。

  • 研究開発のパイプラインを加速させ、革新的な製品をより迅速に市場に投入することで、市場にインパクトを与えるまでの時間とコストを削減する
  • 新素材の探索領域を飛躍的に拡大させ、数千だった候補数を数千万まで増やす
  • 特定分野の化学シミュレーションを50万倍高速化する。これは、1年を1分に圧縮させるような速度だという
  • AIとHPCを活用して現在の量子化学の問題に取り組みつつ、既存の量子ハードウェアで実験を行い、将来的にMicrosoftの量子スーパーコンピュータに優先的にアクセスすることで、スケールアップした量子コンピューティングへの準備を整える

 また、こうした包括的なシステムを活用することで、研究者は化学や材料科学の分野において、これまでにない規模、速度、精度で進歩を遂げることができるという。

 Azure Quantum Elementsは、数週間以内にプライベートプレビュー版が利用可能になる。

Azure QuantumのCopilot

 Azure Quantumの「Copilot」は、科学者が自然言語を用いて複雑な化学や材料科学の問題を推論できるよう支援する。

 科学者はAzure QuantumのCopilotにより、現在使用しているツールと統合されたクラウドスーパーコンピューティング、高度なAI、量子コンピューティングを組み合わせ、複雑なタスクをこなせる。計算やシミュレーションの生成、データのクエリと可視化を行うことができ、複雑な概念に対する答えを導き出せるよう支援することも可能だ。

 他のMicrosoft製品のCopilotがソフトウェア開発、生産性、検索の分野に変革をもたらしているように、Microsoftは、Azure QuantumのCopilotで科学的発見を変革し、加速させたいと考えているという。そうすることが、より安全で持続可能な製品の開発や、創薬のスピードアップ、地球上の差し迫った課題の解決につながるとしている。

 またCopilotは、量子コンピュータに関する学習や、現在の量子コンピュータ用のコード作成に役立つ。Copilotにはコードエディタ、量子シミュレーター、シームレスなコードコンパイル機能が用意されており、完全に統合されたブラウザベースの体験を無料で試せる。

量子スーパーコンピュータに向けたMicrosoftのロードマップ

 企業が将来、量子スーパーコンピュータで新しい化学物質や材料を正確に設計できるようになれば、関連分野が飛躍的に進歩すると予想される。

 量子コンピューティング業界が進化する中で、量子ハードウェアは、以下に挙げるQuantum Computing Implementation Levels(量子コンピューティング実装レベル)の3段階のいずれかに分類されることになる。

  • レベル1:基礎

 ノイズの多い物理量子ビット上で実行される量子システム。これには、現在のNISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum:ノイズが混じった中規模の量子コンピュータ)も含まれる。

  • レベル2:レジリエント

 信頼性の高い論理量子ビット上で稼働する量子システム。

  • レベル3:大規模

 最も強力なスーパーコンピュータでも対応できないような影響力のある問題を解決できる量子スーパーコンピュータ

 レベル3に到達するには、基礎物理学におけるブレークスルーが必要になる。Microsoftはこのブレークスルーを達成し、米国物理学会の学術誌で2023年6月21日に査読済みデータを発表している。

 これにより、Microsoftは量子スーパーコンピュータに向けた最初のマイルストーンを達成した。すなわち、マヨラナ準粒子を作成し、制御できるようになった。この成果により、ハードウェアで保護された新しい量子ビットの開発が大きく前進するという。この量子ビットを使えば、信頼性の高い論理量子ビットを開発してレベル2に到達し、レベル3へと進むことができる。

量子スーパーコンピュータに向けたMicrosoftのロードマップ(提供:Microsoft)

 量子スーパーコンピュータは、古典的なコンピュータでは対処できない問題を解決し、世界が直面する最も複雑な問題を解決する規模にまで拡張できるようになる。その実現のためには、性能と信頼性の両方が要求される。

 顧客は、マシンからネットワークのオーバーヘッドに至るまで、量子システムが実際の問題を解決する能力を把握する必要が出てくる。

 量子コンピューティング業界では、量子スーパーコンピュータの性能を把握できる新しい測定法が求められている。そこでMicrosoftは、rQOPS(reliable Quantum Operations Per Second:信頼性の高い1秒当たりの量子演算)という指標を用意した。これは、1秒間に実行できる、信頼性の高い量子操作の回数を測定するものだ。

 量子コンピューティング業界では、まだNISQ時代からの移行が進んでいないのが現状だ。現在の量子コンピュータは全てレベル1であり、rQOPSはゼロだ。Microsoftは「最初の量子スーパーコンピュータは、少なくとも100万rQOPSが必要で、影響力のある化学や材料科学の問題を解決するには、10億rQOPS以上にまで規模を拡大する必要がありそうだ」との見通しを示している。

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