IBMはエンドツーエンドのQuantum-Safe(耐量子)テクノロジーを発表した。包括的なツールと機能、ポスト量子時代の脅威に備えて機密データを耐量子テクノロジーへ移行するための戦略の指針となるロードマップも公開した。
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IBMは2023年5月10日(米国時間)、同社の年次カンファレンスで、政府や企業の機密データを保護するためのエンドツーエンドQuantum-Safe(耐量子)テクノロジーを発表した。Quantum-Safeテクノロジーに関する包括的なツールと機能を提示しており、政府や大企業が耐量子テクノロジー時代に向けて移行を準備する際に役立つという。
急速に進歩する量子技術は、ビジネスや科学の進化を加速させる反面、現在広く利用されているセキュリティプロトコルも量子コンピュータで解読される可能性が高まっている。
IBMはこれまで培ってきた暗号化、量子コンピューティング、重要インフラストラクチャなどの広範な技術を踏まえ、IBM Quantum Safeテクノロジーを発表した。Quantum Safeテクノロジーの主要機能は次の通り。
ソースコードやオブジェクトコードをスキャンし、暗号資産、依存関係、脆弱(ぜいじゃく)性を特定し、CBOM(暗号化部品表)を作成する機能である。潜在的なリスクは1カ所に集約され、表示される。
暗号化インベントリの動的ビューまたは運用ビューを作成して修復をガイドし、暗号化の態勢とコンプライアンスを分析してリスクに優先順位を付ける機能である。
IBM Quantum Safe Remediatorで耐量子修復パターンをデプロイしテストできる。これにより、耐量子ソリューションの展開に備えて、システムと資産への潜在的な影響を理解可能になる。
IBMがあわせて発表したQuantum Safe Roadmapは、量子セキュリティへの移行に対する理解を支援するロードマップだ。組織が耐量子テクノロジーへの移行や脅威からの保護に向けた戦略を立てる際の指針となる。
ロードマップは、以下の3つの主要なアクションで構成されている。
IBM Quantum SafeテクノロジーのリーダーであるIBMフェローのレイ・ハリシャンカー氏は次のように語る。
「量子コンピューティングのリーダーとして、IBMは、クライアントの重要なニーズを包括的に対応する重要性を認識している。IBMの新しい一連の耐量子テクノロジーとロードマップ上に示されるマイルストーンは、量子コンピューティングと連動したポスト量子セキュリティの持続的な進化を目指して設計されており、産業界がこの転換を効果的かつ容易に進められるよう、ソリューションを提供する」(ハリシャンカー氏)
2022年、米国政府は連邦機関に耐量子への移行を開始するよう要請し、ガイドラインを発表した。国立標準技術研究所(NIST)は、標準化のために4つの抗量子アルゴリズムを選択した。そのうちの3つは、IBMと学術、産業の共同研究者により開発された。その後、アメリカ国家安全保障局(NSA)は、2025年までに国家安全保障システムが耐量子アルゴリズムに移行する新しい要件を発表。ホワイトハウスは量子コンピュータに対して脆弱性のあるシステムの暗号リストを連邦機関に提出するよう要請している。
Moor Insights & StrategyのCEO兼創設者であるパトリック・ムーアヘッド氏は次のように述べている。
「量子コンピューティングの時代が急速に現実に近づく中で、旧弊なシステムとデータを保護するためにも耐量子技術の展開は不可欠だ。量子時代にデータを安全に保護するために必要なのは、量子技術と暗号技術の高度な専門知識とともに、インフラの製品開発の数十年にわたる経験である。これがIBMの強みであり、業界をリードするQuantum Safe Roadmapと移行を簡素化する新しいテクノロジーで、耐量子への移行が世界レベルで進展することを期待している」(ムーアヘッド氏)
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