AIに仕事が奪われることをネガティブに捉えるのでなく、AIとどのように仕事に取り組んでいくのか、AIにどこまでやってもらえるかを前向きに考えていく本連載。AI技術とエンジニアがどのように協働すれば効率的かつ革新的な開発ができるかをテーマに、2回に分けて考察する。後編となる第3回は、AIを活用したプロジェクト進行の効率化、AI技術の将来性やその影響について。
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エンジニアはどのようにして自らのスキルや知識をアップデートし、生成AI(人工知能)技術と協働を進めるべきなのか、今後ますます重要な課題となるでしょう。前回に引き続き、生成AI技術がもたらすエンジニアの働き方の変化について、生成AI技術を利用したプロジェクト進行の効率化、AI技術の将来性やその影響をテーマに解説していきます。
エンジニアリングプロジェクトにおいては、経験豊富なエンジニアやマネジャーが、最適なプロジェクトの計画や実行し、目標を達成することが重要です。しかし、どれだけ優秀な人材が集まっても、プロジェクト進行の効率化が図られなければ、成果を十分に発揮できないことがあります。
プロジェクトマネジメントは、プロジェクトの目標達成に向けてスケジュールやリソースを適切に調整する役割があります。しかし、この業務を手動で行うことは、多くの時間と労力を要し、エンジニアのリソースを圧迫してしまいます。生成AI技術を活用することで、プロジェクトスケジュールの最適化やリソースの効率的な割り当てが自動化され、プロジェクトマネジメントが効率化されます。これにより、エンジニアはより開発業務に集中でき、スピード感のあるプロジェクト進行が可能となります。
また、生成AIはリアルタイムでプロジェクトのステータスを監視し、問題やリスクを早期に検出できます。これにより、エンジニアやマネジャーは迅速に対応策を立てることができ、プロジェクトの予測外の遅延や予算オーバーを防ぐことができます。
開発プロジェクトにおいては、エンジニア以外のステークホルダーとの円滑なコミュニケーションが重要です。特に非エンジニアとの協業においては、技術的な専門用語や複雑なアーキテクチャを分かりやすく伝えることが求められます。ここで生成AI技術を活用し、フロー図や設計図などビジュアルな資料を容易に自動生成できます。これにより、非エンジニアもプロジェクトの進捗(しんちょく)や課題を理解しやすくなり、より効果的なコミュニケーションが実現します。
専門家が提供する要求定義は、システム開発における基本となる情報です。しかし、エンジニアがこの情報をもとに要件定義書を作成することは、多くの時間や労力を必要とします。生成AI技術を用いることで、専門家の要求定義を自動的にシステム要件へ変換し、開発チームがすぐに着手可能な状態にできます。
このような効率化により、エンジニアはより深いビジネス知識との結び付けに注力でき、最適なソリューションを創出できます。また、変更があった場合でも、生成AIが自動的に要求定義の変更を反映して要件定義をアップデートでき、プロジェクト進行のスムーズさが向上します。
生成AI技術を活用したプロジェクト進行の効率化は、開発チーム全体のパフォーマンスを向上させるだけでなく、プロジェクトに関わるステークホルダー全体のコミュニケーションを円滑にすることが期待されます。これにより、プロジェクトはより効果的な運営が可能となり、ビジネス目標の達成がより確実となるでしょう。今後、生成AI技術がますます発展し、プロジェクト進行の効率化がさらに進むことで、従来とは異なる働き方や組織構造が生まれるかもしれません。
AI技術の発展は、これからもさまざまな業界やエンジニアの働き方に大きな影響を与えることが予想されます。本章では、今後のAI技術の発展とその見通し、エンジニアとAIの協働における課題や役割変化、そして新たな価値創出について解説していきます。
AI技術は日々進化し続けており、多くの業務や産業が自動化され、効率化が図られることが期待されます。特に生成AI技術は、自然言語、画像、音声処理などさまざまな分野で進化が見られ、その活用範囲も広がっています。このような技術の進歩により、ノーコード開発やエンジニアの業務自動化がさらに進化し、企業は市場に迅速に適応し、競争力を高めることができるでしょう。
一方で、エンジニアとAIの協働においては、倫理的な問題やプライバシー保護を考慮に入れたAI技術の開発と運用が求められます。これまでも新しい技術が登場するたびに、その使用方法によるリスクが指摘されてきましたが、AIの力は過去の技術と比較して非常に強大であるため、より注意深く取り組むことが必要です。ちょっとした判断の誤りが社会全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
普及が進むほど、レスポンシブルAIに対する要求が高まるでしょう。エンジニアはAI技術の利用に当たって法令や倫理規範を尊重し、技術を適切にコントロールできるよう、意識を持ち続けることが重要となります。そのためには、技術者だけでなく、企業や国家、社会全体で責任あるAI利用に向けた対話や取り組みが不可欠です。
AI技術が進化する中で、エンジニアの役割も変化していくことが予想されます。エンジニアは、ビジネスに対してより深い理解が求められるようになり、適切なAI技術を組み込み、システム開発全体を指揮、監督する能力が重要となります。技術スキルだけでなく、コミュニケーション能力や戦略的思考力が求められるようになるでしょう。また、エンジニア自身がAIと協働するスキルや知識を身に付けることも重要となります。
エンジニアチームの構成にも、AI技術の進化が大きな変化をもたらしています。従来のエンジニアチームでは、プログラミング、デバッグ、システム設計など、特定の職務を専門的に担うメンバーが配置されていました。しかし、生成AI技術の進化によって、これらの一部の業務がAIによって自動化されることで、人間であるエンジニアとAIがそれぞれ得意分野を生かして役割分担が行われる新しいチーム構成が求められるようになっています。
具体的には、プログラミング面では、エンジニアが高度なアルゴリズム開発やアーキテクチャ設計を行い、AIが簡易なコード生成や定型的なコーディング作業を担当することが考えられます。デバッグにおいては、AIがバグの検出や原因特定を効率的に行い、エンジニアはその解決策や最適化の提案を行う役割を担います。システム設計では、AIがシステム構成の自動生成や最適化を行い、エンジニアはその結果を検証し、ビジネス要件に適した設計を確定する役割が求められます。
また、プロジェクトマネジメントの面でも、AIがスケジュール最適化やリソース管理を行い、エンジニアはより戦略的なレベルでプロジェクト全体の進捗管理やディシジョンメイキングを行う立場となります。非エンジニアとの協業推進も重要となるため、AIがフロー図やビジュアル資料を自動生成し、エンジニアはコミュニケーションや専門知識の橋渡しをするという役割を担うでしょう。
エンジニアリングの自動化が進展することで、事業構想からサービス導入までのスピードアップが実現し、消費者ニーズを迅速に取り入れられる環境が整ってきます。企画作成が終わったタイミングで、すぐにプロトタイプの開発ができるだけでなく、マーケットテストも素早く実施できる時代が到来しているといえます。これにより、開発チームはより効率的なPDCAサイクルを回し、革新的なサービスを創出することが可能になります。また、エンジニア以外の職種との協働が増えることで、多様な視点を取り入れたアプリケーションやサービスが生まれることも期待されます。
結論として、生成AI技術の進化によってエンジニアの働き方は劇的に変化し、多くの業務の効率化やスピードアップが実現されるでしょう。しかし、エンジニアは倫理やプライバシーを考慮した技術開発や運用を行い、事業に適した戦略やプロセスを確立することにも重点を置かなければなりません。今後のエンジニアは、AI技術と協働することで、より革新的な価値を創出し、市場で競争力を持続させることが求められます。
株式会社電通デジタル 執行役員 データ&AI部門 部門長
東京大学松尾豊教授のもと人工知能(AI)を専攻
AIとビッグデータを活用し、広告の自動生成、視聴率の予測など、多数のマーケティングソリューションを開発。「ワールドビジネスサテライト」「NHK ワールド」など多数メディアに出演。主な著書『売れるロジックの作り方』(宣伝会議)『AI×ビッグデータマーケティング』(マイナビ出版)など。
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