北國銀行は新たなバンキングシステムの開発を進めている。新システムはMicrosoft AzureとGoogle Cloudの2つのクラウドで動かす。なぜ同行は新システムを開発するのか。なぜ2つのクラウドでシステムを構築するのか。
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日本で初めてクラウド上でのフルバンキングを実現したことで知られる北國銀行は、次世代システムの構築を進めている。現在はMicrosoft Azure上でシステムを稼働しているが、次期システムはGoogle Cloudとのデュアルクラウド構成になる。2つのクラウド上のデータベース間でのトランザクションレベルの同期により、可用性を高める。
北國フィナンシャルホールディングス社長の杖村修司氏は2023年11月16日、Google Cloudのイベント「Google Cloud Next Tokyo ’23」で、新世代システム開発の背景とGoogle Cloudの採用について説明した。
北國銀行は、2021年に勘定系システムをMicrosoft Azure上へ移行し、クラウド上でフルバンキングを実現した日本初の事例となった。このシステムは現在に至るまで、大きな障害もなく良好に稼働しているという。
一方で杖村氏は、システムをモダナイズする必要性を感じてきた。
現在北國銀行が運用しているのは、BIPROGY(旧日本ユニシス)のバンキング基盤パッケージ「BankVision」をカスタマイズしたオンプレミスのシステムを、クラウドに移行したもの。「COBOL言語/Windowsベース/モノリシック」なシステムとなっている。
だが、モノリシックなシステムでウォーターフォール一辺倒の開発スタイルでは、機動的な機能追加や改変が難しい。例えばFinTech企業などへの更新系API公開を積極的にやっていきたいが、パフォーマンスや生産性の点で課題があると杖村氏は話す。
DevOpsについても長い間取り組んできたが、開発からテスト、運用までの自動化が進んでおらず、社員は運用に時間と労力を取られて開発に取り組む余裕がない。
「これを新しいアーキテクチャによって打破していかないと、もう人材がついてこない。私が社長でいるうちは何とかなるかもしれないが、10年、20年先を考えると、このシステムではもたない」(杖村氏)
新システムはフロントエンドと同等の生産性実現を目指し、「Java/コンテナ/マイクロサービスアーキテクチャ」で内製開発する。「BankVision」のようなパッケージは使わず、「うちだけのために、うちで開発する」(杖村氏)という。開発では、外部企業の協力も得るが、プロダクトマネジメントや設計はあくまでも北國フィナンシャルグループが担う。
次期勘定系システムは2026年度中に稼働する予定となっている。
新勘定系システムはAzureとGoogle Cloudのデュアルクラウド構成になる。どちらかのクラウドがバックアップ拠点になるというのではない。双方のクラウド上のデータベースをトランザクションレベルで同期する。
杖村氏は、「極論すれば、今週はAzure、来週はGoogle Cloudで動かすこともできるようになる」と話した。
デュアルクラウド構成にする理由は、システムの可用性がクラウド事業者に左右されないようにするためだ。
現行システムではAzureの東西リージョンでデータベースを同期している。だが、クラウド障害を分析すると、片方のリージョンが生き残っているケースはほぼなかったという。つまり、Azureだけで稼働している限り、複数リージョンを活用してもクラウド障害への対策にはならない。
「銀行の勘定系は『超』ミッションクリティカルなシステムだが、クラウドで障害が起こると、われわれは(クラウド事業者側での復旧を)ひたすら待っているしかない。1つのクラウドへの依存は、ITガバナンス上許されることではない」(杖村氏)
新システムのデータベースには「Microsoft SQL Server」を採用した。オープンソースソフトウェアを含めて複数の選択肢を検討したが、実績などから最適と判断した。
もう1つのクラウドとしてGoogle Cloudを選択した理由として、杖村氏は「メジャークラウドの中で年間の障害時間が最も短いこと」「『Google Cross-Cloud Interconnect』の存在」「コンテナの世界におけるリーダーシップ」「Google Cloudの企業文化」を挙げた。
Cross-Cloud InterconnectはGoogle Cloudが提供するマネージドネットワークサービスで、他のメジャークラウドと直接接続できる。この低レイテンシーのサービスがあるからこそ、クラウドをまたいだデータベース同期が実現できるという。
コンテナにおけるリーダーシップについては、「銀行の勘定系には、大規模で効率的なコンテナ運用が必要。Google Cloudの堅牢な(Kubernetes)基盤を活用することができるのは非常に魅力的」と話している。
企業文化に関しては、北國銀行の目指すものとGoogle Cloudの「議論ばかりでなく、どんどん試していこう」というカルチャーの親和性が高いという。
「実証実験をやり、でき上がったものを積み上げていく、そういうGoogle Cloudのカルチャーであれば、 かなり早くいろいろなことができるという感触を持っている」(杖村氏)
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