イオンリテールが、顧客データ分析プラットフォームを2024年度中に正式リリースする。システムは事業をよく知る非エンジニアが構築している。ビジネス現場におけるDXを効果的に支援したいという。
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イオンリテールは顧客データ分析プラットフォームを構築中だ。2024年度中には、1000人以上の従業員に向けてカットオーバーする。ゆくゆくは、数千人規模の従業員のデータニーズに応えるものとなる。
同社デジタル戦略部 データソリューションチーム マネージャーの今井賢一氏は、新プラットフォームの意味を次のように説明する。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)は従来、本社で進めることが非常に多かった。だが、いよいよ店舗従業員(を含むさまざまな立場の社員)に向けてもさまざまなデータを提供できるようになる」(今井氏)
プロジェクトを進めるデジタル戦略部は、IT担当部署ではない。営業・デジタル担当常務の直下に置かれた事業側のチームだ。新プラットフォームも、エンジニアではない事業部側のスタッフがパブリッククラウドを直接使い、自分たちで構築・運用している。
今井氏は、2024年9月末にグーグル・クラウド・ジャパンが開催した説明会で、データ可視化/分析基盤への取り組みを次のように説明した。
顧客データ分析基盤の最終目的は、LTV(顧客生涯価値)の最大化にある。そのために、新プラットフォームでは、顧客起点のさまざまなデータをまとめ上げている。ID-POS(顧客IDにひも付いたPOSデータ)をはじめ、カード会員やアプリ会員の属性/実績データ、基幹システム、商品関連情報、社外サービスが提供する商圏分析やトレンドに関する情報などを単一のデータプラットフォームに統合/集約し、データマートを構築。その上で、事業に関わるさまざまな従業員に対し、データの可視化/分析環境を提供する。
統合データ管理プラットフォームは既にほぼ出来上がっていて、データの更新も行われている。今井氏たちが現在進めているのは、主にBI(ビジネスインテリジェンス)ダッシュボードの提供だ。BIツールの「Google Looker Studio」、Python Dashを使って開発したWebインタフェースなどを、目的に応じて組み合わせているという。
ユーザーがダッシュボードを開いた時の初期画面は同一ではない。所属部署や役職に応じて最適化した形で提供する。このため各ユーザーは、自分の仕事上最も必要なデータから把握できる。もちろん、裏では権限管理が働いており、各人は職務上必要なデータしか見ることができない。プロジェクトでは将来数千人が使うことを想定し、これをスケーラブルな形で実装しているという。
データ可視化/分析環境は、2024年9月末時点では、部長職の約50人に対して試験的に提供を開始している。既に、ビジネスに貢献する事例が出てきているという。今井氏は2つの例を紹介した。
上の図の左半分は、特定店舗の販売促進施策に関する事例。この店舗では競合店が南側に出店したため、南エリアで重点的に販促活動を実施した。だが、経過を見ると、失った顧客をほとんど回復できていないことが分かった。同時に、競合店がこの店舗の北側でも販促活動を展開しようとしていることが判明した。そこで、同店舗は販促活動の重点を北側に切り替えた。
右は、ある店舗で「窯焼きピザ」の販売強化を行った事例。強化策は、この店舗における窯焼きピザの大きな売上増にはつながらなかった。しかし、店舗がターゲットとしている世代の顧客には響いていたということが分かり、これを縦展開、水平展開した。
どちらの場合も、新たな施策の進捗(ちょく)確認がダッシュボード上で行え、PDCAを回していくことができているという。
「従業員数十名でも複数の好事例が出てきている。これが数千名規模に広がっていくと、多くのいい事例が生まれるのではないかと思っている」(今井氏)
データ分析基盤を構築しているデジタル戦略部は、前述の通り事業側の組織だ。「イオンリテールのDX推進を加速させるのがわれわれの大きな役割」と今井氏は話す。具体的には、「EC本部」「営業企画本部」「オペレーション改革本部」をデジタル技術で支援することになっている。
チームのメンバーは13人。全員が非エンジニアだ。社外からエンジニアを雇うこともしていない。社内のプロパー人材を育成しているという。
「社外からのデジタル人材に社内の知識を持ってもらうよりも、社内のビジネスドメインをそもそも理解している人材にデジタルを教える方が早いというのが私の理解」(今井氏)
デジタル事業部は2022年5月の発足であるため2年強の歴史しかないが、何らかのクラウドの資格を取得しているスタッフは8人に達している。
だが、いざプロジェクトを始めてみると、得意とはいえないサーバの管理に、多くの時間を取られてしまうことが分かった。社内ユーザーの要望に対してスピーディーに応えていくため、事業部側のスタッフによる開発の内製化の意味がなくなってしまう。
そこで今井氏たちは、Google Cloudの「Cloud Run」を使うことにした。
Cloud Runはサーバレスのコンテナサービス。コンテナ上で動くアプリケーションの運用で、サーバのキャパシティプランニングやミドルウェアのインストール、パッチ当てなどを行う必要がない。アプリケーションを書いてデプロイすればいいという意味では「PaaS(Platform as a Service)」とも表現できる。
利用がゼロの間は利用料金がかからないためコスト効率が良く、ユーザーが数千人に達してアクセスが集中しても、瞬時のスケーリングで対応できる。
こうした機能で、チームはやりたいことに集中できるようになったという。
データ戦略部では、現在進めているデータ可視化/分析基盤に続き、第2ステップとして機械学習で予測、分析を行う環境を整備する。さらに第3ステップとして、 生成AIを用い、顧客の声などを分析し、顧客理解を深めたいという。
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