Windows 10のサポート終了日も迫っており、そろそろWindows 11への移行を検討している人も多いのではないだろうか。その際、新しいPCを購入してWindows 11にする人も多いと思う。新しいPC規格「Copilot+ PC」にすべきなのか、どのようなPCを選択すればいいのか、本稿ではCopilot+ PCとはどういったPCなのかについて解説し、購入する際に注意すべき点を紹介する。
Windows 10のサポート終了日(2025年10月14日)も迫っており、そろそろWindows 11への移行を検討している人も多いのではないだろうか。その際、Windows 11にアップグレードするのではなく、新しいPCに乗り換えるつもりの人も多いと思う。
新しいPCの購入を検討する中で、最近、広告などでよく見る「Copilot+ PC」にすべきかどうかを悩んでいる人や組織も多いのではないだろうか。そこで、本稿ではCopilot+ PCとはどういったPCなのかについて解説し、購入する際に注意すべき点を紹介する。
Copilot+ PCとは、Microsoftの「Copilot+ PCハードウェア要件」によると、40TOPS(Tera Operations Per Second)を実行できるNPU(Neural Processing Unit:ニューラル処理装置)を搭載したAI(人工知能)機能を搭載したPCとされている(NPUについては、頭脳放談「第288回 人工知能時代には必須か? 最近、プロセッサに搭載されている『NPU』って何」参照のこと)。AI処理を実行するため、最低メモリ容量や最低ストレージ容量も、下表の通り、これまでのWindows 11のシステム要件よりも高くなっている。
項目 | Windows 10 | Windows 11 | Copilot+ PC |
---|---|---|---|
プロセッサ | 1GHz以上のプロセッサ/SoC | 1GHz以上で2コア以上の64bit互換プロセッサ/SoC | 1GHz以上で2コア以上の64bit互換プロセッサ/SoC |
NPU | − | − | 40TOPS以上 |
メモリ | 1GB(32bit版)/2GB(64bit版)以上 | 4GB以上 | 16GB以上 |
ストレージ | 16GB(32bit版)/32GB(64bit版)以上 | 64GB以上 | 256GB以上 |
ファームウェア | − | UEFI、セキュアブート対応 | UEFI、セキュアブート対応 |
TPM | − | TPMバージョン2.0 | TPMバージョン2.0 |
グラフィックス | DirectX 9 以上(WDDM 1.0ドライバ)対応 | DirectX 12以上(WDDM 2.0ドライバ)対応 | DirectX 12以上(WDDM 2.0ドライバ)対応 |
ディスプレイ | 800×600ドット | 対角サイズ9インチ以上で8bitカラーの高解像度(720p) | 対角サイズ9インチ以上で8bitカラーの高解像度(720p) |
Windows 10/11とCopilot+ PCの最低システム要件比較 |
NPUが必須となることで、高速で効率的なAI処理が可能となり、PCの用途を広げることが可能になるとされている。またデータ処理をデバイス内部で完結できるため、クラウドにデータを送信しない生成AIの利用が可能になる。AI処理時の消費電力が小さい点もメリットとなる。
Copilot+ PCでどのようなAI処理が可能になるかについての詳細は、Windows 11 Trends「『Copilot+ PC』で世界は変わるのか!? 期待を込めた自腹実機レポート」を参照してほしい。定期的に画面のスナップショットを保存し、それらをAIが分析することで、以前に表示した内容を探し出せるようにする「リコール」機能や、AIを使用したビデオ会議のノイズ除去などをサポートする「Windowsスタジオエフェクト」などがサポートされる。
AIを使用して新しい画像を作成する「Image Creator」は、Copilot+ PC向けの機能とされていたが、実際には通常のWindows 11 2024 Update(バージョン24H2)でも利用可能となっている。Copilot+ PCならではの機能が、若干あいまいになっている点には注意が必要かもしれない。
Copilot+ PCは、前述の通り、NPUの搭載が必須である。また、AI処理を実行するため、搭載メモリ容量やストレージ容量がWindows 11の最低システム要件に比べて多くなっている。そのため、必然的にCopilot+ PCの価格は、Copilot+ PC非対応の同等クラスのPCに比べて高い。そのため購入に際し、特性を理解し、後悔しないようにしたい。
原稿執筆時点の2025年2月末では、Copilot+ PCの目玉機能ともいえる「リコール」は、製品版では提供されておらず、Windows Insider ProgramのDevチャネルでβ版の扱いとなっている。今、Copilot+ PCを購入しても、Copilot+ PCらしい機能はあまりないことは覚えておいた方がよい。
一方で、Copilot+ PC搭載のNPUを使って、中国ベンチャーが開発した「DeepSeek-R1」を実行できるようになるなど、NPUの利用は広がりつつある(Windows Blogs「Running Distilled DeepSeek R1 models locally on Copilot+ PCs, powered by Windows Copilot Runtime」)。
今後数年を見据えて、生成AIの活用を視野に入れているのであれば、NPUを搭載するCopilot+ PCは大きなメリットをもたらすものと思われる。
Windows 11向けのPCでは、x64プロセッサ(Intel/AMD製プロセッサ)を搭載するものと、Armプロセッサ(主にQualcomm製プロセッサ)を搭載するものがある。それぞれメリット/デメリットがあるので、どちらのプラットフォームが良いのか、用途などを考慮して選ぶとよい。
ここでは、それぞれのメリットとデメリットについて簡単にまとめてみた。比較的高い買い物になるので、特性を理解して、後悔しない選択をしてほしい。
Armプロセッサを搭載したWindows PCは、Windows 10の頃から販売されている。しかし当初は、アプリケーションの互換性などが若干低く、採用するPCはそれほど増えなかった。Windows 11になり、x86/x64アプリケーションのエミュレーション機能が改善され、既存の多くのWindowsアプリケーションが動作可能になっている(Windows 11 Trends「Arm版Windows 10/11でx86/x64アプリが動作するのか試してみた」参照のこと)。
Copilot+ PCにおいては、x64プロセッサに対して先行して提供開始となり、Microsoftも自社製PC「Surface Pro」や「Surface Laptop」でArmプロセッサを採用している。
現在、Copilot+ PC向けのArmプロセッサには、QualcommのSnapdragon Xシリーズが採用されており、下表のようなプロセッサの種類がある。「Snapdragon X」は、廉価版のArmプロセッサとして提供される予定で、各PCベンダーから搭載したノートPCやミニPCが販売されることになっている。
プロセッサ名 | コア数 | キャッシュ容量 | 動作クロック | NPU |
---|---|---|---|---|
Snapdragon X Elite | 12 | 42MB | 3.4GHz/3.8GHz | 45TOPS |
Snapdragon X Pro | 8/10 | 30MB/42MB | 3.2GHz/3.4GHz | 45TOPS |
Snapdragon X | 8 | 30MB | 3.0GHz | 45TOPS |
Snapdragon Xシリーズのラインアップ |
Snapdragon X Proは、動作クロックだけでなく、コア数とキャッシュ容量が異なるプロセッサがあるので、プロセッサ名だけでなくコア数などにも注目して比較する必要がある。
●Arm搭載Copilot+ PCのメリット
MicrosoftがSurface ProなどでArmプロセッサ搭載のCopilot+ PCを先行して販売したためか、Windows 11のCopilot+ PC向け機能はArmプロセッサ搭載PCで先に有効化されるようだ。
Arm版Windows 11では、リコールとClick to Do(画面に表示されているコンテンツを認識して、関連するアクションを実行可能にする機能)を除く、Copilot+ PC向けの機能が製品版でも有効になっている。一方、x64版Windows 11では多くがWindows Insider ProgramのDev版でのテスト提供にとどまっている。
また、前述のCopilot+ PC搭載のNPUを使って「DeepSeek-R1」をローカルで実行する機能についても、今のところArm版Windows 11でしか利用できない。
Copilot+ PC向けの機能をいち早く利用したいのであれば、Armプロセッサ搭載を選択した方がよい。
以前に比べて、多くのPCベンダーがArmプロセッサ搭載のPCを販売しており、薄型軽量のものから大きな画面サイズのディスプレイを搭載するものなど、さまざまな形状から選択可能となっている。いずれもArmプロセッサの省電力性を生かして、バッテリー駆動時間が長めなのが特徴だ。
●Arm搭載Copilot+ PCのデメリット
Armプロセッサ搭載Copilot+ PCの最大のデメリットは互換性の問題だ。前述の通り、Armプロセッサであっても、x86/x64アプリケーションのエミュレーション機能によって、多くのx86/x64アプリケーションが利用できる。しかしこれも完璧ではなく、例えばVMware Workstation ProやOracle VirtualBoxといった仮想マシンソフトウェアは利用できない。
Armプロセッサのネイティブアプリケーションは、あまり多くないため、常にエミュレーション機能でアプリケーションを実行することになる。問題なく実行できるかどうかは、実際に試してみないと分からないことが多い。この点に不安を感じるのであれば、Armプロセッサ搭載Copilot+ PCは避けた方がよい。
またデバイスについても、Armプロセッサに対応したものは少ない。Arm版Windows 11が対応している(標準でデバイスドライバが搭載されている)場合は動作するが、別途デバイスドライバが必要なものについては動作しない可能性がある点に注意が必要だ。
Tech TIPS「一筋縄でいかない、Arm版Windows 11のISOファイルのダウンロードとインストールUSBメモリの作成」で解説しているように、Windows 11のインストールUSBメモリの作成も、Windows 11メディア作成ツールがArmプロセッサに対応していないため手動で行わなければならない(ファイルの分割が必要になるなどかなり面倒だ)。
このようにArmプロセッサ搭載Copilot+ PCでは、互換性の問題が生じる可能性があり、意外とストレスになることがある点には留意しておく必要があるだろう。
Armプロセッサ搭載に対して少し遅れてIntel/AMDプロセッサ搭載Copilot+ PCの提供が開始となったため、Intel/AMDプロセッサ搭載Copilot+ PCが徐々に増えているという段階だ。Microsoftも、2025年1月30日にIntel Core Ultraプロセッサ(シリーズ2)搭載の「Surface Pro」の法人向け販売を開始している。
●Intel/AMD搭載Copilot+ PCのメリット
Intel/AMDプロセッサ搭載Copilot+ PCを選択するメリットは、過去の多くの資産が利用でき、互換性が高い点にある。Windows 11向けのアプリケーションやデバイスのほとんどは、Intel/AMDプロセッサを前提に開発されており、互換性を意識する必要がない。
また、Copilot+ PCに対応したプロセッサの種類が多く、さまざまなPCベンダーから多様な製品が販売されており、選択肢が多いのもメリットとなるだろう。
Intelの場合、「Intel Core Ultraプロセッサー(シリーズ2)」の「Vシリーズ」がCopilot+ PCに対応している(「Core Ultra 7プロセッサー 258V」といったように型番の最後に「V」が付く)。一方、同じCore Ultraファミリでも、「HXシリーズ」「Hシリーズ」「Uシリーズ」は対応していないので注意してほしい。
AMDの場合、「AMD Ryzen AI 300シリーズ」がCopilot+ PCに対応している。
ただ、いずれの場合も「Copilot+ PC」と記載されているPCを選択しないと、リコールなどの機能が利用できない可能性があるので注意してほしい(搭載CPUなど個別のパーツが対応しているからといって、そのPCが対応しているとは限らない)。
●Intel/AMD搭載Copilot+ PCのデメリット
デメリットは、前述の通り、Copilot+ PCの機能がなかなか提供されない点だ。せっかくIntel/AMDプロセッサ搭載Copilot+ PCを購入しても、すぐにCopilot+ PC独自の機能が利用できないのは残念に思う人も多いだろう。今後も新機能の投入は、Armプロセッサ搭載Copilot+ PCが優先されそうなので、いち早くCopilot+ PC向け新機能が使いたい場合はArmプロセッサ搭載Copilot+ PCの方がいいかもしれない。
以前は、Armプロセッサに対して消費電力が大きいとされていたが、バッテリー容量と駆動時間の関係を見ると、あまり違いはないようだ。
Copilot+ PCは、通常のWindows 11 PCに対して要求スペックが高いため、若干価格が高めとなっている。Copilot+ PC向けの機能も、現時点ではそれほど画期的なものがないため、わざわざCopilot+ PCを購入する必要がないと考える人もいることだろう。
しかし、最近は多くの人が、購入したPCを4〜5年ほど使うといわれている。その間、MicrosoftはCopilot+ PCに対して、日進月歩で進化する生成AI機能を次々と投入していくものと思われる。いつ魅力的な生成AI機能が、Copilot+ PCに投入されるかどうかは分からない(されないかもしれないが)。その点も考慮して、Copilot+ PCの購入は検討した方がよいだろう。
また、Armプロセッサ搭載にするか、Intel/AMDプロセッサ搭載にするかについても、それぞれのメリット/デメリットを検討して選択してほしい。
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