Armプロセッサを搭載したWindows PCが登場して5年が経過しようとしている。しかし、思ったほど普及していないように感じる。省電力やモバイル通信をサポートするなどの魅力があるにもかかわらず、Arm版Windows PCが普及しないのはなぜなのか、その原因を考えてみた。背景には、Arm版Windows 10の互換性がありそうだ……。
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Armプロセッサに対応したWindows 10(Arm版Windows 10)が米国で正式に発表されたのが2017年12月のこと(日本国内では、しばらく製品の投入がなかった)。その後もLenovoやMicrosoftなどから、Arm搭載のノートPCが出荷されているものの、それほど話題にならなくなっている。
当初は、モバイル通信(LTE)対応や長時間のバッテリー駆動といったArmプロセッサのメリットが語られたが、実用上、Intel/AMDプロセッサに対して大きな優位性があるほどではなかった。また、Arm採用機種も限られており、選択の幅が狭い点も、普及の足かせとなっているようだ。
このままArm版Windows OSはフェードアウトしてしまうのか、それともハイエンド向けスマートフォンプロセッサが利用できるという数のメリットを生かして、Intel/AMDプロセッサに代わる存在になるのだろうか。
これまでもWindows OSには、MIPSやPowerPCなどx86/x64プロセッサ以外のプラットフォームに対応したバージョンが提供されてきたものの、いずれも普及には至らなかった。
これまでx86/x64プロセッサ以外のプラットフォームでは、同じWindows OSが動作したものの、アプリケーションはそれぞれのプロセッサ用に再コンパイルなどが必要であった。そのため、対応アプリケーションがそろわず、結果として普及することはなかった。
Arm版Windows 10では、この反省を踏まえたのか、x86アプリをバイナリ変換することで、再コンパイルなしにArmプロセッサ上で実行することを可能にした。これは、macOSが、PowerPCからIntelプロセッサに移行する際に実装した「Rosetta(ロゼッタ)」と同様の仕組みだ。ちなみにAppleは、IntelプロセッサからArmプロセッサ(Apple Silicon)に移行する際にも、バイナリ変換機能を「Rosetta 2」として実装している。
これにより、Arm版Windows 10では、プロセッサのアーキテクチャの違いをそれほど意識することなく、利用できるはずであった。ただ、Arm版Windows 10では32bitのx86アプリの実行は可能なものの、64bitのx64アプリは実行できなかった。
この点、筆者は少し甘く見ていた。「いまだにx86アプリも多く、x64アプリが実行できなくても、それほど困らないのでは?」と考えていた。しかし、日本語入力システムの「Google日本語入力」や、スクリーンキャプチャーアプリの「Screenpresso」といった筆者がよく利用しているアプリが、Arm版Windows 10では動作せず、意外とx64アプリを使っていることを実感した。それも、提供されているアプリがx86なのかx64なのか、実行するまで分からないケースも多くあり、これが意外とストレスを感じた。
SNSなどでArm版Windows 10を利用している人の評価を見ても、「Windows 10との互換性が低く、使えるソフトに苦労する」「プリンタが対応していない」といった点が指摘されていた。これが、Arm版Windows 10が普及していない要因の1つでありそうだ(意外と魅力的なPCが少ない、価格が安くない、といった理由もあるだろうが)。
当初、MicrosoftはArm版Windows 10でも、更新プログラムによってx64アプリの対応を行うとしていた。実際、開発バージョンを公開する「Windows Insider Program」ではx64アプリが実行可能なバージョンも提供され、テストされていた。しかし、原稿執筆時点ではArm版Windows 10上でx64アプリの対応は行われていないし、どうもx64アプリのサポートは行われないままArm版Windows 10のライフサイクルは終わってしまうようだ。
一方、Arm版Windows 11では、最初からx64アプリの対応が行われており、「Google日本語入力」や「Screenpresso」といったアプリも問題なく実行できた。「Microsoft Office(Office 365)」も、Arm版Windows 11では64bit版(x64版)がインストールされた(Arm版Windows 10では32bit版がインストールされた)。
「Google日本語入力」「7-zip」「秀丸」「Microsoft Office」「Mozilla Thunderbird」などが64bit版でのインストール、実行が可能であった。Windows OSに合わせて、インストーラーで32bit版と64bit版のいずれかをインストールするようなアプリケーションでも、ほとんどで64bit版が選択されるようになった(Arm版Windows 10では32bit版がインストールされた)。
ただ、Google Chromeの場合、インストールページからダウンロードするインストーラー「ChromeSetup.exe」では32bit版がインストールされてしまうようだ。同様に32ビット版Windows OSと認識してしまうアプリもあると思われるので、どうしても64ビット版のアプリを使いたい場合は、手動で64ビット版のインストーラーをダウンロードするなどするとよい。
64bit版をインストールしたい場合は、以下のWebページを開き、「ファイル形式」で[MSI](グループポリシーで管理するためのADM/ADMXテンプレートが必要な場合は[バンドル]を選択))を、「アーキテクチャ」で[64ビット]を選択して、[ダウンロード]ボタンをクリックして、インストーラー「googlechromestandaloneenterprise64.msi」をダウンロードする。なお、[ダウンロード]ボタンが表示されない場合は、Webブラウザのウィンドウの幅を広げること。
これを実行することで、64bit版のGoogle Chromeがインストールできる(既に32bit版のGoogle Chromeがインストールされた状態でも、これを実行することで64bit版にできる)。
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